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B2B製造業におけるサービス事業変革とサステナビリティ

産業・インフラ製造業は、どうすれば、環境に優しく、競争力のあるビジネスモデルを築けるか?

サステナビリティは、現代で最も議論が活発なアジェンダの一つである。本レポートでは、業界をリードする企業がサステナビリティの観点で、どのようにサービスの価値と提供体制を改善してきたかを示す8つのケーススタディを紹介する。また、製造業におけるサービスの役割を再定義するとともに、サステナビリティを軸にしたサービス変革を計画・実施するための5つの重要なステップを提示する。

日本語版発行に寄せて

2020年代の幕開けとともに始まったコロナ禍は傷跡を残して社会・経済のあり方を変え、続いて引き起ったインフレやウクライナ情勢、金融不安は、世界経済と社会に新たな変化点を迎えさせようとしています。他方で、本質的なサステナビリティ経営の必要性について認識が広く共有されたことで、世界の経済社会は、多様なステイクホルダーと向き合うよう、企業に対して経営のさらなる透明性を求めています。世界の製造業は不確実で不透明な外部環境において、内部環境としては一層の透明性をもったガバナンスの責任を果たすという非常に難しい舵取りを行わなければなりません。加えて、デジタル化の進展は、顧客の購買行動変化ならびに事業活動変化を構造的に引き起こし、結果、製造業は競争において事業構造とその基盤を一段磨き込むことも求められています。

本レポートでは、サービスビジネスが、なぜ製造業にとってサステナビリティと競争優位、という両輪の経営課題を解決することにつながるビジネスモデルなのかを事例とともに示しています。本レポートで取り上げているように、ユーザー企業が抱える経営課題をトータルに解決する、という視点に立つことで、構造的に、サステナビリティと競争優位という二つの課題を一気に解くことにつながるという点が挙げられます。機械や産業機器のライフサイクル全体を見渡すと、アフターサービス領域が排出量やコストの大半を占める構造的背景があります。

日本でも、産業・インフラの基幹を支える製造業のビジネスモデル変化は続いています。製品別・機能別に構築された製造業の事業や組織構造をいかに発展的に進化させていくか、大きなチャレンジが求められています。

ソフトウェアやクラウドビジネスとどう向き合うか、インテグレーションや、フィールドサービスといった、人工型のビジネスとどう向き合うか。製品を主軸とした事業構造にどのようにサービスビジネスをマージするか、サイバーフィジカルを跨いだ新たな装置産業が立ちあがろうとしている中、「サービスビジネス」を、「デジタルツイン」をはじめサイバー領域に跨った全体最適への取り組み、と読み替えていただくと示唆があるかもしれません。また本文でも言及されている通り、往々にして、顧客価値を追求して事業をDX化・サービス化することは、業務をDX化することと実は一体となるケースが多いことにも気づかれると思います。

本レポートではいくつかの事例をとりあげましたが、事例の業種にも注目いただければと思います。産業インフラ製造業のサービス化が、欧州をはじめとした海外で始まった背景として、規制環境の違いはもとより、デジタル化の進展、新興顧客の能力多様性の影響はありますが、何より、業種エコシステム単位でのグローバル経済競争戦略の側面も無視できません。日本でもこれからの産業インフラに関する更新需要・新設需要についてはアセットマネジメントを統合的に誰が担うか、を焦点に、サービスモデル変革が特定産業を中心に進む可能性があります。各業種の競争背景についても思いを巡らしていただければと思います。

最後になりますが、経営へのサステナビリティ要請が増すこれからの世界で日本の製造業がグローバル競争を勝つために変革は待ったなしといえます。製造業の皆様が、自社の経営戦略にとって本質的な事業基盤の磨き込みやビジネス全体を俯瞰した変革の指針取り、組織能力の再構築を主導する上で、本レポートが一助になりましたら幸いです。

(PDF, 4.2MB)

小林 秀和/Hidekazu Kobayashi
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター

重電・重工産業、産業インフラ機器・機械、金融機関、総合商社、Oil&Gasオペレーター、ICTプロバイダ等グローバルカンパニーへの経営戦略、事業戦略、M&A/アライアンス戦略策定、組織構想策定、全社経営改革などに従事。

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