ナレッジ

行動データ分析を通じた優秀営業員の育成体制構築

企業の売上に直結する営業員の成績・能力の向上は重要なテーマである。既存社員の育成について、全従業員が同じ研修を経ても、その成績にばらつきが出る点は育成の課題となっている。その根底には、全社的に「目指すべきセールス像」が共有できていない問題が浮かび上がる。データ化を通じた具体的なモデル像を構築し、育成に反映することが必要だ。

はじめに

企業にとって、業績の向上は最重要テーマと言っても過言ではない。直近ではシステム導入による業務自動化も進み、コスト削減も次第に限界が見え始めている中で、売上向上への取組みが一段と重要になっている。デジタル活用による施策も広く普及してきたが、営業員によるセールス活動は、いまだに企業の売上向上に大きく貢献している。経営の観点からも「いかに優秀な営業を確保・育成するか」は主要な経営課題と言えるだろう。

 

営業員育成の現状

営業力の補強

企業の売上に直結する営業員の成績・能力の向上は重要なテーマである。営業力の向上施策として、①既存社員の強化・②新戦力の採用が考えられるが、多くの企業で内閣府『平成30年度 年次経済財政報告-企業における人的資本投資の効果』に見るように、中途採用等の手段よりも自社社員の育成を主眼に置いている。

採用コスト・育成コストを考えれば、頻繁に人材の入れ替えを行うことは現実的ではなく、「所与の営業人員をいかに戦力化するか」が検討課題となるためであろう。
 

内閣府『平成30年度 年次経済財政報告』
第2-2-6図 企業における人材の補強方法

内閣府『平成30年度 年次経済財政報告』企業における人材の補強方法
※画像をクリックすると拡大表示します

営業員育成の現状

営業員育成の観点から、わかりやすい例として新卒社員を対象に成長過程を見ると、厚生労働省『労働経済の分析 - 人材育成の現状と課題』からも推測できるように、概ね下記のフローを辿ると考えられる。

入社後、人事部主導で新入社員に一律した初期トレーニングを行った後、営業部での受け入れ・OJT、次第に定期的な面談を交えながら自身が信じる「優秀セールス像」に向けて研鑽する、という流れが一般的だ。

育成
フェーズ

担当部署

育成状況

【参照先】育成項目

入社~

人事部


入社研修・営業研修

「企業内で行う一律型のOff-JT」
「企業が費用を負担する社外教育」

研修~

営業部


OJT担当者・先輩社員による育成

「計画的・系統的なOJT」
「定期的な面談」
「指導役や教育係の配置」

単独営業~

営業部

個人での自己研鑽

「定期的な面談」

 

厚生労働省『労働経済の分析 - 人材育成の現状と課題』
第2-(3)-3図 人材育成のための取組状況

厚生労働省『労働経済の分析 - 人材育成の現状と課題』人材育成のための取組状況
※画像をクリックすると拡大表示します

 

このような育成フローは多くの企業で同様であり、伝統的で正しい教育フローと言えそうであるが、その成果について見ると本当に「正しい」かどうかは疑わしい。同じ研修を経て現場に出た営業員にも関わらず、早ければ数ヵ月、遅くとも数年で成績に大きな乖離が出ることとなる点は、多くの企業で問題と認識されているのではないだろうか。

OJT研修担当者のセールス力・育成力によるばらつきや、個人の潜在能力による差異があることは否定できないが、その様な変動要素に関わらず成果を出せる営業を育成する仕組を確立することが、安定した売上の維持・向上に繋がる。
 

営業育成上の課題の在り処

掘り下げて、育成フローにおいてそれぞれが参照する「優秀セールス像」を想起すると、人事部はOff-JT教材、営業部はOJT担当者の感覚、単独営業はセルフコントロールと、思い思いのイメージを持っている姿が浮かぶ。

上記の問題を中心に、次章では営業員育成の課題について詳述したい。

 

営業員育成における課題

同一の育成フローを経た後にも、営業員の成績にばらつきが発生する背景を考察したい。

1. 部署ごとに「売れるセールス」のイメージ像が異なる

育成を担当する人事部・営業部などが持つ、それぞれの「売れるセールス」イメージは、往々にして異なることが多い。人事研修、ないし人事が作成する営業育成マニュアルは教科書的になることが多く、営業部から見れば「現場に出ればきれいごとでは売れない」と軽視されやすい。そのため、異なる教育を受けた社員は正しいスタイルを確立できず、円滑な成長を妨げる要因となっている。

営業スキルの可視化ができていない

営業成績については、必ずしも「頭がよく」「礼儀正しく」「誠実な」セールスが優れているとは言えない。どのような特徴が好成績につながるのか、多くの企業ではまだなお仮説の構築に苦戦をしており、効果的な優秀セールスのモデル像構築・育成に到達していない状況である。そのため、どのように育成すれば売れるのか、自信を持って育成をできる企業は少ないのが現状と考えられる。
 

2. 適切な研修の見直し・フィードバックがない

研修の内容について、適切に見直しがなされていない点も育成の課題である。定期的なフォローアップ研修や受講者のフィードバックアンケートを行う企業もあるが、研修内容自体が適切に改善されているかは再確認する余地がある。研修内容について、どれほど営業力、ひいては成績に影響があったのか、数値的に評価をすることはできていないのではないだろうか。
 

3. OJT担当者が適切に選定できない

OJT研修の担当者は「売れるセールス」から選抜されることも多いが、一概に「売れる」=「自分のやり方を教えられる」とは言えず、育成の効果が出るかは疑わしい。また、売上向上の観点から見ると、OJT研修を担当する営業部担当者は、営業時間の一部を育成にまわす必要があり、営業時間の減少から成績が低下する可能性がある。

上記3点はいずれも、部署間で「共通のものさしが持てない」ために「共通のゴールを目指すことができていない」点にある。経団連『人材育成に関するアンケート調査結果』を参照しても、「社員の職務経験・能力を広く社内に公開している」と回答した企業はわずか4.6%に留まる。

 

経団連『人材育成に関するアンケート調査結果』
4. (6)社員の職務経験・能力に関するデータベースの状況

出所:経団連『人材育成に関するアンケート調査結果』社員の職務経験・能力に関するデータベースの状況
※画像をクリックすると拡大表示します

この問題を解消し、全社的に共有できるデータ取得・管理を行い、適切な施策を講じることで効果的な育成・売上の最大化は実現が可能となると考えられる。

具体的な施策として考えられる手法として、「システム部によるセールス能力の数値化」が挙げられる。   

 

セールスマン育成の主要論点

システム部によるセールス能力の数値化

システム部によるセールス能力の数値化とは何か。ここではシステムデータを活用することで行う、営業員の「ふるまい情報」を数値化することを指す。従来の訪問件数や電話件数といった、CRMで保有する「管理項目」とは異なる、行動の情報である。

従来、営業員の研修は社是社訓を反映した自社の育成指針に「Professional Selling Skills」や「Comprehensive selling skills」を始めとした古典的なセールススキル研修をブレンドしたもので行われてきた。これらはいずれも定性的な考え方をベースとしており、「誠実に」「うなずきを多くし傾聴する」というような精神論・方法論に陥りやすい。

これからのセールス育成は、定量化した数値を目標とし、関係各部で連携し営業能力の向上を目指すことになる。数値化はデジタルと相性がよく、主管するシステム部の貢献はトップラインの向上に寄与すると考えられる。RPA・ロボティクスやAI導入を含む、システム活用によるコスト削減がひとしきりした中、システム部発信で内部向けのデータ活用を高度化することで、業績の向上が狙えるのではないか。


全社共通の認識を持つメリット

営業行動の分析を行い数値化を進めることで、関係各部が腹落ちする優秀セールス像が明確になる。その結果、最も効果的な営業力の最大化が実現可能となる

全社共通の認識を持つメリット
※画像をクリックすると拡大表示します

<参考文献>

内閣府『平成30年度 年次経済財政報告』
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je18/pdf/p02022.pdf (外部サイト/PDF, 488.4KB)

厚生労働省『労働経済の分析 - 人材育成の現状と課題』https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/14/dl/14-1-2_03.pdf(外部サイト/PDF, 1.30MB)

経団連『人材育成に関するアンケート調査結果』https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/008.pdf(外部サイト/PDF,  1021KB)

リスクアドバイザリー 新規事業推進の関連情報

最新のナレッジやサービス事例を探す

リスクアドバイザリー 新規事業推進に関するお問い合わせ

サービス内容等に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせフォームにて受付いたします。お気軽にお問い合わせください。

オンラインフォームより問い合わせを行う

※お問合せにつきましては、担当者よりメールにて順次回答しておりますのでお待ちくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

お役に立ちましたか?