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認可特定保険業者の決算対応と今後について

認可特定保険業者は、保険会社や少額短期保険業者と同様に、ディスクローズ資料の作成と縦覧が求められます。

「根拠法のない共済」から認可特定保険業者に至る道筋を述べ、次に、認可特定保険業者の決算対応において留意すべき点として、ディスクローズと他業の区分経理について述べます。最後に、まとめとして、今後の見通しについて述べます。

1.はじめに

2013年11月末に公益法人が行っていた共済(保険)について保険業法適用の経過措置が終了し、特定保険業を継続することの認可を受けた法人(認可特定保険業者)の多くは2014年3月期に、認可特定保険業者としての初めての決算を行うことになると考えられます。
本稿では、まず、「根拠法のない共済」から認可特定保険業者に至る道筋を述べます。次に、認可特定保険業者の決算対応において留意すべき点として、ディスクローズと他業の区分経理について述べます。最後に、まとめとして、今後の見通しについて述べます。
なお、本稿に記載された意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りしておきます。

2.「根拠法のない共済」から認可特定保険業者に至る道筋

2005年改正以前の保険業法では、「保険業」は、「不特定の者を相手方として、保険の引受けを行う事業(他の法律に特別の規定のあるものを除く。)」と定義されていました。そのため、共済会等を組織して、特定(共済会の会員)の者を相手方として保険(共済)の引受けを行う場合は、保険業の適用除外であるという解釈も可能でした。上記のようないわゆる「根拠法のない共済」では、所管官庁がなく規制も行われていなかったため、その募集方法や財務状況等に関して、国民生活センター等に相談が寄せられるようになりました。
このような状況を踏まえ、「保険業法等の一部を改正する法律」(平成17(2005)年法律第38号、以下「2005年改正保険業法」)で、保険業の定義から「不特定多数の者を相手方として」との要件が削られました。
2005年改正保険業法により、特定の者を相手方として保険(共済)の引受けを行っていた法人(団体)の移行形態の一つとして、少額短期保険業者制度が新設されました。
一方、保険(共済)を営む公益法人については、2005年当時、改正前の民法の規定により主務官庁が公益法人の業務を監督していたことから、当分の間、募集規制に関する保険業法の規定のみ適用しつつ、共済事業(特定保険業)を運営できる経過措置が設けられていました。(2005年改正保険業法附則第5条)
ところが、2006年に公益法人制度改革が実施され、2013年11月末に主務官庁による公益法人の業務の監督が廃止され、これに伴い、保険(共済)を営む公益法人に対する経過措置も終了することになりました。
この時点では、公益法人の保険(共済)の移行形態としては、保険業免許の取得、少額短期保険業者登録、制度共済(事業協同組合、消費生活協同組合)が想定されていました。
(金融庁WEBサイト「公益法人が行う保険(共済)事業について ~保険業法との関係~」(2008年12月1日、一部改訂2009年5月13日))
ところが、2010年に「保険業法等の一部を改正する法律」(平成22(2010)年法律第51号、以下「2010年再改正保険業法」)により、2005年改正保険業法が更に改正され、2005年改正保険業法の公布日(2005年5月2日)時点で特定保険業を行っていた団体等のうち、一定の要件に該当するものについては、行政庁の認可を受けることにより、当面の間、特定保険業の継続が可能となりました。
この行政庁の認可を受けて特定保険業を継続する団体等が「認可特定保険業者」です。

3.認可特定保険業者のディスクローズ

認可特定保険業者は、保険会社や少額短期保険業者と同様に、ディスクローズ資料の作成と縦覧が求められます。
具体的には、2005年改正保険業法附則第4条により読み替えられる保険業法第111条等に規定されるところにより、認可特定保険業者は、業務及び財産の状況に関する事項として認可特定保険業者等に関する命令(平成23(2011)年5月13日内閣府令・総務省令・法務省令・文部科学省令・厚生労働省令・農林水産省令・経済産業省令・国土交通省令・環境省令第1号、以下「命令」)で定める事項を記載した説明書類(ディスクローズ資料)を作成し、その事務所に備え置き、保険契約者の縦覧に供することが求められています。
(なお、保険会社や少額短期保険業者がディスクローズ資料を縦覧に供する対象は、「保険契約者」より広く「公衆」となっています。)
 また命令第35条第1項では、認可特定保険業者は事業年度終了後4月以内に、ディスクローズ資料の縦覧を開始することが規定されています。 

4.認可特定保険業者の他業と区分経理

少額短期保険業者は、少額短期保険業及びこれに付随する業務以外の業務(他業)を営むことは、内閣総理大臣の承認を受けたときを除いて、禁止されています。(保険業法第272条の11)  認可特定保険業者についても、2005年改正保険業法附則第4条第1項で、保険業法第272条の11を、「内閣総理大臣」を「行政庁」に読み替えて適用することとされています。
 また、2005年改正保険業法附則第4条第6項では、特定保険業(これに附帯する業務及び保険代理業を含む)に係る会計と上記の行政庁の承認を受けた他業に係る会計と区分して経理しなければならないとされています。
 更に、2005年改正保険業法附則第4条第7項では、

•特定保険業に係る会計から他の業務に係る会計へ資金を運用すること
•特定保険業に係る会計に属する資産を担保に供して他の業務に係る会計に属する資金を調達すること

を行政庁の承認を受けない限り行ってはならないとされています。
 

5.早期是正措置とソルベンシー・マージン比率

認可特定保険業者においては、保険会社や少額短期保険業者と同様に早期是正措置が導入されています。具体的には、当局が保険会社等の健全性を判断し、必要に応じて、是正措置命令を発動するものです。
さらに、2005年改正保険業法附則第4条第10項において、早期是正措置に関する基準として、ソルベンシー・マージン比率を用いることが規定されています。
(同様の規定が、保険会社や少額短期保険業者にも存在)
ただし、
"認可特定保険業者の行う特定保険業の事業特性を踏まえ、当面はその多様な業務の実態把握を優先すること"
(出典:金融庁「認可特定保険業者向けの総合的な監督指針」II  認可特定保険業者の監督にあたっての評価項目 II -2 財務の健全性 II -2-2 早期警戒制度 II -2-2-1 意義)
とされているため、認可特定保険業者については、本稿の執筆時点においては、具体的なソルベンシー・マージン比率の算出方法が規定されていません。
 

6.今後の見通し

上記5. 早期是正措置とソルベンシー・マージン比率の項でみたように、認可特定保険業者の法制については、今後も改正されていく可能性があります。
また、2010年再改正保険業法の附則第4条では、

"政府は、この法律の施行後(引用者注:2010年再改正保険業法の施行日は2011年5月13日)五年を目途として、この法律による改正後の規定の実施状況、共済に係る制度の整備の状況、経済社会情勢の変化等を勘案し、この法律に規定する特定保険業に係る制度について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。"

とあることから、認可特定保険業者に留まらず、少額短期保険業者も含めた法制の再編の可能性も考えられます。
今後も、認可特定保険業者及び少額短期保険業者の法制の動きが注目されるところです。

著者: 金融インダストリーグループ 相原 浩司

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