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LCL(Leading Cyber Ladies) Tokyo 開催レポート

サイバーセキュリティで活躍する女性を応援

2022年4月23日、サイバーセキュリティで活躍する女性を応援するコミュニティ「LCL Tokyo」はオンサイト(東京)とオンラインでイベントを開催した。サイバーセキュリティの領域における女性の実状について報告された後に、女性がより活躍できるような具体的施策についてグループに分かれてディスカッションした。また自発的に発足した若手コミュニティについての紹介も行われた。

LCLの活動はテルアビブからニューヨーク、トロントを経て東京にも

サイバーセキュリティの世界では女性が少なく、ロールモデル不在で戸惑う女性は少なくない。そうしたなか、サイバーセキュリティで活躍する女性を応援するコミュニティLCL-Tokyoが開催された。会場は東京 丸の内にあるデロイト トーマツオフィスとオンラインのハイブリッドにて実施した。

冒頭はLCL-Tokyoファウンダーの篠田佳奈氏がコミュニティの紹介や当日の流れを解説した。もともとLCL(Leading Cyber Ladies)はイスラエルのテルアビブ在住のサイバーセキュリティ技術者ケレン・エラザリ氏を中心に設立された。エラザリ氏は若い時にアンジェリーナ・ジョリー主演の米映画「サイバーネット(原題:Hackers)」を見てコンピュータースキルを駆使するヒーローに憧れ、イスラエル軍、企業、学術機関などでスキルを磨き、さらにコミュニティも立ち上げるなどとてもエネルギッシュな女性だ。LCLは後にアメリカのニューヨークやカナダのトロントなど世界各地に広がり、そして東京も仲間入りした。

LCLのミッションはサイバーセキュリティ領域にいる女性をイベントやネットワーキングを通じてインスパイアしていくことであり、ダイバーシティ(多様性)、レプレゼンテーション(再表現)、対等を拡大していくことをゴールに掲げている。LCL-Tokyoも同様で、サイバーセキュリティにいる女性をサポートすることをミッションに掲げている。

LCL-Tokyoコミュニティでは困難をシェアすることで、仲間を見つけ、答えを見出す手がかりにしようとしている。少なくとも参加者は女性という共通項があるため、問題をシェアしやすいかもしれない。他にも機会、知識、経験をシェアすることでそれぞれの成長につなげようとしている。またLCLは一般(社会人)グループのほかに、U25(学生)グループも発足したところだ。

今後は年に3~4回程度のイベント開催を予定している。イベント告知はPeatixから、また普段のコミュニケーションは「DISCORD」を用いる(イベント参加者にはDISCORD申込み用のGoogleフォームが案内された)。

篠田氏は「セキュリティ業界は小さな世界ですが、全ての領域に欠かせない要素です。狭い世界に閉じこもることなく、外の世界とも積極的に繋がってもらいたいと思います。大切なことはつながっていくことです。コーヒーを運ぶとか小さなことからでもいいので、活動に参加してみてください」と呼びかけた。

最後に篠田氏はLCL-Tokyoのシスターコミュニティとなる女性向けテクノロジーコミュニティの紹介、および会場提供などで協力したデロイト
トーマツ伊藤益光氏(LCL Tokyo発足当時から支援している)から一言あいさつをいただいた。

サイバーセキュリティ業界におけるロールモデルについての調査と活動提案

続いてPwCコンサルティング シニアアソシエイト 愛甲日路親氏より、「サイバーセキュリティ業界で活躍する女性の「ブランディング化」活動の提案および最新調査」と題した講演があった。同氏はセキュリティ業界12年目、CISOやセキュリティ責任者支援となる調査業務、およびベビー靴下ブランドの代表も務めている。

 愛甲氏は2021年6月のLCL-Tokyoキックオフから参加している。出席者の参加目的を聞くと「女性のロールモデル」には特に関心が高く、「身近に女性のロールモデルがおらず、特に産後のキャリアプランを描きにくい」という声が寄せられている。

恐らくセキュリティ業界内では漠然と感じられているものの、国内外を探してもエビデンスとなる定量データが確認できない。そこで2021年12月、サイバーセキュリティおよびプライバシー業界に従事する男女300人に、インターネットを通じてアンケート調査を実施した。

サイバーセキュリティおよびプライバシー業界で働く女性の実態調査2022

調査からはセキュリティ業界で働く女性の10の傾向が浮かび上がってきた。
 

<「過去」の傾向>

①セキュリティ業界で働く女性 「文系」出身が約7割

②転職経験がある女性の前職 「非IT部門」が半数以上

 

<「現在」の傾向>

③女性はいわゆる「ガバナンス」業務に携わる傾向に

④女性の資格保有率 男性より高い

⑤働いた印象「専門性やスキルが身に付いた」「長く働けそう」が上位

⑥ロールモデルを持つ女性 仕事や組織への「満足度」が全体的に高い

⑦女性にとっての「活躍」の定義は「業界の専門家として認められること」

 

<「将来」の傾向>

⑧セキュリティ業界で「長く働きたい」女性6割超

⑨昇進意欲のある女性は半数以上、女性が描くキャリアパスは多様化

⑩売り手市場であることを実感する女性たち

 

LCL-Tokyoキックオフで出た疑問に戻り、3つの仮説ごとに調査結果を見てみよう。

 

<仮説①同業界の職場には女性が少ない>

職場の男女比で見ると、8割以上が「男性が多い」と回答。「女性が多い」や「男女比は同じ」はごくわずか。また昇進意欲で見ても、女性より男性が17ポイント高かった。


<仮説②同業界には、身近に同性の「ロールモデル」となる人物がいない>

「セキュリティ業界のキャリアパスを検討する上で、ロールモデルは身近にいるか」という問いに対して、「いる」との回答は男性が39%、女性が58%。そのロールモデルとする人物は男女ともに「同じ職場の男性」を挙げる回答者が最も多く(男性が38%、女性が41%)、続いて「同じ職場の女性」を挙げる回答者もいた(男性が29%、女性が27%)。社外だと男女ともに同性を選ぶ割合が高かった。


<仮説③同業界の女性は「ロールモデル」が必要>

「ロールモデルは欲しいか」との問いに対して「欲しい」との回答は男性が34%、女性が57%で、女性は男性よりロールモデルを欲する割合が高いと分かる。また男女ともにロールモデルを持つ回答者は仕事や組織への満足度が高いことが分かった。

当初のLCL参加者の声と調査結果を合わせると、ロールモデルが求められているのは確かなので愛甲氏は「ロールモデルがについて検討する機会、出会いの場の創出」を今後のアクションとして提案した。

加えて、調査からは女性の活躍を「業界のスペシャリストやロールモデルとして認められる」と見る回答者が多かった。しかし現実的には女性の露出の機会が少ない。そこで愛甲氏は女性が自分への自信を増やすためにも「自分のブランド化」ひいては「セキュ女のブランド化」も併せて提案した。

この提案に基づき、早速グループに分かれて「自分のブランド化(セキュリティ専門家として認知される)」や「セキュ女のブランド化(自分の活動が「セキュ女」として一般公開される)」につながる施策をディスカッションし、全体でシェアした。

情報系を志す女性を支援するプラットフォーム 学生ユースグループ発足

LCL-Tokyoでは頼もしいことにLCL Youth(学生ユースグループ)も自発的に発足した。対象は26歳未満の情報系を勉強する女性、情報系に興味がある女性、女性の社会進出に興味のある女性、この活動に興味がある女性だ。大卒や大学在学中である必要は無く、小学生、中学生、高校生も可だ。

メンバーの慶應義塾大学総合政策学部 伊藤るる氏が代表で登壇し、作りたい未来として「自分の『可能性』を信じられる未来」、「技術が人に優しさを届けられる未来」を挙げた。そのために「情報系を志す女性を支援するプラットフォーム」が必要との考えを示した。

活動内容の軸は①イベント開催、②キャリア支援、③学習面のサポートの3つ。①は社会人女性を招いて講演会を開催したり、若者や学生同士の交流の場とする。②はインターンの紹介や社会人からのメンタリングを行う。③は「素人から玄人になる方法」として、社会人からどのような経験や学習をしてきたのかを学ぶ。

伊藤氏は「大人(社会人)の協力が必要です。皆さまの人生のストーリーが学生さんにとっては宝物なのです。」と呼びかけ、篠田氏は「社会人の皆さんは『自分は大したキャリアや経験はない』と遠慮せず、自分の経験を話してください。学生の皆さんにとってはどれも貴重な情報ですので」と補足した。

 

■女性支援の取り組み「未来が私を求めている」、インターンシップ紹介

最後の講演はデロイトトーマツコンサルティング 執行役員 大久保理絵氏より、女性を支援する取り組み「Deloitte Women In Tech Explorer Program 未来が私を求めている」を紹介した。

社会で女性活躍が求められるなか、テクノロジーを志向する女性は少なくない。テクノロジーはこれからの時代を創るために大きな威力を発揮することは確実だ。そしてテクノロジーはビジネスのあらゆる分野に渡るほど幅広く、そして実践してみるととてもやりがいがあることが分かるだろう。

デロイトで働く大久保氏は「これから進路や職業を選ぶ女性のみなさんには、テクノロジーは想像よりも楽しいものだと是非お伝えしたい。そして将来どこかで輝くお手伝いができたら。そうしてWomen In Techは生まれたのです」と話す。

一例として学生向けプログラムExplorer(仮)がある。カリキュラムは①ビジョニングセッションで自分の未来を描き、②選択式セッションでテクノロジーや女性をテーマとした講義を受講し、③ハンズオンセッションで最新テクノロジーを体感する。

続いて学生向けにデロイト トーマツサイバー合同会社とPreferred Networks株式会社のインターンシップの案内があり、最後にネットワーキング(会場参加者のみ)でイベントを終了した。次回のミーティングは「LCL-Tokyo 2022 Summer」として7月か8月に開催する予定だ。


著者:伊藤益光

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