事例紹介

Precision Medicineの未来~がんゲノム医療における検査のあり方・課題~

日本におけるがんゲノム医療の普及においては、患者のゲノム情報の取得・分析に関わる検査の基盤整備が重要な要素である。一方で、がんゲノムプロファイリング検査の初回治療開始前の適切なタイミングでの実施など、検査の基盤整備に向けては制度や体制面で解決すべき様々な課題に直面しており、これらの早期解決にあたっては関わるステークホルダーの協力が必要不可欠である。本シンポジウムでは、行政をはじめとするステークホルダーの方々をお招きし、がんゲノム医療の普及を支える検査のあるべき姿や課題について意見交換をおこなった。

 


Precision Medicineとは

Precision Medicineとは、個々の患者の遺伝子、環境、ライフスタイル等の特性に基づき、最も効果的で安全な治療法を選択する新しい医療アプローチであり、「プレシジョン・メディシン」、「精密医療」、「個別化医療」、「がんゲノム医療」等に訳されることもある。

米国オバマ政権が、2015年に「Precision Medicine Initiative」を発表して以来、Precision Medicineには大きな関心が寄せられている。特定の病にかかった患者を纏めて捉えてきた従来のアプローチと異なり、Precision Medicineは患者が持つ遺伝子情報等の生物学的特性を詳細に分析したうえで、それに最適化した医療提供を目指している。Precision Medicineを発展させることにより、患者の治療に必要な薬物や療法をより正確に、また効率的に選択することが可能となり、医療の質の向上とともに、治療にかかる時間やコストの削減も期待できる。特にPrecision Medicineの一つであるがんゲノム医療は、患者のゲノム情報を活用して個別化された治療法を選択することを目指しており、日本においてもその重要性はますます高まっている。

 

シンポジウムの概要

2024年3月29日(金)にDeloitte にてシンポジウムを主催し、日本におけるがんゲノム医療の普及を促進するための検査の在り方・課題について、様々な業界の方(診断薬会社・検査受託会社・製薬会社・行政等)に発表とパネルディスカッションをおこなっていただいた。

タイトル:Future of Precision Medicine ~がんゲノム医療における検査のあり方・課題~

日程:2024年3月29日(金) 14:00-16:00

場所:Deloitte Tohmatsu Innovation Park - Room D(新東京ビル 8F)

登壇者一覧 (順不同):

  • 渡辺 玲⼦様:シスメックス株式会社
  • ⾕⼝ 充様:シスメックス株式会社 
  • 西⽥ 美和様:ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社 
  • 蝶野 和⼦様:株式会社エスアールエル 
  • 関 丈典様:ノバルティス ファーマ株式会社
  • 西嶋 康浩様:厚⽣労働省 がん・疾病対策課

 

 

がんゲノム医療における検査に関する課題とは

がんゲノム医療の普及において、患者のゲノム情報の取得・分析に関わる検査基盤の整備が必要不可欠であり、「治療方針の検討に必要な患者のゲノム情報をタイムリーな入手」、「得られた患者のゲノム情報を適切な分析」、「最先端の検査の国内での安定的な供給」、「(課題解決や検査基盤の運用にあたっての)産官学の連携」が重要となる。これらの要素の実現のためには、制度的な観点及び体制的な観点での課題を解決する必要があり、主たる課題は以下のように整理される。

制度的な課題:臨床で求められる状態と制度によって定義される状態のギャップを埋めていくことが主たる課題の一つである。例えば、コンパニオン診断(以下、CDxという)の保険上の制限による医薬品の薬事・保険上で認められる投与タイミングでの投与の妨げや医薬品とCDxの承認・保険償還タイミングのズレの解消、医薬品横断的CDx* の実現や、令和6年度診療報酬改定においても議論された「保険診療下におけるがんゲノムプロファイリング検査の標準療法前の実現」などが挙げられる。また、医薬品や医療機器の一部(特定保険医療材料)においては、イノベーションを評価して、その評価を保険の償還価格に反映する制度があるが、検査を担う製品にはそれがないため、最先端の検査技術が日本に導入され、安定供給できるようにするために、検査の開発・導入する企業側のインセンティブを確保する必要がある。

体制的な課題:検査技術は更に高度化していくことが想定され、それに伴って検体の管理をはじめとする検査工程の管理や検査データの分析において求められる専門性も高度化することが想定される。そのため、検査基盤を国の重要な基盤と捉えるのでれば、国内の検査に資する人材や設備を充実させ、国内完結型のゲノム情報収集・分析・活用体制の構築を目指すことが重要である。一方で、全ての体制を国内で完全に整備することは非現実であることから、国内完結型の体制を可能な限り構築しつつ、他国とも連携をするなど海外からも必要な要素を取り入れて連携しながら、国内体制を整理したり、適切なルールや規制を整備することが求められる。

*:同一の遺伝子変異を対象とする分子標的薬とCDxが全て紐づくようにする制度
 

 

展望と課題解決への取り組み

がんゲノム医療に必要不可欠な患者のゲノム情報を集積や活用に関する議論は活発に行われているが、ゲノム情報を取得し、分析するための検査基盤を中心に議論される機会は限られてきた。本シンポジウムでも提示された課題は、一部のステークホルダー内のみで解決なものはなく、解決に向けては検査に関わる様々なステークホルダーにおける対話を通じて、共に解決方法を模索することが必要不可欠である。本シンポジウムでは、様々な立場の方からそれぞれが描く日本のがんゲノム医療の普及を支える検査のあるべき姿と課題について活発に議論していただいた。本シンポジウムを経て、それぞれのステークホルダーの相互理解が深まり、課題解決に向けた対話の機会がより増えることになれば幸甚である。

当社としても、関連する各ステークホルダーと共に、がんゲノム医療をはじめとする真のPrecision Medicineの普及に引き続き貢献して参りたい。

 

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