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連載【保険ERM基礎講座】≪第18回≫

「戦略論とERM(その3)」

近年、企業経営を取り巻く環境が大きく変化し、リスクが複雑になりつつあります。デロイト トーマツ グループでは、保険毎日新聞に保険会社におけるERMつまり、「保険ERM」を分かり易く解説した連載をスタートしました。(執筆:有限責任監査法人トーマツ ディレクター 後藤 茂之)

出典:保険毎日新聞(6月9日発刊号)

≪第18回≫ 戦略論とERM(その3)

第18回目からは、戦略論とERMの関係性について考察いたします。

1. 戦略のパラドックス

マイケル・E・レイナーは、戦略に係るパラドックス について説明している。この状況を要約すると次のとおりである。「最も有効な戦略とは、将来に最も即した深いコミットメントに基づく戦略である。この場合、将来は不確実であり、どうなるかは誰にも分からないが、そのコミットメントは今日行わなければならない。しかしながら、精緻に立案された戦略コミットメントを推進することが成功の保証にはならない。会社が推進する戦略は、あるシナリオを予見して、そのシナリオに特化した上で、その実現のために有限の資源を投入するというコミットメントを意味する。ただ、たとえ経営がその戦略に深くコミットメントしたとしても、それ自体が、無数の可能性のある将来のシナリオの中から自ら選んだシナリオの実現可能性を高めることにはならない。なぜなら、将来のシナリオは、経営がコントロールし得ない無数の不確実な要素に影響を受け、予期せぬ方向へと導かれる可能性は大きいからである。」

2. 戦略の柔軟性

本パラドックスの教訓は、戦略を成功させようとすると、強いコミットメント(堅牢性)が必要だが、同時に読み通りにいかなかった場合の代替戦略について、常に考えておかなければならないといった点であろう (柔軟性の確保) 。堅牢性と柔軟性は、基本的にトレードオフの関係にある。大きなコミットメントのケースにおいて、その前提が変わった場合には、即座に変更・適応することはできないのが普通である。資産運用の世界において、市場が予想外の動きをした場合に備える方法として、オプションという手段がある。通貨・債券・株式などについて、一定の期間内、または一定の期日に、あらかじめ定めた価格で買う権利あるいは売る権利を売買する取引のことである。同様の考え方で、事業ポートフォリオに適用したリアルオプションというアプローチがある。これは、戦略策定後もリスク構造を常にモニタリングし、不確実性が当初、想定していた戦略前提を大きく変えた場合、柔軟に対処するためのアプローチである。

3. 創発的戦略と計画的戦略

企図された通りに物事が進行しない場合もある。その兆候は、現場活動の中から気付くことが多い。日々の業務の中での発見を戦略に取り入れる重要性から、戦略論では、初めから意図され計画されたものだけではなく、現場の行動の一つ一つが集積され、その都度学習する過程で戦略の一貫性やパターンが形成されていくタイプの創発的戦略(emergent strategy)の重要性も提示されている。大胆な戦略推進には、トップダウン型の計画的戦略(deliberate strategy)が不可欠となるが、成功への実効性を担保するためには、この2つの戦略が補完し合い、実践の中から生まれる戦略が同時に重視されなければならない。(図表参照)

 

つづきは、PDFよりご覧ください。

(PDF、1,033KB)

図表:計画的および創発的戦略

出典:ヘンリー・ミンツバーグ、ブルース・アルストランド、ジョセフ・ランベル『戦略サファリ』齋藤嘉則訳、1999年、東洋経済新報社、13ページ

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デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

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