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政府主導による大学ファンドの創設

政府主導による大学ファンドの概要

10兆円規模の大学ファンドの創設に向けて内閣府、文部科学省で検討が進められています。大学ファンド創設の狙いや検討状況について解説します。

執筆者: 公認会計士 今井 裕了

 

新たな10兆円規模の大学ファンドの創設

大学関係者にとっての関心事の1つは、政府主導で進められている10兆円規模大学ファンドの検討過程に関する情報ではないでしょうか。

2020年12月、日本政府は『学術研究・基礎研究の分野に、これまでにない手法により「人材」、「研究開発を行う大学の共用施設やデータ連携基盤の整備」などへの大胆な投資を実行するために、10兆円規模の大学ファンドを創設すること』を閣議決定しました。大学ファンドは2021年度中に運用を開始し、2024年度から大学への研究資金配分を開始する計画としています。

【参考】内閣府ホームページ(外部サイト)

これまで日本の大学は海外大学と比べ、基金をはじめとする資金力で負けており、文部科学省資料によれば慶応義塾大学で730億円、東京大学でも150億円という大学基金規模に対して、ハーバード大学では4.5兆円、そのほかにも1兆円以上の大学が複数あり、まさに桁違いの状況とされています。

大学にとっては、今回の大学ファンドの行方は今後の研究資金を確保する手段として着目されていると予想されます。

我が国の大学は海外大学と比べ資金に乏しい

出典:文部科学省ホームページ、国立大学法人研究担当理事・副学長協議会(第14回)配布資料3「大学ファンドの創設について」

大学ファンドの内容

ファンド創設の狙い

現在、日本の大学が抱える課題は深刻です。資金力が乏しく、国立大学においては毎年度運営費交付金が削減され、日本の18歳未満人口の減少に伴い一部の大学を除いては学生数が減少し、学納金等の収入が減少傾向にあります。特に博士課程学生や若手研究者を取り巻く環境は厳しく、若手研究者に十分な給与や安定的ポストが提供されず、博士進学率が減少することで、結果として国際的に見て研究力が低下しています。

そこで10兆円規模の大学ファンドを創設し、研究資金の源泉とすることで、世界トップ研究大学の実現に必要となる研究基盤への長期・安定的投資の抜本強化を図るとともに、世界トップ研究大学に相応しい制度改革の実行を目指すとされています。

基本的枠組み

大学ファンドは、国立研究開発法人科学技術振興機構(以下、「JST」という。)に設置され、JSTが運用を担当します。まずは政府出資金5,000億円と財政融資資金4兆円を合わせた4.5兆円を元本として運用開始する予定で資金確保されていましたが、令和3年度補正予算において政府出資金に6,111億円が追加措置され、合わせて約5.1兆円での運用開始となっています。最終的には民間からの長期借入や大学からの資金拠出等により、早期に10兆円規模の運用元本形成を目指すことになります。

運用にあたっては、分散投資を行う等のリスク管理といった基本的な考え方のもと、ガバナンス体制やリスク管理態勢を整備し、JSTにおける当業務の執行責任者には元農林中央金庫常務執行役員の喜田理事が選ばれました。

大学ファンドの支援対象大学

大学ファンドの支援対象は、総合科学技術・イノベーション会議「世界と伍する研究大学専門調査会」においてこれまで検討されてきており、2022年1月開催の調査会で「世界と伍する研究大学の在り方について 最終まとめ(案)」にて最終案が提言されています。

当資料によれば、大学ファンドによる支援は、並行して検討されている「国際卓越研究大学(仮称)」制度により国際卓越研究大学(仮称)として文部科学大臣から認定を受けた大学とされています。認定を受けるためには「国際的に卓越した研究成果の創出(研究力)」「実効性高く意欲的な事業・財務戦略(3%成長)」「自立と責任あるガバナンス体制(合議体)」の要件が設定される見込みです。

したがって、大学ファンドの活用により支援を受けられる大学は限定されるものの、大学ファンドによる支援策のみならず、高等教育システムや研究開発法人、大学共同利用機関法人を含めた我が国の研究力を向上させる全体像を描くことが必要であるとされ、今後の支援策の検討が期待されます。