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従業員間の繋がりやコミュニケーション可視化

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらす組織・人事の新たな潮流 第4回

COVID-19によりリモートワークが広がる中、非対面で顔の見えないやりとりが増えたことで、従業員の不安・不信やストレスが高まっている。本稿では、実際にリモートワークによる従業員の心身の不調の声をきっかけに、従業員間の繋がりやコミュニケーションの変化を可視化・把握することで、従業員間のコミュニケーション活性化を図った企業の例を紹介しながら、従業員が健康かつ生産性高く働ける環境づくりの意義や方法を提案する。

COVID-19によるコミュニケーションへの影響

COVID-19の広がりにより、感染対策として三密を避けるため、時差出勤やリモートワークが推奨され、それに伴って働き方は大きく変化した。

通勤時間の削減やフレックスに時間を活用できることでプライベート充実化が進んだ従業員も多いと聞く。他方、リモートワークにより、従業員の社内コミュニケーションにおいては新しい課題が出てきている。オフィスへ出社していた際には立ち話やランチ・飲み会時に自然発生していた気軽な会話が減り、非対面で顔の見えないやりとりが増えたことで、「コミュニケーション相手の気持ちが分かりづらい」「さぼっていると思われないか」「正当・公平に評価されているか」といった従業員の不安・不信やストレスを高めている。とりわけ、新規・中途入社者や異動によって新しい組織へオンボーディングする従業員、仕事上特定の従業員とのみ接点をもつ従業員にとって、これらのストレスは自身が組織の中で孤立感を抱かせる恐れも含んでいる。

リモートワークができる環境が整備された企業においては、コロナ収束後もオフィスへ回帰するのではなく一定リモートワークを続けることが想定される。従業員によるリモートワーク継続希望の声も多い。そうした中で、従業員のリモートワークにおける不安・不信やストレスを少しでも解消し、健康かつ生産性高く働ける環境づくりが必須である。そのために、2020年は試行錯誤をしつつ暫定的に進めてきたリモートワーク整備について今一度見直しを図り、ITツールや制度の整備に加え、従業員の繋がりやコミュニケーションのあり方についても一考する必要がある。

 

リモートワークにおける従業員間の繋がりやコミュニケーション可視化の意義

オフィスで従業員が日々顔を合わせて仕事をする環境においては、経営や管理職は、以下のように従業員間の繋がりやコミュニケーションを把握し、事業・組織運営や人材マネジメントに活かすことができていた。

  • 他部門での会議は実施されているか?他部門とのコミュニケーションが減り、業務品質の低下、新たなアイデア創出機会を失っていないか?
  • 上司・部下間で適切なコミュニケーションがされているか?上司が部下をフォローしきれず、オンボーディング・育成が滞っていないか?
  • 従業員間のコミュニケーションは十分にとれているか?情報が十分に行き渡らないことで、従業員が孤立したり、モチベーションが低下し生産性の低下や離職率の上昇が生じたりしていないか? 等

しかし、リモートワークの環境においては、これらの状況をオフィスで観察して把握することができないため、別の工夫が必要となる。

ここでは、一例として、COVID-19により全社でリモートワークを始めた企業が、従業員の心身の不調の声をきっかけに、従業員間の繋がりやコミュニケーションの変化を可視化し、きちんと把握することで、従業員間のコミュニケーション活性化を図ったケースを見ていきたい。

■背景・課題

この企業ではCOVID-19の拡大に伴い、全社一斉でリモートワークを取り入れた。導入後しばらくすると、心身の不調を訴える従業員が一定数出てきたことから、リモートワークによる働き方の変化が従業員へ悪影響を及ぼしているのではないかと考えた。その時点で顕在化している従業員の不調に加え、当人は無意識であっても今後不調を訴え得る従業員も潜在的に存在しているのではないかと現状に対して強い危機感もあった。

全従業員に対し満足度調査(パルスサーベイ)を実施したところ、従業員間のコミュニケーションに課題を抱える従業員が存在することが確認された。そこで、本格的な追加調査を実施する必要があると考え、従業員間の繋がりやコミュニケーションを調査するに至った。

調査にあたっては、リモートワークにより気軽な雑談をする機会が減ったり、第三者の目が届きにくいことでフォローの機会が見逃されたりしているのではないか、という仮説を立てた。現状の課題を放置することで、従業員の心身の不調や帰属意識の低下、離職といった事態を招くことを恐れ、早急に要因を明らかにし、必要な改善策を打つことを決めたのである。

■調査・分析

調査はトライアルとして一部門(300人規模)を対象に計画された。上記仮説を検証すべく従業員間の繋がり、コミュニケーションの状態を可視化する調査を設計した。具体的には、従業員間の繋がりを公式(業務遂行上の繋がり)と非公式(雑談やオンライン飲み会等の繋がり)に分けて、Before/Withコロナにおいて従業員間の繋がりの増減やコミュニケーションの頻度・場所の変化が可視化できるよう調査項目を設定した。

しかし、実行にあたり問題が起こった。調査結果が評価に結び付けられるのではないかとの不安やプライベートな情報のため回答したくないといった声である。そのような声に対処するため、組織のトップから十分なコミュニケーションを実施した。リモートワークにより誰もが心身の不調を起こす可能性があること、既に一部従業員がその不調を訴えている状況であること、組織として要因解消に立ち向かう重要性や緊急性が高いこと等を、各会議やメールでの複数回のメッセージ配信により従業員の理解を得ていった。組織内の安心と了解を得て、調査は行われることとなった。

調査の結果、Beforeコロナに比べ、Withコロナの繋がりはおよそ20%減少していた。その内訳を詳細化したところ、公式な繋がりは大きく減少していないが、非公式の繋がりが半減していたことが明らかとなった。リモートワークにより繋がりが減少するなかで日々の相談や雑談も減り、従業員が不安を抱え込む構造が生み出されていることも分かった。加えて、従業員の満足度調査(パルスサーベイ)の結果とクロス分析することで、心身の不調を訴える従業員ほど、非公式な繋がりが相対的に少ないことも明らかとなった。中には、組織への所属期間の浅い新入社員・中途入社者・異動者や、もともと地方拠点の所属で規模の小さい組織にいる従業員が見受けられた。

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■その後の取り組み

従業員間の繋がりとコミュニケーションの調査結果を受け、非公式な繋がりが減り孤立していた従業員へのフォローとして、組織内のコミュニケーション活性化施策を立案することとなった。孤立していた従業員は仕事上、特定の従業員とのみ接していることが明らかとなったことから、組織内で幅広くコミュニケーションをとり、日頃コミュニケーションをとる機会を持てていなかった従業員と接する機会を創出することを考えた。具体的にはメンター制度を採用しているものの非活性となっていたメンターに声をかけて面談機会を作ったり、出入り自由のオンラインランチ・飲み会を企画したりと取り組んでいる。

本調査により、従業員からは自分自身の組織内の繋がりを見直す機会になったという好意的な意見も出たと聞く。今後は、以下の分析への展開も企画されている。

  • 定点観測により、従業員間の繋がりとコミュニケーションの変化を調査する
  • コミュニケーションだけでなく、実務への影響も調査する(業務の滞り、品質低下等は発生していないか)

 

従業員間の繋がりやコミュニケーション可視化の方法

以下3つのステップで従業員間の繋がりやコミュニケーションを可視化する。

1. ネットワーク可視化の目的・アプローチの設定

まず可視化に向けた第一歩となるのが目的・アプローチの設定である。以下の例のように、本取り組みの目的を定義し、それが企業価値や従業員エンゲージメントの向上等に繋がることを関係者1人ひとりが理解することが成功の鍵となる。

(COVID-19状況下における繋がりやコミュニケーション可視化の目的例)

  • 上位マネジメントと従業員間で、必要十分な繋がりとコミュニケーションを形成できているか
  • 組織内のコミュニケーションのハブとなる中核人材は誰か
  • 新卒・中途入社者が組織の繋がりの中にどれほど入りこめているか

 

2. データの収集・分析による課題・示唆の抽出

次に、目的に応じて、可視化の対象者を定義し調査項目を設計する。調査においてはメールやチャット、通話等の履歴データを用いて社内外の繋がりを可視化できる。昨今、コミュニケ―ションツールの膨大なデータを簡便かつ精緻に取得・活用することが可能となり、回答者の負荷なくデータを収集することが容易となった。ただし、これらの個人と紐づくデータを本人同意なく抽出して活用することに抵抗がある場合にはアンケートサイトやエクセルを使った調査を実施することも有効である。

調査においては、その他、パルスサーベイや360度評価、離職率等のデータとクロス分析することで、繋がりが従業員にどのような影響を与えているかを様々な角度から分析することが可能となる。例えば、特定の従業員と繋がりをもち定期的なコミュニケーションをとることで、モチベーション向上・リテンション・スキルアップといった効果を得ているという示唆が発見できる。


3. 課題解消に向けた施策の立案

分析の結果、ありたい繋がりの状態との差分や課題を踏まえ、必要かつ実現可能な施策を立案する。従業員間の繋がりを対象とした調査だからといってコミュニケーション施策に限定するのではなく、組織構造やチーム編成、業務プロセス等も含め、目的に即して人に関わる広義な課題として認識し、必要な施策を見出すことが重要である。

2020年はリモートワークへの移行に向けたITインフラや制度の整備といった緊急対応が中心であったと想定される。今後は、従業員間の繋がりやコミュニケーション可視化をすることで、リモートワークにおいて従業員が健康に、かつ生産性高く働ける環境づくりを進めてはどうだろう。

 

執筆者紹介

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
マネジャー 山本 亜希
マネジャー 橋本 洋人
コンサルタント 大竹 翔馬

※所属・役職は執筆時点の情報です。
 

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