Deloitte Digital Cross / AIが「手段」となる教育を目指して。未来を変える次世代デジタル講座、初開催

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2020/12/24

不確実な世の中、私たちは未来を予測するのではなく、まだ見ぬ未来を創り出していかなければいけません。

Deloitte Digitalは、グローバル60か国で展開し1万6千人以上がかかわっている、デジタルトランスフォーメーションに用いるブランドで、デジタルを駆使した未来の創造に取り組んでいます。

新連載「Deloitte Digital Cross」では、ビジネスの枠を広げて、スポーツ、ファッション、エンターテインメント、教育など、社会に新たなエクスペリエンスを生み出すことを目指す対話をお届けします。

今回Deloitte Digitalのメンバーと対談いただくのは、サイエンスに特化したインターナショナルスクール、Manai Institute of Science and Technology(以下Manai)代表の野村竜一氏。

2021年1月よりDeloitte DigitalとManaiが協力して開催するデータサイエンス講座を前に、メディアからコンサルタントに転身した新メンバーである元ニュースキャスターの若林理紗が、野村氏とDeloitte Digitalの中心人物であり、長年AIとビッグデータの活用に従事してきた森正弥に「次世代に必要なデジタル教育」についてインタビューしました。

新時代に必要な「分析×アート」による社会デザイン

――まず、Manaiとはどのような学校なのでしょうか。

野村:先生が授業を行う学校とは異なり、Manaiには教師という存在がいません。

生徒自身が自分のサイエンスプロジェクトを持ち、そのプロジェクトを運営していく中で、自然とさまざまなことを学んでいく形となっています。ただし、ただ一人で進めていくのではなく、職員がメンターとして定期的にサポートするので、学校というよりも、研究所に近いイメージかもしれません。

職員に求められるのは、生徒に問いかける中で、生徒自身が違う視点を持つきっかけを作っていくことです。生徒がひとりでサイエンスプロジェクトを運営していると、データの分析ばかりに目がいってしまい、「どう使うのか」という視点が抜け落ちてしまうことがよくあります。これを防ぐために、私は生徒たちに「これで誰を幸せにするのか」、「誰のどのような問題を解決するのか」ということを絶えず問いかけています。これがManaiの大きな特長です。

野村竜一

Manai Institute of Science and Technology 代表。東京大学教育学部卒。NHK、USEN、外資コンサルティング会社を経て、論理的思考養成塾である学習塾ロジムを運営する株式会社ロジムを創業。2019年、市ヶ谷にManaiを開校。運営全般を担当しながら、「複雑で答えのない問題に対処する」ことを訓練する論理思考養成カリキュラムの作成、講師を担当。

――2021年1月からDeloitte Digitalによる協力講座「MANAI データサイエンス講座 2カ月プログラム ~AI×10年後の社会とワタシの未来~」が始まります。協力講座を開くにいたった思いは?

森:この講座を受講する生徒は、AIあるいはデータサイエンスとよばれるテクノロジーの最前線と、それが企業活動、あるいは社会にもたらす価値について学ぶことになります。

現在AIは急速に普及していて、インターネットサービスだけでなく、製造業や金融、電気やガス等のエネルギー、交通や都市開発や医療等、ありとあらゆる領域でAIを使ったサービスが開発されています。一方で、AI人材が足りない、AIの技術を覚えただけではAIを社会に活かしていくことができないという課題があります。

AIの強みや課題を正しく理解し、適切に生かせる人材になるには、ただ受け身で学ぶのではなく、新しい課題解決や方法論を見つけ出す自主性が必要になります。そこで、Manaiの特徴である「自主性を重視する」スタイルと、我々Deloitte Digitalが持つ「AIの知識」を融合させた形で新しい講座を作っていこうとなりました。

森正弥

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員。外資系コンサルティングファーム、グローバルインターネット企業を経て現職。ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。DX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みをもつ。

森:データサイエンス講座では、受講生と一緒にAIをつかった社会課題の解決や新しい方法論などを生み出していきたいと考えています。そのためには、AIといえば分析のイメージがありますが、分析の手法だけではなく、分析したものをいかに表現し、アウトプットしていくのかも重要になるでしょう。

とすると、いかにして我々講師陣が受講生の表現力、つまりアートの部分を引き出していけるのかがポイントになってくるはずです。

野村:AIという言葉には、機械的で論理の権化というイメージがあります。しかし本講座では「論理では再現できない人間性をどう意識していくのか」という部分についても伝えていきたいと思っています。

――大人こそ柔軟でなければいけないと思いましたが、具体的に、新しい方法論を見つけ出すために必要な考え方は何でしょうか?

森:これまで企業は、サービスのクオリティや顧客に対する価値を追求してきました。それはひとつの正解ではあったのですが、その目線のなかで失っていることもあったと思います。

たとえば、ステークホルダーというと「顧客」のみに注目してしまいますが、従業員や地域社会など、多様な人たちも重要なステークホルダーです。しかし、顧客やサービスのクオリティなどにフォーカスすると、その視点が抜け落ちてしまいます。

仕事のやり方やビジネスのプロセスが大きく変わっていく状況下では、次の一歩を踏み出す前に、「仕事をする上で重要な価値」を再認識する必要があります。我々は、それを「ヒューマンセントリック」ではないかと考えています。つまり、「人」を中心においたビジネスや仕事のやり方を考え直す必要があるのではないか、ということです。

野村:「ヒューマンセントリック」という考え方は、データサイエンス講座と通じていると感じています。

今回の講座では、単純にAIを学ぶだけではなく、AIにまつわる知識や身につけたものを使って自分が生きる社会をデザインすること、そしてプレゼンテーションでは、どのように表現して周りを巻き込むのかにも挑戦してもらいます。

大人が見直すべき、教育現場に必要な本当の環境

――ヒューマンセントリックを実践する若者を育てていくには、どのような教育環境が必要だとお考えですか?

若林理紗

デロイト トーマツ コンサルティング スペシャリスト。さんいん中央テレビでアナウンサー兼記者として地方創生などの取材を手がけたのち、2014年セント・フォースに所属。NHKや日本テレビの報道番組のキャスターとして国際情勢から貧困世帯の教育支援、サステナブルビジネスなどを取材しながら、情報リテラシーの普及活動にも従事。2020年8月より現職。

野村:これまで教育現場では「覚えたことを再現する」ことに重点が置かれていました。私自身、正解をたどることに最適化しすぎていましたし、周りを見渡してもそういう人間がとても多い。

しかし、この経験は、実社会ではあまり意味をなしません。社会に出たとたん、「正解はたくさんある。環境や素材を考慮し、自分なりの答えを出しなさい」と言われてしまうからです。覚えたことを再現しようとしても、とても太刀打ちできないのです。

こういった状況に対応するためには、「覚えたことを再現する」のではなく、「自分たちで手を動かし、考え、何かを作り出すなかで学んでいく」ことが重要だと考えました。それこそが、Manaiを作った理由です。若い人たちにそのような環境を用意することで、人材の育成や社会課題の解決に繋がると信じています。

森:以前のものづくり社会では、ものの作り方が決まっていたので、装置や機器を駆使して生産性を高めればよかったため、覚えたことを再現する教育は一定の効果があったのだと思います。

しかし、時代は変わりました。ヒューマンセントリックを実践するためには、「人々の働き方や仕事のやり方をいかに変えていくのか」が求められています。そこで、多様なデータを分析して新しい視点を示すことができる「AI」に期待が寄せられているわけです。

そうなると、AIの知識を修得するだけでは十分ではありません。AIを使ったらどういったことが起きるのかを考え、試し、みんなと協力し新しいものや仕事を作っていくことが必要となります。さらに、周りを巻き込む力も重要になります。そういった意味では、AIによって教育も変わっていかないといけないのかもしれません。

――野村さんは学校を立ち上げる前はビジネスの世界にもいらっしゃいました。ビジネスの視点から見る教育の課題はなんでしょうか。

野村:ビジネスや社会課題において、学びがどう応用されるかという視点が教育現場で欠落しています。ビジネス界から教育界に対し、デジタル人材やAI人材を育成してほしいという要望があることは承知しています。しかし、現在の教育界には、そういった人材を育てるための環境は整っていないと思っています。

教育側ができることはとてもシンプルで、「生徒が自分でプロジェクトを持つ時間をたくさん取ること」に尽きると考えています。子どもが自分でプロジェクトを持てば、自然な行為としてデータを解析したり、それを活用してプロジェクトを推進したりしていこうとします。

たとえば、プロジェクトを進めるにあたってデータの解析が必要となれば、そのために必要な知識やノウハウを学び、使えるようになっていくでしょう。実際、海外の研究者などは、コーディングなどを外部に委託することなく、自分自身で行いデータを解析します。そうした行為がない中、AIや機械学習などを教科として学んでも、ビジネス業界が求めている人材の育成や企業の施策と繋がっていかないでしょう。

一方、Manaiの生徒たちに目を向けると、「AIを使えるようになりたい」と考えている生徒が多いと感じています。それは、自分の持っているプロジェクトを推進するためにAIやデータサイエンスに興味を持っているからです。実際、このデータサイエンス講座を楽しみにしているという声をよくききますね。

デジタルネイティブと現役世代、協業の先にある未来

――野村さんがおっしゃるとおり、ビジネス界からデジタル人材育成への要望は高いといわれていますが、日本ではデジタル人材が不足していると言われています。この状況はどう打破していけばいいのでしょうか。

森:日本でもデジタルネイティブの世代が台頭してきていますが、大きな企業の意思決定をするキーパーソンやチーム、組織の中に、デジタル世代が存在しているとは言いがたいのが現状です。

しかし、新しいマーケットのルールや仕事のやり方、新しい価値観などはだんだんと社会に浸透しつつあります。海外では、意思決定権のあるキーパーソンやチーム、組織などに若い人材を登用し、デジタル世代の感覚や発想、アプローチなどを採用しているケースもあります。日本は、昔のやり方を守りすぎている傾向がありますが、うかうかしていると世の中が大きく変わってしまうでしょう。

企業は、若い世代のアプローチを吸収していくことで、社内のやり方を変えていかなければなりません。そのなかで、必要な人材が社内からどんどん生まれていくでしょう。

――教育界に求める前に、ビジネス側もすべきことがあると。森さんのチームにも20代30代の若いデータサイエンティストが多く活躍していますが、さらなる次世代への期待は?

森:AIを使うことが目的ではなく、AIを使って何をしたいのかが重要です。AIを「手段」として使える若者たちが成長し、ビジネスの世界に足を踏み入れたとき、大きく変わっていく可能性はあると思います。

AIの世界では、これまでの常識を覆すようなことが多くあります。たとえば、AIに学習させるデータは、以前はノイズを取り除かないとうまく学習できなかったのですが、2012年に驚異的な性能をもって登場してきたディープラーニングに関しては、ノイズを含めた方が学習効果が高まったのです。

なぜそういう結果がでるかの原理はまだ解明されておらず、昔から取り組んでいる人ほど、訳が分からない状態になっています。そのため、先入観を持たず、まっさらな気持ちで学んだ人がAIを使いこなすことができることがあります。

一方、たとえば仕事のやり方を変えていく場合、現在の仕事のやり方がどうなっているのかについても知っている必要があります。そうでなければ、何をどう変えていいのかが分からないからです。

つまり、デジタル世代の人たちだけが集まって解決できる問題ではなく、先輩の考え方ややり方、そしてビジネスなども理解しながらではないと、変化を生むことはできません。

そのため、人材の育成は簡単にはいかないと思っています。しかし、いまはジェネレーションが切り替わるタイミングでもある。だからこそ、若い世代と先輩世代の両方を理解し取り組んでいかなければならない。そのために、様々な取り組みをしていく必要があります。

野村:私は「AI人材が必要だから育てよう」という考え方では、うまくいかないと思っています。これまでも語ってきましたが、AI人材を育てるには、「AIが必要だからそれを使う」という視点が必要。習うのではなく、それを使うことによってプロジェクトが進み、コミュニケーションも円滑になる。そうした環境を整えていくことが重要ではないかと思っています。

――生徒のみなさんと未来を描くためにも、大人たちに問われることも多くありますね。最後に、講座の受講生たちにメッセージをお願いします。

野村:教育や学びの目的は、学んだ人間が「未来は自分で変えられる」という感覚を持つことです。今回の講座は、AIという技術を使って新しい未来を自分で描くことを目指しています。そのため、本講座は「未来は自分で変えられる」、「外の世界にアクセスできる」という感覚が持てるような工夫を施していきます。

森:確かに、受講生たちが「未来を変えられる」という実感を持てるような講座にしていきたいですね。

同時に、AIやデータサイエンスの知識を使って社会課題に挑戦している先輩たちがいることも伝えていきたいと考えています。講師として参加するDeloitte Digitalメンバーも、挑戦をしている先輩であることは間違いありませんので、そうした姿も見せてあげたいと思っています。

【講座紹介】

MANAI データサイエンス講座 2カ月プログラム AI×10年後の社会とワタシの未来

協力 :
Deloitte Digital / 株式会社グルーヴノーツ

講座詳細・参加申込 :
https://manai.me/ja/program_202101/
※2020年12月31日 募集締め切り

PROFESSIONAL

  • 森 正弥/Masaya Mori

    デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

    外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国の研究開発を指揮していた経験からDX立案・遂行、DX組織構築、ビッグデータ、AI、5Gのビジネス活用に強みを持つ。過去に情報処理学会ア...さらに見る

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