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連載【保険ERM基礎講座】≪第29回≫

「パラダイムシフト(その4)」

近年、企業経営を取り巻く環境が大きく変化し、リスクが複雑になりつつあります。デロイト トーマツ グループでは、保険毎日新聞に保険会社におけるERMつまり、「保険ERM」を分かり易く解説した連載をスタートしました。(執筆:有限責任監査法人トーマツ ディレクター 後藤 茂之)

出典:保険毎日新聞(11月24日発刊号)

≪第29回≫ パラダイムシフト(その4)

1. 技術革新とリスク社会の変化

以前は2年の寿命はあった新しい技術でも、今では6カ月もたてば古くさい技術になる。今日の製造業では、第4次産業革命(インダストリー4・0)とも言われる変化が進んでいる。技術の進歩が従来の生産プロセスのロジックを逆転させるといったパラダイムシフトが起こっている。またデジタル、フィジカル(物理的)両面の技術革新が統合する中で、産業機械は製品を加工するだけでなく、製品とのコミュニケーションを通じて実行すべき作業を自ら正確に判断できるようになるともいわれている。このようにどんどん新しい技術が登場する結果、製造プロセスで発生した事故のインパクトも変化する。保険事故の発生形態を変え、リスクの態様を変えてしまう。新しい技術は、社会の仕組みも変えていく。ビジネスエコシステムと呼ばれる、「連携と競争の両方を通じて新しい価値を創造・確保する多種多様な動作主体で構成される動的かつ共進化するコミュニティー」が創造されようとしている。このように、発想と可能性の多様化が社会を変革しようとしている中で、われわれのリスクを見る視点も変えていく必要がある。・・・

2. 保険ビジネスモデルへの影響

デジタル技術の革新は、保険契約者の選好や行動、保険募集に関わるコミュニケーション方法を変えていく。新技術が社会を変え、リスクを変える。保険の商品設計、リスク評価も変化する。欧米で実施されているテレマティクスに基づく利用ベース保険(Usagebased insurance)商品の導入は、車載監視装置から収集されたデータを分析して、保険引受モデルや価格設定モデル、およびマーケティング戦略や顧客サービス戦略の変革を生む。個人に直結した新たなデータに基づく価格付けは、保険プールの区分を変更することにもなる。無人自動車の開発は、感知装置によるブレーキ操作や衝突防止装置など安全技術の急速な進歩によって可能になったものであるが、運転技術の高い個人自動車保険の価格を低下させた。また、自動運転車は、事故の責任主体を、運転をしなくなった所有者から、メーカーやソフトウエア会社へとシフトさせる可能性もある。・・・

3. 新技術に対する規制

一般に、目新しい技術や製品が登場すると、「礼賛」と「反発」の二つの意見に分かれる。そして社会との間で摩擦や軋轢(あつれき)を生むこともある。このような環境の中で、規制当局も新たな課題に直面する。変化のテンポが速く複雑さを増す社会の中で、規制当局は市民と公正な市場を守る必要があるが、規制はイノベーションや産業創出の芽を摘むとの批判もある。阻害と保護の間でバランスを取る難しさがある。つまり、規制のタイミングが早すぎれば、イノベーションを阻害するリスクを冒すことになる一方、規制のタイミングが遅すぎれば、消費者や市場に害を及ぼすこととなる。IoTにより、データの取得と無線通信を可能にするために必要なマイクロチップは非常にコストパフォーマンスが高く、各種接続機器において当たり前に使用されるようになった。そしてこれが原因で、プライバシーの問題に規制当局は直面することとなる。・・・

 

つづきは、PDFよりご覧ください。

(PDF、1,697KB)

保険ERM態勢高度化支援サービス

デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

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