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連載【保険ERM基礎講座】≪第16回≫

「戦略論とERM(その1)」

近年、企業経営を取り巻く環境が大きく変化し、リスクが複雑になりつつあります。デロイト トーマツ グループでは、保険毎日新聞に保険会社におけるERMつまり、「保険ERM」を分かり易く解説した連載をスタートしました。(執筆:有限責任監査法人トーマツ ディレクター 後藤 茂之)

出典:保険毎日新聞(5月12日発刊号)

≪第16回≫ 戦略論とERM(その1)

第16回目からは、戦略論とERMの関係性について考察いたします。

1. 戦略的リスク

戦略」という用語はさまざまに定義されているが、その本質的要素を抽出するなら、「目的を達成するためのプロセス」と定義できる。そして、戦術はそのために必要なアクションと言える。戦略の主な構成要素として、(1)期待する達成状況をビジョンとして描くこと(2)それを経営目標という価値評価可能な形で設定すること(3)その目的達成を目指し、企業内組織を事業計画や予算などによって統制すること-を挙げることができる。

企業価値を向上させるため戦略論が発達した。しかし、保険会社の戦略論はリスク管理抜きでは成り立たない。保険業は契約者の危険を受け入れ、それをプールとしてリスク管理し、災厄に遭遇した契約者に保険金を支払う業務だからである。自社が保有する危険に対する理解や管理の技術は保険業を運営するために不可欠であるが故に、これなしでの保険の戦略論はあり得ない。リスク管理と戦略推進をいかに統合して経営するかという基本方針を文書化したのが、リスクアペタイト・ステートメントである。そして、それを実践する枠組みがリスクアペタイト・フレームワークである。これらはいずれも、資本配賦、ORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)と並んで保険ERMの核をなす要素である。

2. 環境前提の変化

企業が生き残るためには、高度な政策(経営戦略)が必要である。戦略概念の源流はダーウィニズム(適者生存の思想)に行きつくと言われている。企業は厳しい環境変化に見舞われた場合、旧来の経営資源の配分を続けると変化から取り残され、生存の場を失って死滅する運命にある。このように企業戦略は、時間軸と空間軸の中で特定の生存空間(企業ドメイン)を選択し、経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)の効果的な統合・解体(創造的破壊)を繰り返して、レベルの高い価値を創造し続けなければならない。

将来環境が質的・量的に大きく変化しようとしている場合には、現在の貸借対照表をスタート点として、3~5年先を線型的に予測することはできない。例えば、今後3年程度は大きく顕在化することはないとしても、10年後は全く異なる環境前提になっている可能性が予想されるなら、10年後のストレス状況を前提にそこから現在に線を引いたものと、現時点から将来に線を引いたものとの間のギャップに着目しなければならない。(図表1参照)

3. ポジショニングに関する戦略

企業戦略には、自社が置かれているポジションと自社のリソースを重視する二つのアプローチがある。競争戦略論の初期の段階では、企業に成功をもたらす決定要因を外部環境(特に産業構造を形成する外部環境)に置いていた。それ故、戦略立案において、最も魅力的な産業やセグメントを慎重に選び、そこに重要な資源を戦略的に投入する必要が説かれている。

マイケル・E・ポーターは、競争という概念を競合他社との関係といったように狭く捉えるのではなく、各業界固有の経済構造に注目した。そして、競争や業界全体の平均収益力を支配する五つの競争要因(five forces)に着目することによって、その業界の収益性を判断できるという、産業組織論的視点に立った。ポーターの競争戦略論は、業界内において利益水準が平均利潤よりも高くなるところに自社をポジショニングし、その産業を取り巻く五つの脅威(図表2参照)を無力化し得る戦略によって競争優位を築くという枠組みである。

 

つづきは、PDFよりご覧ください。

(PDF、1,684B)

図表1 戦略的リスクの存在

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デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

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