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開催レポート:デロイト トーマツ 金融ビジネスセミナー2022
氷山の一角:テクノロジーがもたらすシステミック・リスクとイノベーションの役割
デロイト トーマツ グループは、「氷山の一角:テクノロジーがもたらすシステミック・リスクとイノベーションの役割」をテーマに掲げ、今年で8回目となる「デロイト トーマツ 金融ビジネスセミナー2022」を2月9日に開催しました。
本セミナーでは、先般デロイト グローバルが世界経済フォーラム(WEF)と共同執筆した最新レポート “Beneath the Surface: Technology-driven systemic risks and the continued need for innovation”の紹介の他、コンポーザブルなアーキテクチャによるイノベーションの創出やアジャイル変革が組織に与える影響、エンゲージメントを促進するサスティナブルファイナンスの方向性といった事例を紹介し 、デジタルアセットを利用した価値の移転の進化についての考察もお話ししました。以下に講演内容のサマリーをご紹介します。
WEF(世界経済フォーラム)との共同レポートに基づく考察
デロイト トーマツ グループ
金融インダストリーリーダー パートナー 福井 良太
WEFとの共同レポート “Beneath the Surface: Technology-driven systemic risks and the continued need for innovation”では、テクノロジーがもたらした金融エコシステムの力学変化により、システミックリスクが増幅していることが示されている。
これらシステミックリスクの緩和策を検討するため、「デジタルにおける相互依存」、「モデルの脆弱性」、「事業者ベース規制のギャップ」、「相反する各国の優先順位」、「新たな影響力」、「金融排除の新たな要因」という6つのリスクテーマを挙げ、それぞれのテーマごとにリスクを理解し、管理手法を再考する必要がある。
これまでのシステミックリスク発生の震源は金融システムの主体者である金融機関であったが、テクノロジー活用の進展により金融システムの参加者が多様化・複雑化することで、震源もまた多様化・複雑化している。では、どのようにしてこのシステミックリスクに対応することができるのか?
テクノロジーを組み合わせて活用すれば、複雑化しているリスクを予測し、より能動的にリスクに立ち向かえるようになる。また、システミックリスクへの対応は、「防御」として有効なだけでなく、新たな成長ドライバーやDX実践機会に繋がる取り組みになる。
Beyond the Innovation Platform 〜コンポーザブル・アーキテクチャによるイノベーション創出〜
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Products & Solutions パートナー 宮下 和浩
金融インダストリー Digital Transformation & Innovation シニアマネジャー 丸山 由太
本セッションでは、テクノロジーを活用し先進的な取り組みを実践している企業のユースケースが紹介された。
機動性と柔軟性を確保している企業は、自社のビジネスやサービスを分解・組み替えることで、新しいサービスを自由自在に作り上げている。このようにコンポーザブルな部品を組み合わせてエコシステムを作ることで、開発やサービスインまでの期間を短縮でき、コスト削減効果も見込める。
今回、コンポーザブル型のシステム開発のショーケースとして紹介された英国大手銀行は、旧来のインターネットバンキングサービスしか提供できておらず、シェアが低下し続けていた。そこでアンケートを実施し、中小企業や個人事業主などの顧客に資金管理の省力化・効率化したいといった潜在ニーズがあることを突き止めた。また、キャッシュフロー分析や支出予測だけでなく、資金ショートが見込まれる場合には、借り入れの自動提案をする機能などを実装したサービスを開発。要望が多い機能から順次実装し、顧客にプロトタイプを見せつつ、顧客の声を取り込むサイクルを継続的に行うことで、シェアの拡大を実現した。
さらに欧米の大手銀行では、勘定系システムにもコンポーザブル・アーキテクチャを採用し、高度な仕様変更の対応などもスピーディーに実施している。
このように、既存サービス機能を組み合わせ「できるだけ作らない開発」を行うことで、短期間でローンチし、顧客ニーズを満たしつつシェアを拡大しているケースは増えている。
このようなコンポーザブル・アーキテクチャを実現するには「ConvergePROSPERITY」というアセットが効果的だ。
ConvergePROSPERITYは、さまざまな金融機関に対するデロイト トーマツ グループの支援実績をアセット化したもの。短期間でコンポータブル・アーキテクチャを構築でき、競合企業よりも素早いサービス開発を実現する。
ConvergePROSPERITYは、金融機関が法人ポータル上で商品サービス手続きや非金融サービスをワンストップで提供したり、地域の産業の活性化や銀行機能を他社に提供したりする際のデジタル基盤としても活用されている。コンポーザブル型のシステム開発を行うために不可欠なアセットだ。
デジタル時代を生き抜く経営のリズム 〜アジャイルを如何に組織に取り込むか
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
金融インダストリー Digital Transformation & Innovation ディレクター 岩濱 数宏
デロイト トーマツ グループでは、国内外の多くの金融機関に対し組織的なアジャイルケイパビリティの強化をテーマに支援している。
予測不可能で不安定な「VUCA」と呼ばれるこの時代、過去と現状から未来像を描き、計画を立ててその実現を目指す従来型のやり方が通じない。
しかし予測不可能な状況であっても、他社に先んじて動くことで好機を掴むことはできる。そういった企業が実践しているのがPlan-DrivenからFeedback-Drivenへの移行で、そのために必要なのが「アジャイル」だ。
アジャイルは開発プロセスとして捉えられがちだが、ここでは、顧客ニーズを素早く満たすことで企業価値を高める「働き方」を指す。そのためには、価値の中心を①プロセスやツールから「個人と対話」に、②包括的なドキュメントから「動くソフトウェア」に、③契約交渉から「顧客との協調」に、④計画を遂行するから「変化への対応」に、それぞれシフトしていく「働き方」を組織に取り込む必要がある。
グローバルで見ると、組織的にアジャイルケイパビリティを獲得・強化していくという動きは、金融機関が先行しており、国内金融機関においてもアジャイルに関する取り組みが本格化してきている。実際にアジャイル人材の育成やアジャイル開発部隊の立ち上げにとどまらず、新たな予算制度の導入やオペレーティングモデルの導入を進めている企業も出てきた。
とはいえ、企業変革を一足飛びに実現することはできない。仕組みや制度、何よりも社員の意識や行動様式などを変えていく必要がある。変革を進める上でアジャイルの考え方を取り込み、ケイパビリティを強化していくアプローチが重要となるのだ。
外部の力をうまく活用し、企業変革を実現する方法もある。この時、注意しなければならないのは、最終目標が自社のケイパビリティ強化であるということを忘れないこと。すべてを外部任せにすることなく、真の意味で自社のケイパビリティの強化を支援してくれるパートナーを見つけることが重要だ。
エンゲージメントを促進するサスティナブルファイナンスとは
エンゲージメントを促進するサスティナブルファイナンスとして、「CO2の算定から削減へ」、「ESGガバナンスの深化」、「気候変動対応のOperating Model」という講演が行われた。それぞれについて紹介しよう。
「CO2の算定から削減へ」
有限責任監査法人トーマツ
シニアマネジャー 大坪 護
金融機関は、自社のGHG排出(スコープ1-2)に加え、事業活動から発生する排出(スコープ3)をセクターごとに計測する必要がある。つまり、投融資先企業が排出している温室効果ガスについても、金融機関が把握・計測しなければならないのだ。それらの把握方法や計測方法について説明し、把握したデータを使って炭素効率を集計しポートフォリオに割り振ることで、投融資先企業の温室効果ガスの削減に寄与する取り組みについて説明した。
「ESGガバナンスの深化」
有限責任監査法人トーマツ
シニアマネジャー 鶴渕 広美
現在、金融機関においてサスティナビリティへの取り組みが急務となっている。金融庁が策定したコーポレートガバナンス・コードが2021年6月に改定され「サスティナビリティに係る課題への取り組み」が追加されたことで、サスティナビリティ課題の解決や取り組みに対する意識が一層高まっているためだ。
サスティナビリティを企業経営に組み込み、体系立てて推進していくためには、新たなガバナンスフレームワークが必要になる。デロイト トーマツ グループではチーフサスティナビリティオフィサーや監査委員会へのインタビューに基づき、サスティナビリティに関して業務執行部門が直面している課題やそれを解決するための機会、各部門に期待される役割などを考察。パーパスを起点とし、1線、2線、3線に加え、ガバナンス機関それぞれが一貫した取り組みのもと、機能を発揮し企業体系を作り替えていく必要がある。デロイト トーマツ グループでは、ESGを含むサスティナビリティガバナンスは深化の局面にあると見ている。
「気候変動対応のOperating Model」
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Environment & Central Government パートナー 丹羽 弘善
気候変動対策は、超長期の予測となることに加え、市場でコンセンサスが取れていない複数のシナリオが存在しており、不確実性が高い。そのため、複数の評価パラメータが存在し、セクターによって影響が異なるといった課題もある。外部環境の変化をモニタリングし、グループ全体で共有し、あらゆるシナリオの中で対応していく必要がある。
持続的企業価値向上を目指すには、財務・非財務の管理基盤に外部環境動向のインテリジェンス機能を統合したESGデータドリブン経営を実践していかなければならない。それには、社内にガバナンスを効かせて社外に適正な情報を発信し、企業戦略を変えていく必要がある。
そのためには、①企業価値向上に資する財務/非財務ドライバーを独自に分析しフィードバックするアナリティクス機能の構築、②定量/定性データから長期的な外部環境動向の兆候を見い出すためのAIを活用した包括的情報取得・分析機能の構築、③連結グループ企業の財務/非財務情報に関する統合データプラットフォームの構築、④将来監査に堪え得る財務/非財務情報の取得・管理プロセス/内部統制の構築、⑤企業価値向上に最適な開示ルールの選択と開示に関する一連のプロセス及びインフラの構築が必要だ。
これらのデジタル変革・経営基盤変革を早い段階で取り入れるか否かが、企業価値を左右する。ESGに関するデータドリブンな経営基盤を作ることが重要となる。
Future of Value Transfer
デロイト アジア パシフィック
金融インダストリーリーダー Tim Pagett
デロイト トーマツ税理士法人
パートナー Samuel Gordon
現在、金融サービスという領域で大きな変革が起きている。デジタルが活用され、データの価値も大きく変わってきているのだ。これまではデータを「所有」していることが大きな意味を持っていたが、今後は、誰がデータへのアクセスコントロールを持っているかが重要になっていく。
デロイトでは、今後、データが新しい顧客価値を生み出すバリューウェブへ移行していくと予測。バリューウェブの世界では「何をやったか」ということに価値が置かれ、活動やプレゼンス、立ち位置によって価値が創造できるようになる。また、顧客中心主義からエンパワーメントへの移行が進み、消費者や業界の定義や役割の境界線が曖昧になっていくだろう。
日本の金融サービス機関は、台頭しつつある新しい経済に対してバリューウェブをどのように適用していくのか、また、そこから生まれる新しいマーケットやサービスがどうなっていくかということを考える必要がある。バリュートランスファーの未来に向けた金融機関の役割や、ビジネスモデル、プロダクト、テクノロジーの意思決定について検討していかなければならない。