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米国における高齢人材管理のトレンドから読み解く日本企業への示唆
Global HR Journey ~ 日本企業のグローバル人事を考える 第十三回
人生100年時代の到来により、日本をはじめとする主要経済大国では長寿化と労働力の高齢化が進んでいる。世界最大の経済を誇る米国もこの例外ではない。今回は米国の高齢労働者と企業の対応状況を紹介し、その上で日本の高齢労働者活用に関しても触れたい。
重要性の増す高齢労働者
日本では定年延長や再雇用を多くの企業が導入しており、「60歳定年」が崩れはじめているが、もともと米国では一部の公共性の高い職業を除き定年制度が無い。労働者がリタイアするのに一般的とされる年齢は、公的年金を受給開始できる62歳から、高齢者向け公的医療保険の対象となる65歳あたりであるが、近年においては、これらの年齢を超えても何らかのかたちで働き続ける高齢者の数が増えている。US Department of Labor(連邦労働局)が発表した最近の調査によると、労働者全体に占める55歳以上の労働者の比率は1994年の時点で10人中1人であったが、2024年までにこの比率が4人に1人になると予測されている。
高齢労働者が増えている背景にはいくつかの理由がある。まず、長寿化が進んだことで、リタイア後の人生が長くなる傾向にある。しかしながら、残された人生を経済的に支えていくための蓄えが十分でなく、高齢になっても仕事を続ける必要性がより高まっている。米上院特別委員会による「高齢労働者に関する調査」(2017年12月)では、55歳以上で25万ドル以上の資産(固定資産・年金を除く)を有する者は、この層全体の4分の1に満たないと報告している。
また、同調査によると、ベビーブーマー世代(1945年から1960年生まれ)の85%は、経済的にリタイアすることができる選択が現時点であろうがなかろうが、70代、あるいは80代になるまで働き続けたいと考えている。今の60歳はこれから平均15年にわたり生産的でいられる人生を残している。仕事・リタイアメントに関する考え方そのものが変わってきており、多くは働かずに悠々自適の生活を送るよりは、働くことを通して人生を充実させることを求めている。
高齢労動者プールは、人材獲得競争が激しくなる労働市場において、人材供給を補うものとして企業にとって魅力がある。米国の労働需要は高く、2018年12月時点で99か月連続して職に就く人の数が増加し、2018年中だけでも264万人が仕事に就いた。また、失業率は2018年12月時点で過去の標準と比較して低い水準である3.9%であり、労働需要の高さをうかがわせている。このような労働市場の状況下で、経験の豊富な高齢労働者が人材需給のギャップを埋めるものとして期待されている。
また、高齢労働者の魅力として、年齢を重ねるごとにエンゲージメントレベルが上がる傾向があり、ベビーブーマーは、他の世代よりも高いエンゲージメントレベルであることが複数の調査により報告されている。さらに、高齢労働者は、長年従事してきた職務に関連した専門性スキルや人生経験・知恵に支えられたリレーションシップスキルを有し、豊富な組織ナレッジの提供、良き組織人としての行動ができる傾向が強い。
このようなスキル・行動様式を有した高齢社員は、高齢カスタマーとエンゲージする(つながりを深める)ことができ、顧客獲得・リレーションシップ向上に力を発揮し、成長する高齢者市場でのビジネスの成功に貢献できる。米国の高齢者市場は大規模であり、2015年時点において50歳以上の層による消費総額は5.6兆ドルで、50歳未満による消費総額 4.9兆ドルを上回っている。
米国企業の取り組み
競争上の有利性をもたらす可能性の高い高齢労働者だが、経営側は必ずしも明確な対応法を有していないことが各種調査からうかがえる。SHRM (Society for Human Resource Management: 人事管理協会)が2016年に実施した調査によると高齢労働者の活用を検討していると回答した企業は17%にとどまった。また、大多数ではないが、20%の企業が、高齢労働者を雇用することは企業にとって不利であると回答した。
一方で、積極的な企業は高齢者の人材プールを有効活用することを試みている。高齢労働者とはどのような人たちであり、何にやる気を起こし、どのようなビジネス機会を提供しているかを積極的に理解し、人材マネジメント・ワークフォース戦略における差別化を図ろうとしている。
高齢労働者を理解し、適切に有効活用する助けとするために、デロイトは高齢労働者が働く上での形態として存在する以下6つのタイプを特定した。
• ブリッジ・ワーカー
• 正社員
• ギグ・ワーカー
• 個人事業主
• アルムナイ・ワーカー
• アンコール・ワーカー
以下の表は高齢労働者の各タイプの概要と特徴についてまとめたものである。
それぞれのタイプに属する高齢労働者が何に動機づけされる傾向が強いのかを理解することで、どのような勤務アレンジメントが適切と考えられるか検討し、高齢社員プールの中の求める人材を引き付けるように試みることができる。
先進的な企業では、高齢社員がもたらす価値を取り込むために職務を設計し直し、さらに職場への物理的なアクセスの検討を含めたWorkplace(職場)の再設計をしている。また、段階的なリタイアメントプログラムや柔軟な報酬制度を提供している。高齢労働者が新しい職場に馴染めるよう工夫したオンボーディングプロセスを設定し、再訓練のためのクリエイティブなアプローチを採用している。
日本企業への示唆
米国では、以上までみてきたように競争優位性を得るために高齢者をうまく活用しようとするトレンドがうかがえるが、一方で日本企業へ目を転じると、米国の状況とは多少異なり、高齢労働者を競争優位のために活用するという意識が薄いようだ。
米国の労働市場はジョブ型であることで、労働者の有するスキルと市場での報酬価格の折り合いがつけやすい。また、高齢労働者がそれぞれの事情や志向に合わせることのできる多様な雇用形態が日本と比べ多くあるので、働く機会をより見つけやすい。
「日本型雇用システム」の場合、正社員ならどのようなジョブにも柔軟に適応させ、入社から定年まで、様々な仕事・勤務地への異動を命令できる。このようなシステムは、外部労働市場における業務内容の価値を劣化させるというリスクを内在している。その結果、米国と比べると高齢労働者の有するスキルや特性を活かせる働き方の機会を失わせている度合いが高いと考えられる。これは日本では、内部労働市場から外部労働市場へ追い出された定年退職者の行き先が限定されていることに端的に表れている。
2016年に日本政府が「日本一億総活躍プラン」に示したデータでは、高齢者の7割近くが65歳を超えても働きたいと考えている。働き手がその職種をこなす能力を十分に有し、労働力が働き手と企業の間で公平に取引されるといった環境が整えられれば、高齢労働者もより力を発揮し、貢献できる度合いが高まる。労働者の高齢化が進む中、日本企業と日本の労働力の競争力を向上させるためには、雇用制度や労働市場に根本的な改革を起こし、本格的に高齢者雇用の市場を創り出すことが必要になるだろう。
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