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昨今の日本企業の海外危機管理の傾向

「地政学リスクを踏まえた、日本企業のあるべきリスク管理」Vol.3(『企業リスク』2016年7月号掲載記事)

ここまでは、地政学の観点から、今後懸念される日本を取り巻くリスクについて解説を行うとともに、日本の外交の要である外務省 海外邦人安全課の考えるリスクと取組みについて紹介をしてきた。本稿では昨今の日本企業が、海外危機管理としてどういった対策を講じているのか、筆者のコンサルタントとしての実務経験に基き、昨今の傾向を考察し解説を行う。

1.海外で緊急事態が発生した場合の対応のポイント

※詳細記事はPDFをご確認ください

 海外において緊急事態が発生した場合の対応については、駐在員・帯同家族・出張者等の社員が何らかの事件・事故に巻き込まれる等の緊急事態を例に、どのようなことがポイントになるのかを見てみたい。

i. 緊急事態の発令基準の明確化

 緊急事態の発令が手間取るケースが多いが、その大きな要因が不明確な発令基準である。そのため、発令基準は自動的に発令される場合(自動発令)とトップ等が発令を決める場合(能動的発令)の両方を加味したものが望ましい。以下はその例である。

■日本外務省が海外拠点所在国・所在地域に対し、「退避を勧告します」、「渡航は延期して下さい」又は「渡航の延期をお勧めします」という危険情報を発出した場合
■日本外務省が当社社員が出張等で滞在している国・地域に対し、「退避を勧告します」、「渡航は延期して下さい」又は「渡航の延期をお勧めします」という危険情報を発出した場合
■海外危機管理委員長が緊急事態発令が妥当と判断した場合 等
 

ii. 的確な情報伝達

 有事の際の緊急連絡は、社内及び関係者との情報共有の点で重要である。その要諦は「迅速」に行うことである。そのためにも緊急連絡網の作成は、緊急時対応において不可欠であると言える。この緊急連絡においては、要となる部署が情報共有の基点となることが多い。この緊急連絡におけるポイントとしては、以下の4つを挙げることが出来る。

■経営層への可及的速やかな連絡
■広報部門への連絡
■簡潔な報告様式
■窓口の一本化(要となる部署等) 等
 

iii. 安否確認が最優先

 海外での緊急事態に限らず、有事の際には、従業員・家族等の安否確認が最優先される場合が多いことに留意する必要がある。
 

iv. 情報の処理の重要性

 対策本部の活動の中心が情報の処理である。情報の処理は、対策本部での意思決定に不可欠な要素となる。主な情報の処理としては、収集・整理・分析・共有・伝達等があるが、その中でも、情報を整理・分析することが重要であるとされる。
 

v. 関係機関への迅速な協力要請

 海外で発生する緊急事態の場合、自社だけで対応できないことも多い。そのため、発生直後から、政府機関・政府系機関・コンサルティング会社・アシスタンス会社・弁護士事務所等へ、協力を要請することが必要である。
 

vi. 対応は全て現地であるとの認識

 緊急時対応においては、実際に対応するのは危機の発生した海外拠点となる。そのため、海外拠点での判断を優先することが良いとされている(本社と海外拠点で、対応の方向性について見解が分かれた場合、現地の判断を優先する方が、良い結果につながる場合が多いと言われている)。
 

vii. 広報対応の重要性

 緊急時においては、適時かつ適切な情報開示を行い、社会、顧客、取引先、株主等、各関係先の様々な不満や不安を解消し、自社への理解促進と問題の早期解決を図ることが重要となる。また、報道機関等のメディアに対し、適切な情報を積極的に開示し協力を仰ぐことは、危機管理上、有効な手段となる。
 危機が発生した場合の初動としては、トップへの報告(+広報部門への連絡)、対策本部の設置、初動対応方針の決定等が重要である。その中でも、トップへの報告は、その後の対応の前提となることも多いことから、最も重要であると言える。
 実際には、緊急事態に関する情報が十分に整理できていなくても、何より先にトップに第一報を上げなければならない。特に大企業の場合は、トップに情報が上がるまで相当の時間を要する傾向があり、これまでも数々の事例において問題が発生している。
 危機が発生した場合に、どのような方針で対応するのかといった最終的な意思決定は、トップが担うこととなる。そのため、会社として甚大な損失を覚悟しなければならない場合や1~2時間で対応の方向性を至急決定し、全従業員に対し通常業務とは大きく異なる業務を命じることができるのは、トップ以外にいないと認識するべきである。そのような点から、なるべく早くトップへ連絡することが重要である。
 また、記者等のマスコミ関係者は、ある企業で危機が発生したとの報に触れた場合、その企業のトップとの接触を図ろうとする傾向が強い。そのような急な取材に際して、最も懸念される事態が、トップがそれを知らなかった場合である。このような点からもトップへの可及的速やかな連絡が重要である。
 

viii. 緊急時の意思決定者

 緊急時対応における意思決定者(対策本部長等)には、意思決定のスピード、意思決定プロセス及び決定・実施される対策における透明性及び公平性の確保が求められる。また、意思決定者は関連情報が乏しい中でも意思決定を求められるケースも多いことから、決断力も重要であると言える(そのためにも、シミュレーション訓練等を通じ、意思決定を含めた対応能力の向上が望まれる)。

 
昨今の日本企業の海外危機管理の傾向 (PDF, 6,571KB)

2.海外危機管理に関する最近の日本企業の傾向

(1)リスク評価の実施(カントリーリスクの把握)
 日本企業の海外進出の特徴として、大手納入先からの進出要請等、外部要因に伴う海外進出が相対的に多いという特徴がある。つまり、進出国のカントリーリスクを進出時に詳細に評価していないことも少なくない。
 また、進出時にはカントリーリスクは評価していたものの、近年の世界情勢の急激な流動化に伴い、現地のカントリーリスクも大きく変容していることから、最近では日本企業が進出国のカントリーリスクを再度評価する傾向となっている。特に、政治状況、自然災害、テロ脅威等は、世界的に急激に変容する傾向となっていることから、詳細な評価をする傾向となっている。

(2)対象を日本人から全ての従業員へ
 これまで日本企業の多くが海外での危機管理については、対象を日本人駐在員・帯同家族・出張者等を中心に対策を立てていたが、昨今の急激なグローバル化に伴い、対象を全世界の全ての従業員に拡大する傾向となっている。
 例えば、海外での危機管理・リスクマネジメントに関するポリシー(例:海外リスクマネジメントポリシー(Risk Management Policy for Business Abroad))、従業員の海外出張時の注意事項、危機に遭遇した場合の対応等のガイドライン(例:海外安全対策ガイドライン(出張者用:Security Guidelines for Business Traveler Abroad))、従業員・帯同家族向けの海外赴任時の注意事項、危機に遭遇した場合の対応等のガイドライン(例:海外安全対策ガイドライン(赴任者・帯同家族用:Security Guidelines for Families Living Abroad))等を全世界の従業員を対象として策定する傾向となっている。

(3)安否確認体制の整備
 海外で緊急事態が発生した場合、日本企業においては何よりも重要なのが、安否確認である。これまでは、主に日本人従業員を対象に安否確認をすることが主であったが、既述の通り、安否確認の対象を全世界の従業員に拡大する傾向となっている。
 その背景には、これまでは安全と見られていた国でもテロが発生することも多いことから、これらの国に日本人以外の従業員が出張等で滞在するケースも増えているためである。
 日本企業の中には、海外でも使用可能なインターネット、メール等による安否確認システムの導入を検討している企業も増えている。

(4)訓練等の実施
 事前に詳細なガイドライン、マニュアル等を整備していても、実際に危機が発生した場合、その通りになることは、ほぼ皆無である。つまり、想定していない事象等が発生することが一般的であり、全ての側面で意思決定が必要となる。
 これらの意思決定能力の向上、現状の体制の問題点等を明確化するため、日本の本社の他、海外拠点でシミュレーション訓練等の訓練をする企業が増えている。例えば、現地拠点で、地震・洪水等の自然災害が発生した場合、拠点近くで大規模なテロ事件が発生した場合等を想定したシミュレーション訓練に現地拠点幹部が参加し、意思決定を中心に訓練するケースが増えている。

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【連載】グローバル時代のクライシスマネジメント

『ビジネス法務』にて計8回の記事連載

連載期間:2017年5月号(2017年3月21日発売)~2017年12月号(2017年10月21日発売予定)


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