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連載【保険ERM基礎講座】≪第8回≫

「意思決定の科学(その2)」

近年、企業経営を取り巻く環境が大きく変化し、リスクが複雑になりつつあります。デロイト トーマツ グループでは、保険毎日新聞に保険会社におけるERMつまり、「保険ERM」を分かり易く解説した連載をスタートしました。(執筆:有限責任監査法人トーマツ ディレクター 後藤 茂之)

出典:保険毎日新聞(1月14日発刊号)

≪第8回≫ 意思決定の科学(その2)

第7回目からは、意思決定に介在するリスク(バイアス)への対処と合理性の担保について考察いたします。

1. 意思決定の合理性とバイアス

われわれは、日常生活でも将来に対するシナリオについて決定的な情報を得ることはない。これは、われわれが予測を行うとき、過去のデータや経験を頼りにすることが多いからである。将来の事象は過去と完全に一致することはない。仮に予想が的中した場合、それはむしろ偶然ともいえる。従って、われわれは将来についてこのようなある意味不十分な情報の下で、なんらかの意思決定を下す必要に迫られていることとなる。そのような中で、われわれは事象の「起こりやすさ」の程度を表す情報(確率)を活用して意思決定を行うことが多い。ここでいう予測とは、統計学でいう、「一定の確率で○○から××の範囲になる」というものである。従って、将来の予測値と現行会計における収益や費用のような確定値とは区別しなけばならない。また、将来キャッシュフローを見積もり、その過程の下で戦略論議をする際、そのシナリオどおり事実が展開することはほとんどない、という認識も重要である。…

2.本質への肉薄

未知の事象に対して、部分的解明を試み、その知見を活用してさらなる課題解決にあたるという科学的アプローチは、われわれの歴史の中で繰り返され、多くの成果を挙げてきた。同時に歴史は、人がその基本的な発想の枠組みを転換する難しさも教えている。典型的な例はかつての天動説であろう。地球から見ると、月や太陽が等速の円運動をしていることから、当時ごく自然な考え方として受け入れられた。ただ惑星の動きを観察すると、時として動きを止めたり、西から東へ逆走したりする事実に直面しそれを適切に説明できない。このような不規則な動きを説明するため、各種の修正(一種のパラメーター操作)を施し補強の努力をしたわけであるが、結局は、前提自身を修正し、地球も太陽の周りを回っている、と考えなければ説明できなくなった。

3. 限定合理性

人が一度に扱える情報量はわずかしかないという。心理学的には、一度に考えることのできる上限値はわずか5~9項目ともいわれる。情報量がそれ以上になると頭に入らずこぼれ落ちはじめる。ハーバート・サイモンは、人の情報処理能力の範囲内で処理するために、実際的な処理方法を見出していく、と説明する。具体的には、例えば、決定のための要素をいくつか無視し、残した要素に集中して意思決定をする。または、最高の選択を追求するのは諦める。つまり十分満足である選択肢が見出されればそれ以上の探索はやめる、というものである。人のこのような特性のことを、完全に合理的ではないが、そこそこ合理的である、という意味を込め「限定合理性」と呼んでいる。

4. 合理性を阻害する企業文化

前述したとおり、個人の合理的判断には限界がある。また、複数の人で構成する組織の意思決定においては、さらに複合的な要素が絡むこととなる。…

 

※つづきは、PDFよりご覧ください。

(PDF、1,545KB)

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