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不動産売買に係る課題について

リスクと機会を見極めた戦略的な不動産売買が重要です

不動産は大量生産される消費財と異なり、一つひとつの案件に強い個別的特性があります。それは、単に土地の形状や建物の状況などにとどまらず、不動産を売却することとなった背景や関係者の人間関係、感情までもが複雑に絡み合っているためです。本稿では、売主の期待と仲介者のキャパシティのギャップによるトラブルはどこで生じている可能性があるのかを考察しています。

1. 不動産売却プロジェクトの本来あるべき姿

不動産は大量生産される消費財と異なり、一つひとつの案件に強い個別的特性がある。それは、単に土地の形状や建物の状況などにとどまらず、地域的な要因、自然社会、経済、行政的な要因、加えて不動産を売却することとなった背景や関係者の人間関係、感情までもが複雑に絡み合っている状態である。そのため、本来であればその不動産売却プロジェクトのマーケティング戦略もオリジナルに組み立てられるべきものである。

しかし、多くの不動産売却プロジェクトの現場ではそのようなマーケティング的発想が少なく、行き当たりばったりの売却プロジェクトとなっており、結果的に問題を複雑にしているケースが多いように見受けられる。

例としては、媒介契約締結後の不動産情報の安易な拡散(ばらまき)による希少性の減退、そのことによる売却活動期間の長期化や不必要な値交渉の発生、さらには売却の背景等の事情や、そもそも売主が誰かすらもよく知らないブローカーにまで情報が広まり、彼らから売主や売主関係者に当該情報が伝わること(情報の逆流)による混乱等がある。

なぜ、このようなことが起こっているのか。要は売主の期待と仲介者のキャパシティのギャップによるトラブルはどこで生じている可能性があるのか、以下において考察する。

2. ギャップが生じる理由

まず、売主が仲介者に期待する業務に関する誤解として、不動産仲介会社の業務はどこも同じであると考えてしまう認識違いがあろうかと思われる。つまり、現在の情報化社会においてはどの不動産仲介会社に依頼にしても最終的に大差はないだろうという誤解である。

しかし、例えば医療業界において外科、内科、整形外科等、各々の症例についての専門家医がいるように、不動産の種類や特性によって、やはり依頼すべき仲介者(不動産アドバイザリー)も異なるものである。

収益不動産が得意な仲介者もいれば、工場や物流不動産を得意とする仲介者もおり、それぞれ微妙にマーケティング手法も異なってくる。売主としてはこのあたりをよく見極めて依頼をするべきであると考える。

一方で、不動産売却過程においてトラブルとなる大きな要因のひとつは、仲介者の戦略不足にあると考える。

3. 仲介者の戦略不足

上記において、不動産売却プロジェクトにおいてはマーケティング戦略はオリジナルに組み立てられるべきであると述べた。

これはつまり、不動産およびそれを取り巻く複雑な状況は、一見混然一体となっていたり、売却が難しい状態であるととらえることが常識となってしまっているものが多いが、これらを分析、分解、再定義し、売主にとって最も有利でかつ買主も満足する取引となるように組み立てる戦略的発想が必要ということである。

分析などというと、冷徹なイメージをもたれるが、これは情緒や勘を否定するものではない。むしろ冷徹な分析と、経験や勘を組み合わせた思考が必要であると考える。

筆者の知る優秀な不動産アドバイザリーは共通して人間的な魅力を備え、一見大雑把なようにもみえる人柄なのだが、その方のメモ帳などを見せて頂くと、その一見した人柄からは想像できないくらいに、びっしりと書かれた最新のマーケット情報や分析などの裏づけデータがあることが多い。

ここで、分析方法のひとつとして筆者が重要視するのは、マーケティングの基本である3C分析である。

これは一般には企業のビジネス戦略立案過程において、重要な3要素(Customer:市場・顧客分析、Competitor:競合分析、Company:自社分析)の頭文字をとった分析フレームワークである。

このフレームワークに不動産の情報をのせるだけでも、状況が整理され売却戦略の大きな方向性は見えてくる。あくまで例として下図をご参照頂きたい。

ここで重要なことは、分析をすることが目的なのではなく、何が売却成功要因(キーファクター)であるかを導き出すことが目的であることを意識することである。また3C分析以外にもオーソドックスなフレームワークに当てはめることで方向性が導き出されることは多い。

図表

4. デロイト トーマツ グループの取り組み事例

上記を踏まえて下記に簡単に事例を示す。ただし、実例であるので詳細には示すことができないため、エッセンスのみの例示になることをご了承頂きたい。

概要:

再建途上の企業が地方都市に所有する営業停止中の空ホテル売却案件

・Customer:ホテルマーケットが上り基調であったため、自社運営希望のホテル事業者

・Competitor:地域内にて営業中ホテルの売却案件が他に2軒、キャップレート低水準

・Company: 築浅、建物価値の高さ、金融機関担保不動産

 

課題:

1. 地方都市ゆえ自社運営希望のホテル事業者も不動産購入まで踏み切れない

2. 金融機関担保設定が高め

 

成功要因:

1. 競争力のあるオペレーターと資金力のある投資家のマッチング

2. 金融機関への丁寧かつ客観的なマーケット説明による担保抹消価格のハードル緩和(説明資料作成サポート含む)

 

一見すると、地方都市で営業停止中というだけで、取り壊し前提の価格で叩き売ろうとし、金融機関の怒りを買うようにことを進めるアドバイザリーもはいるのではないかと思う。しかし、マーケット分析に加えて潜在ニーズを整理し、上記成功要因の充足に向けたアレンジを組み立てることで、売主/買主はもとより、金融機関、ホテルオペレーターにとっても前向きな取引を成立させることができた。もちろん、この過程にはそれぞれの感情論なども入ってくるため、忍耐のいる交渉も必要な場面があったことを加えておきたい。

5. まとめ

企業の不動産売却というと、後ろ向きな印象を持たれるケースが多いが、本来次の一手につなげるステップとして活用すべき戦術の一つである。

より大きな企業戦略の中で、リスクと機会を見極めて不動産売却の決断をすることになった際には、売却戦略策定に必要となる幅広い知見とリソースをもったアドバイザリーに依頼すべきであると考える。

 

※当該記事は執筆者の私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではない

以上

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