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連載【保険ERM基礎講座】≪第11回≫

「不確実性とERM(その2)」

近年、企業経営を取り巻く環境が大きく変化し、リスクが複雑になりつつあります。デロイト トーマツ グループでは、保険毎日新聞に保険会社におけるERMつまり、「保険ERM」を分かり易く解説した連載をスタートしました。(執筆:有限責任監査法人トーマツ ディレクター 後藤 茂之)

出典:保険毎日新聞(3月3日発刊号)

≪第11回≫ 不確実性とERM(その2)

1. 保険ポートフォリオの意義

ここで保険の原理について、極めて単純なケースを想定して整理してみたい。例えば、ある個人100名の集団があり、直近1年間において、特定の危険によって、97名には損失がなかったが、個人A,B,Cに損失が発生した。その損失額は図表1のようなものであったとする。より多くの集団のデータを収集しヒストグラムを作ったところ、図表2のように分布に近似したとする。このような状況が観察されるなら、各個人から、分布の期待値(図表2の“e”)だけを徴収しプールすると当該集団の損害を補てんすることが統計学上は可能となる。

2.リスクポートフォリオ管理の実務

ポートフォリオの管理という観点から、保険会社の実務をみておきたい。大数の法則が機能し適切な分散効果が得られるようなリスクポートフォリオの形成方針は、リスクアペタイト・ステートメントに示されることとなる。そして、その方針どおりにポートフォリオが形成されているかどうかを、指標を設定しモニタリングする枠組みとして、リスクアペタイト・フレームワークが構築される。このようにして形成されるであろうポートフォリオから平均的にどのような結果がうまれるかを予測したのが、事業計画といえる。

3. 資本市場の活用

巨大な損害を引き起こす可能性がある自然災害リスクに対する保険市場の引受キャパシティは、時として過小ぎみになる。1992年に発生したハリケーン・アンドリュー (※1)をきっかけにして、資本市場にもキャパシティを求めていく取組が進められてきた。このような取り組みの中で発展してきた手段としてキャット・ボンド(Catastorophe BondとかInsurance Linked Securities)やウェザー・デリバティブ (※)等の手段があり、ART(Alternative Risk Transfer: 代替的リスク移転)と呼ばれる。

4. 市場の失敗とその対応

保険会社が安定的な危険集団を形成でき、保険商品が市場経済の下で継続的に取引されるなら、保険契約者は、保険商品を購入することにより、自分が保有している危険を効率的なコスト(保険料)で保険会社へ移転することができる 。(※3)また、保険プールを形成するためには、各種装置が必要で、そのコストは付加保険料として、価格に組み込まれることとなる。したがって、低強度の危険においては、付加保険料の比率が高くなり、商業的に魅力のある商品とならない可能性がある。一方、高頻度の危険の場合、期待保険金コストが高くなり、実際の損失に近づくこと、それに比例して管理運営コストも高くなり、保険料と実際の損失との差が縮小して保険金の分散効果が働く魅力ある商品を開発できない可能性がある。

(※1)アンドリューは、バハマ北西部、続いてフロリダ州、ルイジアナ州を襲ったハリケーンで、265億ドルの経済被害を生じた。経済損失は2005年にハリケーン・カトリーナに抜かれるまでアメリカ史上最大であった。この災害後、保険引受けキャパシティは不足した。

(※2)気温、降水量、降雪量等の気象変動や現象による収益の増減に対して、利害が相反する投資家の間で取引されるヘッジ商品のこと。

(※3)厳密に言えば、保険の市場取引は、保険者と保険契約者による相対取引が中心で、流通市場(seconderly market)は発達していない。それ故、市場メカニズムの活用は限定的ともいえる。

 

※つづきは、PDFよりご覧ください。

(PDF、1,617KB)

図表1:過去1年間の損失発生状況

図表2:多数の集団による多年度のデータに基づく1年間の累積損失の確率分布

保険ERM態勢高度化支援サービス

デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

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