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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を踏まえた企業決算と株主総会等の対応について

クライシスマネジメントメールマガジン 第12号

新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の影響により、決算や監査業務に遅れが生じています。本稿では、金融庁が発表した有価証券報告書の提出期限の延期を踏まえた株主総会等の対応のポイントについて解説します。

I. はじめに

2020年4月15日、金融庁が設置した新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会より、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」(以下、「連絡協議会の声明文」)が公表された。

連絡協議会の声明文では、COVID-19の感染拡大を受けて、3月期決算業務と監査業務に大きな遅延が生じる可能性が高まっており、「当初予定したスケジュールの形式的な遵守に必要以上に拘泥するときは、関係法令が確保しようとした実質的な趣旨をかえって没却することにもなりかねない」とされている。また、「政府等による外出自粛の要請が徹底されない場合には、関係者の健康と安全が害されるリスクが高まる」と指摘している。有価証券報告書の提出期限を9月末まで一律に延長することを認めた内閣府令の改正も踏まえ、「例年とは異なるスケジュールも想定した決算業務の遂行が求められる」とし、3月期決算企業の株主総会の運営に関する留意事項が挙げられた。

 

II. 連絡協議会の声明文を受けた対応のポイント

連絡協議会が挙げた株主総会の運営に関する留意事項は以下の通りである。

  • 株主総会運営に係るQ&A(経済産業省、法務省:令和2年4月2日)を踏まえ、新型コロナウイルス感染拡大防止のためにあらかじめ適切な措置を検討すること。
  • 法令上、6月末に定時株主総会を開催することが求められているわけではなく、日程を後ろ倒しにすることは可能であること。
  • 資金調達や経営判断を適時に行うために当初予定した時期に定時株主総会を開催する場合には、例えば、以下のような手続をとることも考えられること。 

1.当初予定した時期に定時株主総会を開催し、続行(会社法317条)の決議を求める。当初の株主総会においては、取締役の選任等を決議するとともに、計算書類、監査報告等については、継続会において提供する旨の説明を行う。

2.企業及び監査法人においては、上記のとおり、安全確保に対する十分な配慮を行ったうえで決算業務、監査業務を遂行し、これらの業務が完了した後直ちに計算書類、監査報告等を株主に提供して株主による検討の機会を確保するとともに、当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催する。

3.継続会において、計算書類、監査報告等について十分な説明を尽くす。継続会の開催に際しても、必要に応じて開催通知を発送するなどして、株主に十分な周知を図る。

各企業は連絡協議会の声明文を受けて対応を検討中であると思われるが、4月21日のNHK報道によると、3月期決算の企業だけでも4月20日までにおよそ160社が決算発表の延期や未定を決めている。株主総会を6月下旬から7月以降に延期すると公表または検討している企業もある。その場合、株主総会の延期に合わせて株主総会の議決権の基準日を決算日の3月期より後に設定するなどして対応することとなろう。

現在、会計監査を行う大手監査法人や監査対象の企業では在宅勤務が広がっており、業務の効率が落ちていることから適正な財務諸表の作成と十分な監査時間の確保が難しくなっている。トーマツを含む大手監査10法人は、金融庁が示した有価証券報告書の提出期限を一律に延期する方針の支持と連絡協議会の声明文に示された株主総会の運営に関する諸対応の要請について強い賛同を表明した。さらに、確実な監査を遂行するための十分な時間を確保できるよう、監査先企業においても具体的な方策を検討するよう求めている(※1)。 

今回のCOVID-19を契機に急遽始まった在宅勤務だが、この働き方が今後も広く浸透するであろうことは疑いの余地がない。各企業と監査法人は、目の前の株主総会だけではなく、進行年度の四半期決算と期末決算も見据えた工夫を凝らすことが必要になってくるだろう。例えば、以下の取り組みと深化が必要だ。

  • クラウドを使った共有サーバ経由での電子データの受け渡しやスケジュールとタスクの管理
  • Zoom、Skype、Teams等のオンラインミーティングツールの積極的な活用
  • Balance Gateway等のウェブサービスを活用した銀行、売掛金、買掛金等の残高確認手続きの電子化
  • スキャンアプリを使った証憑の電子化
  • データアナリティクスツールを使った効率的かつリモートな財務諸表分析と不正リスク分析
  • AIを使ったデータ分析や契約書等の文書からの重要な情報の抽出と分析の効率化

 

※1) 2020年4月15日 プレスリリース 監査10法人「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」からの声明文について

 

III. おわりに

我が国をはじめ世界におけるCOVID-19の収束は見通しが立たず、企業の事業活動や会計監査人の監査業務にも極めて甚大な影響を及ぼしている。これらを踏まえ、経営者は従業員の安全確保に十分な配慮を行いながら、例年とは異なるスケジュールを想定して、決算業務を遂行していくことが求められている。このような困難かつ不確実な環境下でも、経営者は適正に財務諸表を表示することが求められている。

足元の対応もさることながら、本当に重要なのは、COVID-19の終息後となるだろう。近年の日本国内の市場の縮小とグローバルな戦いが余儀なくされる環境に加え、COVID-19による経済減速の経営環境にあって、コストは掛けられないが、業績を向上させなければならないというプレッシャーが、今後ますます強まると予想される。直接的には会計不正への誘因が高まるだろうし、人材不足等によるガバナンス劣化で品質偽装等の不正リスクも間接的に高まっていく懸念がある。

日本企業の忖度文化はこのような状況では逆機能を果たすリスクが高い。経営者は業績回復を旨としつつも、不正リスクに立ち向かうべく、自らを律するとともに組織風土を引き締めるという難しい舵取りが求められることになるだろう。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック & クライシスマネジメント サービス

マネージングディレクター 清水 和之

(2020.4.30)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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