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産業政策の動向からみるヘルスケア分野の未来
政府の未来投資戦略や産業政策から見るヘルスケア産業の未来
持続可能な社会実現に向けて、政府はさまざまな政策や取組みを進めており、ヘルスケア分野は今後の成長領域として国内では産業としても注目されています。また、我が国から成功事例を学びたいと、海外からも注目が集まっている分野です。未来投資戦略や平成31年度予算概算要求から、政府の取組みや産業政策の動向を整理・分析し、ヘルスケア産業の未来について言及します。
1.はじめに
我が国では、近年、ヘルスケア分野が大きな注目を集めています。特に医療や介護の分野においては少子高齢化時代の到来や健康寿命の延伸などの社会の変化に対して、「社会保障制度をどのように維持していくのか」が大きな課題となり、連日のニュースでも大きく取り上げられています。一方で、産業振興の側面からヘルスケア分野をとらえると、健康経営の取組みや健康管理を目的としたウェアラブルデバイスの登場など、社会保障のあり方とはまた違った盛り上がりを見せています。
この状況のきっかけとなったのは、平成25年(2013年)6月14日に閣議決定された「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」により、「健康長寿産業を創り、育てる」と政府が打ち出したことが大きな要因であると考えられます。この内容からは、自動車やIT産業に次ぐ我が国の産業の柱としたいという政府の方針を読み取ることができます。健康長寿産業、言い換えればヘルスケア分野に関する記述は、その後の日本再興戦略(2017年度からは未来投資戦略)にも続けて記載されており、政府の関心の高さが伺えます。
2. 政府方針と各省庁の取組み
平成30年(2018年)8月末日に公表された「平成31年度(2019年度)予算概算要求」において、各省庁からヘルスケア分野に関する予算が財務省に対して要求されているところですが、概算要求に先駆けて、本年6月15日に閣議決定された「未来投資戦略2018─ 「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革─」においても、「次世代ヘルスケア・システムの構築」がフラッグシッププロジェクトとして大きく取り上げられています。
政府全体の方針に基づき、各省庁が行った概算要求からもヘルスケア分野に関する予算が組まれている中で、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以降、AMED)に補助金として予算を執行している3省(厚生労働省、文部科学省、経済産業省)では、特に多くの予算項目が公表されています。
3. 経済産業省の概算要求から見たヘルスケア産業の未来
産業政策の動向という面でヘルスケア分野を見てみると、経済産業省の予算要求から今後のヘルスケア産業の動向を読み取ることができます。下記は私見になりますが、政府が目指すヘルスケア産業の未来を考えてみたいと思います。
まず、「健康・医療情報を活用したヘルスケア・イノベーション基盤整備事業」からは、ヘルスケアに関するデータをもとに、研究開発拠点の構築とノウハウの蓄積を目指す「データヘルス産業」とも呼べる新たな産業の構築を目指していると見受けられます。
また、「認知症対策官民イノベーション実証基盤整備事業」においても、認知症患者の増加というネガティブな社会課題について、認知症に関する実証事業を行うことができることを強みと捉えているようです。本事業からは、今後、高齢者が増えることが予想される外国に先駆けて実証事業を行うことで、高齢社会に必要とされる産業や仕組みについて、我が国が先手を打つことを目指している姿が浮かび上がってきます。
さらに、「先進的医療機器・システム等技術開発事業」及び「生体情報を活用した健康長寿命社会実現のための超微小量センシング技術の開発事業」からは、疾病予防や早期発見・早期治療を重要領域と位置づけ、健康管理や医療を重要産業として後押ししたい意図が伝わってきます。
4. 今後のヘルスケア産業の展望
以上のとおり、政府の未来投資戦略及び予算概算要求を分析してみると、今後のヘルスケア産業のキーワードがいくつか見えてきます。
- 医療分野のイノベーション
- データヘルス
- 再生医療実現拠点ネットワーク
- 健康・医療情報を活用した実証基盤整備
- 認知症対策
また、上記に共通して求められているのは以下の要素を段階的に進めることであり、今後のヘルスケア産業の発展に欠かすことのできない視点になります。
- 仮説の立案(既存の制度や枠組みにとらわれない大胆な発想・アイディア)
- 実現に向けたマッチング(アイディアを実現するための多様性をもった官民や異業種の組み合わせ)
- ビジネスモデルの提案(データの活用による新しい産業・ビジネスの提案)
- ビジネスモデルの社会実装(実証基盤の整備及び社会実装)
今後のヘルスケア分野を含む産業の発展においては、海外へ向けたビジネス展開が今まで以上に重要となってきます。その理由としては、我が国の少子高齢化に伴う人口減少が大きく影響しています。総務省の国勢調査及び人口推計に基づいて作成された厚生労働白書(平成28年度)によれば、30年後の2048年には1億人を割り込む推計となっており、約50年前の1967年を下回る人口となることが予想されています。
人口の減少は市場の縮小を意味しており、産業の発展にブレーキをかける大きな要因となることが容易に想像できます。国内市場のみをターゲットとしたビジネスは、今後の国内市場の縮小とともにビジネスの継続が難しくなります。国内で先駆けて実証したヘルスケア産業を持続的に発展させるためには、これから高齢社会を迎える海外へ展開することが欠かせないものとなります。
5.おわりに
今回はヘルスケア分野を政府の取組みや産業政策の切り口から分析しました。政府の未来投資戦略や各省庁の予算要求を読み解くことで、今後の社会のあり方を先取りすることが可能になります。我が国が目指す社会のあり方について考えることは、ヘルスケア産業の未来を考えることにつながるのではないでしょうか。
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