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ライセンス契約書における監査条項

ライセンシーの契約遵守性を担保する

監査条項とは、ライセンス契約書において通常設けられる条項で、対象製品の適用範囲、地理的テリトリー、ロイヤリティ金額の算定等についてライセンシーの契約遵守性を担保するため、ライセンサーに付与されている対象製品の売上に関連した会計帳簿、その他資料等に対する監査権を意味する。本条項について背景を含めて説明する。

監査条項の例

Licensee shall allow a certified public accountant appointed by Licensor to audit the books and records. If Licensor notifies Licensee of an underpayment based on the royalty reports, Licensee shall make such underpayment with interests pursuant to Section xx. Licensor shall bear the auditor’s expense; however, if any underpayment is over five percent (5%) , then Licensee shall bear the auditor’s expense.

● ライセンス調査でライセンシーから入手する情報には販売先などライセンシーの企業秘密に関する事項が含まれること、およびライセンサーにライセンス調査を実施するノウハウがないことから、ライセンサーが公認会計士を指名し、監査(以下、「ライセンス調査」という)を実施させることを契約上明文化しているのが一般的である。

● 調査費用はライセンサーが負担することが通常であるが、ライセンス調査で発見された過少報告・支払額が既に支払われたロイヤリティ額の一定割合(通常は5~ 10%)を超えている場合には、調査費用をライセンシー負担とする旨を規定していることも多い。また、過少報告・支払が発見された場合には、契約で遅延利息が加算される

背景

監査条項が設けられた背景としては、ライセンサーは基本的にライセンシーのロイヤリティ報告を信頼するしかなく、それが契約書に基づき適切かつ正確に計算されたものであるか分からない場合が多いためと考えられる(ライセンサーの権利保護)。対象製品によっては、マーケット情報で推測可能なものもあるが、外部情報からライセンシーの販売状況を正確に把握することは通常困難である。

そのため、ライセンス契約において対象製品の売上高、ロイヤリティ金額以外に、報告対象とする情報について規定することが重要となってくる。例えば、ロイヤリティ報告書で販売先や販売国に関する情報が入手できれば、販売先や販売国ごとの売上増減分析、マーケット情報との突合等がライセンサー自身で実施可能となるからである。ライセンシーおよび市場動向を適宜チェックし疑問点をライセンシーに確認するモニタリング活動も、過少報告だけでなく将来の紛争・訴訟を防止する上で非常に重要である。

監査権の行使

監査権行使の決定要因は、特定のライセンシーにロイヤリティ過少報告の兆候・疑義がある場合ケースや、自社の知的財産権が最大限に活用されていることを確認するプログラム(契約遵守コンプライアンスを含む)の一環等さまざまである。

 特定の兆候・疑義として多くみられるのは下記の事象である。

 ● 契約締結前の予想売上・受取ロイヤリティ額と実際の報告額に大幅な乖離がある

 ● 対象製品の市場規模が拡大しているにもかかわらず、ロイヤリティ額がそれに比して伸びていない

 ● ある期間のロイヤリティ報告からロイヤリティ額が著しく減少したが、ライセンシーから満足のいく説明が得られない

 ● ライセンシーが過去支払ったロイヤリティに過払いがあったので返金して欲しいと主張している

 以前は欧米企業ライセンサーが日本のライセンシーに対して監査権を行使することが多かったが、近年では日本企業ライセンサーが海外ライセンシーに対して監査権を行使する例が増えている。

 ライセンス契約締結後、長期間(例えば10年後)を経てライセンス調査を実施した場合、契約締結時まで遡れるのは稀であること、また調査期間が長期にわたると過少報告額およびその遅延利息も高額になり過少報告が明白であってもライセンシーが支払に難色を示すことから、契約締結後速やかな監査権行使が望まれる。

監査権行使の効果

監査権の行使は、過去の過少支払ロイヤリティの徴収にとどまらず、下記の効果も期待できる。

 ● ライセンス調査の終了後は、ロイヤリティの計算がライセンサー、ライセンシー双方の納得した方法に変更されるため、将来のロイヤリティ額が増加し、キャッシュフローが良くなる

 ● ライセンシーのビジネスが理解できたことで、より深い信頼関係が築ける

 ● 企業のステークホルダーに対して、知的財産権の価値を高める活動として説明できる

 ● 他のライセンシーに対する牽制

この様に、監査条項はライセンサーとして権利を将来にわたって守るため、重要な意味を持っている。ライセンス契約締結の際には、監査権を行使することを念頭に置き、慎重に対応することが求められる。

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