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コロナ禍におけるマレーシアの状況と留意すべきリスク

APリスクアドバイザリー ニュースレター(2021年3月22日)

読者の皆様は過去にマレーシアに訪れたことがあるであろうか。日本人のロングステイ希望国トップはマレーシアだという(「ロングステイ財団調べ『ロングステイ希望国・地域2019』」)。それも、ハワイ、タイ、オーストラリアといった人気国をおさえての14年連続の1位である。

マレーシアの圧倒的人気を支える要因は何かという視点でマレーシアの特徴に言及しつつ、コロナ禍の真っ只中に赴任した筆者が、現在のコロナ禍におけるマレーシアの状況と特に留意すべきリスクについてご紹介したい。

マレーシアの物価

まず人気の理由の1つとして真っ先に考えられるのが物価である。必ずしもすべてが安いというわけでもないが、間違いなく住居にかかるコストに関しては割安感を感じるはずである。

日本人駐在員がファミリーで借りるようなセキュリティの整ったコンドミニアム(≒マンション)でも、クアラルンプールの中心部でもない限り3LDK :10万円/月くらいから選択肢が出てくる。だいたいプールやジムが併設されており、日本のタワーマンション並みの共用施設のメリットを享受できるのはうれしい。日本ではリモートワーク導入の際に仕事部屋の確保に苦労される方も多いと思われるが、マレーシアではリモート会議においてマイクが周りの音を拾うことが少なく、これは日本と比べて住居の広さに余裕があるからだと思われる。

セランゴールのコンドミニアム(トロピカーナガーデンズ)
ツインタワーなどがあるクアラルンプール中心部から、30分ほど離れたところにあるセランゴールのコンドミニアム(トロピカーナガーデンズ)。ただし、コロナ禍ではスポーツジムとともに基本閉鎖されている。

一方、住居と違って、モノや食品の値段は日本と大きく変わらないように感じられる。輸入品はむしろ高く、日本産の商品などは日本のスーパーマーケットの50%増しのイメージである。もっとも筆者の普段の買物圏がVillage grocerやJaya Grocerといったマレーシアでは高級スーパーとされるところだからかもしれない。市場などに行って屋台のような店で買えば安くあがるはずであるが、コロナ禍の昨今、なかなか足が伸びないでいる。食品はこのように個人的にはあまりメリットは感じられないが、外食となると圧倒的に安く感じる。ローカルフードであれば300円くらいで何かしら食べられる。人件費や不動産コストの違いが反映されていると思われる。なお、お酒はスーパーでも外食でも圧倒的に高い。マレーシアは飲酒が基本禁止されているイスラム教が国教であることもあり、酒税が高く設定されているためである。

マレーシアの炒飯(Nasi goreng: ナシゴレン)
マレーシアの炒飯(Nasi goreng: ナシゴレン)。価格は約15RM(約400円)

マレーシアは英語が用いられており、言語のハードルは低い

人気の特徴として次に考えられるのが、英語が日常的に用いられていることである。マレーシアは多民族国家である。マレー系、中国系、インド系大きく3つのグループがあり、それぞれ、マレー語、中国語、タミール語を母国語とするのであるが、相互に意思疎通するための言語が必要であり、共通語として英語が使用されている。英語学習は小学校1年生から必須化されており、簡単な英語であれば、日常生活で意思疎通ができず困ることはない。ビジネスの場で日本人駐在員が現地スタッフとコミュニケーションを取るうえでの苦労も、一般的な非英語圏の他国と比べると低いと思われる。一方、スペースが限られている看板や道路標識は、観光地以外はマレー語のみの記載が多く、若干の不便を感じることがある。

 

社会インフラ・治安に大きな不安はない

ロングステイする上で、気になるのが社会インフラや治安のレベルである。この点、マレーシアは先進国でもなく新興国でもない中間的な位置づけの国であると思われるが、治安も悪くなく、社会インフラも一定以上に整っている印象だ。鉄道も日本と比べると限定的な範囲でしか整備されていないが、清潔感もある。また、治安についての筆者個人の経験ではあるが、犯罪に巻き込まれるなどの怖い思いをしたことはない。全般的な衛生面でも、ほとんどの人にとっては気にならないレベルではないだろうか。ただ、個人的に一点不満があるとすれば、水質である。生活用水には浄水フィルターを購入しているが、1か月もしないうちにフィルターが真っ黒になる。そのため、ミネラルウォーターを使用する機会も多く、1.5リットルのペットボトルを毎日最低3本は消費するという環境的にも金銭的にも全く“エコ”ではない生活をしている。

マレーシアの電車内
電車は清潔感がある。ただし活動制限令のため、ほとんど人は乗車していない(同一地域内の単距離移動および許可証保有者のみ)

以上、住居や外食に特に顕著に見られる割安感のある物価、共通言語としての英語の普及、一定レベル以上の社会インフラ・治安など、日本人が転職や退職して住む国としては、十分な魅力があり、それらの要素が複合的にマレーシアの人気を支えていると考えられる。

駅に掲示されているマレー語のポスター
駅に掲示されているポスター。マレー語はアルファベットなので、一見読めそうに感じられるが、理解には及ばない。(※画像をクリックすると拡大表示します)
ペットボトルと浄水フィルター
新品と2週間使用後のフィルター。料理等にはミネラルウォーターを使用している。ネットショッピングで大量に購入しているが、コロナ禍で業者が建物に入れず、部屋までの配送がなくなり筆者は苦労している。

新型コロナウイルス感染症による変化

上記の通り比較的安心・安定な生活を送れるマレーシアであるが、現在のコロナ禍で状況が変化している。マレーシアではコロナ感染拡大初期の2020年3月18日に活動制限令(MCO:Movement Control Order)が発令された。これは人々の移動や企業活動が強制的に制限・停止されるものであるが、発表が2020年の3月16日と突然だったため衝撃が走った。日本の緊急事態宣言とは違い、マレーシアの活動制限令には強制力があり、問答無用で逮捕もしくは罰金が科せられる。実際、ジョギング中の人が逮捕されたりもしているし、2021年3月現在ではマスク未着用でも罰金がある。その後、MCOは2か月間続き、5月半ばに条件付活動制限令(CMCO:Conditional Movement Control Order)、6月半ばには回復のための活動制限令RMCO(RMCO:Recovery Movement Control Order)へと段階的に緩和されたが、10月以降の感染拡大により再び規制が強化されはじめ、2021年1月には再びMCOが発動されるに至った。そのためマレーシア国民にとっては、この1年間は基本的にずっとコロナに苦しめられた1年だったと言える。当然、日常生活もかなりの我慢を強いられており、子供にとっても娯楽施設や公園が閉鎖、学校もオンライン授業に切り替わるなど厳しい1年であった。安定した生活や十分な教育機会の確保のため、日本人駐在員の家族は帰国して日本の学校に転校したり、家族帯同の予定を取りやめたりするなどの動きが目立った。

 

マレーシアにおける新型コロナウイルス感染症の感染者数推移

マレーシアにおける新型コロナウイルス感染症の感染者数推移
出所:マレーシア政府統計局 www.outbreak.my ※画像をクリックすると拡大表示します

コロナ禍におけるリスク

上記のような状況で、マレーシア国民は日本同様、いや日本以上にライフ&ワークスタイルの急速な変化を余儀なくされた。これに伴って、事業運営上のリスクも増加しており、筆者は以下の2点に着目している。

(1)ビジネス環境の急激な変化による対応すべきリスクの多様化

業種による営業制限や、出社率に制限がなされたためリモートワークは実質強制状態になり、レストランの営業停止や外出を極力避ける傾向から、巣ごもり消費としてオンラインショッピングの利用が加速した。企業は、従業員のリモートワーク環境の整備やオンラインビジネスの開始・強化など、急激な変化に対応しなければならない1年であった。実際、日系企業においても、大手自動車メーカーがオンラインショッピングに出店するなどの動きも出てきている。このようなリモートワークへの移行、ビジネスのオンライン化などにより、情報セキュリティやサイバーリスクへの対応など、自社で対応すべきリスクの種類や範囲は急速に拡大したといえる。

(2)従業員の離職によるオペレーションレベルの低下

コロナ禍で景気が悪化している中、各企業において短期的に見れば離職率は低下しているかもしれない。しかしながら、大手リクルートメントマレーシア社が行った2020年マレーシア人転職意識調査によると、2020年3月のMCO前とMCO後で、転職希望者の割合は56%から76%へと20ポイントも増加しているようだ。その理由として、これまでの「キャリアアップ」や「報酬水準アップ」など個人の希望が中心であったが、「現職企業の経営状況の変化」という会社の変化自体を理由に挙げる人が増えたようだ。マレーシアでは、他の東南アジア諸国と同様、特定の個人のスキルに依存した業務運営が少なからず見受けられる。そのような会社は、この人がいるから大丈夫と頼りにしていた人が突然退職するなどの事態になった場合、オペレーションレベルを維持できるだろうか。特定の個人に依存しないための、業務の標準化、見える化などが予防策として重要となってくるであろう。

 

最後に

以上、日常生活の様子に触れつつ、コロナ禍にあるマレーシアの状況をお伝えした。本稿により、少しでも皆様にマレーシアの様子を知ってもらい、今後のリスク対応策を検討する上での参考としていただければ幸いである。

著者:椙下 翔太
※本ニュースレターは、2021年3月22日に配信された内容です。

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ap_risk@tohmatsu.co.jp

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