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2021/22年度の香港予算案と経済政策

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2021年3月15日)

香港の経済状況

2021年2月24 日、陳茂波(Paul Chan Mo-Po)香港政府財政長官は、立法会(議会)の予算演説にて、2021・22 年度(21年4月~22年3月)の政府予算案と経済政策を発表しました。
香港ではCOVID-19の影響などから、2020年度のGDPは過去最大の減少幅の△6.1%となり歴史上初の2年連続のマイナス成長、失業率はCOVID-19直前の3.3%から7%に上昇となりSARS流行以来17年ぶりの失業率の高さとなりました。また財政においては中国-米国間の貿易問題などの影響で、経済見通しが不透明な2020・21年度(20年4月~21年3月)は、個人への経済支援等へ財政を支出したことによる過去最大の2,576億香港ドルの財政赤字となる見込みとなりました。最上位である香港基本法の香港予算案策定では歳出額が歳入額に収まる範囲とし、運営においても歳出と歳入の均衡が原則として求められており、財政赤字は過去15年間ないことから2021/22年度の政府予算案と経済政策の発表は特に注目が集まりました。

香港風景イメージ

香港予算案および経済政策の概要

予算案および経済政策の冒頭で、陳財政長官は最重要・緊急対応としてCOVID-19のワクチンプログラムの促進、香港-中国・その他各国への制限なき移動などのCOVID-19への対策・措置をあげ、人々の生活と事業環境を正常化に戻すための支援にコミットすることを力強く伝えました。
また、香港政府は企業および家計の支援、個人の雇用の保護等を通じ、2021年のGDPの成長率は3.5-5.5%のプラス成長と予想されています。

上記状況より、2021・22年度の経済政策の発表では、新型コロナウイルス感染症の流行で大きな打撃を受けた経済と市民生活を支援する措置だけでなく、増税など市民への負担が増す措置を盛り込んだ政策が発表されました。2021・22年度の政府予算案の歳入合計額は6,262億香港ドル、歳出合計額は7,278億香港ドルで、1,016億香港ドルの赤字となっています。

以下には、香港政府が発表した主要な経済政策を列挙します。

■ 企業への事業所得税の軽減および救済措置

・2020/21年度の事業所得税軽減(10,000香港ドル上限)

・2021/22年度の事業登記費用の免除

・2021/22年度の非居住用不動産に課すレート軽減(最大14,000香港ドル)

・8か月間にわたり非居住不動産で使用する上下水道費用免除(最大32,500香港ドル)

■ 個人への給与所得税の軽減および救済措置

・2020/21年度の個人の給与所得税等軽減(10,000香港ドル上限)

・失業者に対して最大80,000香港ドルを上限に政府が借入の債務保証を実施し、5年間にわたり利率は1%で借入可

・2021/22年度の居住用不動産に課すレート軽減(最大5,000香港ドル)

・各電気代金口座に対して1,000香港ドルの補助金支給により電気代を支援

・2022年の香港の大学入学試験にかかる費用を免除

■ 経済対策および政府歳入の増加

・18歳以上の香港永住権を持つ個人に対して5,000香港ドルの電子消費券の支給

・株式取引の印紙税率を現状の0.1%から0.13%に引き上げ

■ アセットマネジメントおよびファミリーオフィスにかかる事業への支援

・向こう3年以内に、追加型ファンドの香港での新設および香港への移転、またはREITの香港上場に関わる香港現地で発生するプロフェッショナルサービス費用に対して、それぞれ1百万香港ドル、8百万香港ドルを上限に補助金を支出

・Invest HKおよび規制当局はファミリーオフィスに対してワンストップのサービスを提供し、今後ファミリーオフィスに関連する税法を見直す

■ グレーターベイエリア(※)の発展への寄与

・中国と香港のボーダー沿いのLok Ma Chau LoopのHong Kong-Shenzhen Innovation and Technology Parkの開発推進

・グレーターベイエリア若年層雇用スキームを通じて、テクノロジーおよび技術革新の領域について、大学卒業生が職につく機会、また実地訓練を受ける機会を与える

■ 持続可能な都市建設

・自動車の初回登記税の各段階の税率を15%、車両免許料を30%、それぞれ引き上げる

・環境配慮型の事業に使途を絞った債券「グリーンボンド(環境債)」を向こう5年で計1,755 億香港ドル規模発行する方針


中華人民共和国国務院によって制定され、香港・マカオ・広東省珠江デルタの九つ都市を統合したエリアを目指す地域発展計画

日系企業におけるビジネスチャンス

香港の国際金融ハブとしての地位を更に向上させるため、テクノロジー/技術革新/バイオテック/システマティックリスクの新しい領域についてレギュレーションを整備し、投資を促進することを打ち出しています。また上記の通り、アセットマネジメントやファミリーオフィスの事業に対しては優遇した制度を打ち出しており、香港の金融は引き続きアジアの中で中心的な存在となり続けることが予想されます。

また当政府は一大経済圏、世界クラスの都市集合体の構築する構想(世界の三大ベイエリアであるニューヨーク、サンフランシスコ、東京湾を目指す)の為のグレーターベイエリア構想を促進しテクノロジー・技術革新ファンドに95億香港ドルを投入することを発表しました。当ベイエリア面積は中国全体の1%未満ですが、人口は約7千万人となり中国のGDPの約12%を生み出しており港珠澳大橋(香港-珠海-マカオ間を結ぶ橋)の完成などインフラ投資は進んでおり、引き続き質を伴った経済の拡大が期待されることから、中国に進出する日系企業においては当ベイエリアへの取り組みがひとつの成長機会になると期待されております。

 

最後に

全体として、香港政府の予算案・経済政策は、一方的に救済の歳出過多へ傾くことはなく、増税などを通じて歳入をあげることも考慮した将来の財政規律を考慮した内容となっています。香港の特徴、強みである金融、テクノロジー、技術革新に対してCOVID-19後の経済回復を見据えた経済政策となっており、将来の香港の堅実かつ無理のない成長が期待されます。
筆者が所属する香港のデロイトのリスクアドバイザリーでは、金融機関のレギュレーション対応への支援や、進出後のガバナンス・内部統制の構築支援を行っています。何かご不明点や疑問点等ございましたら、お気軽にお問合せください。

著者:竹内 裕一
※本ニュースレターは、2021年3月15日に投稿された内容です。

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