Posted: 02 Feb. 2024 10 min. read

多数のデータを駆使して新しいチャレンジを

Deloitte AI Institute │Spirits #10

今、まさにビジネス界に変革をもたらしつつあるAI技術。その強力なパワーを最大限に引き出し、新たな価値を創生するには、それを支える膨大なデータと真摯に向き合い、戦略的に情報をコントロールしていくデータサイエンスの技術が不可欠です。

 

デロイト トーマツ グループの Deloitte AI Institute には、人とAIが協調する社会「The Age of With」の実現に向けて、日夜精魂を傾けつづける先駆者たち「AI Spirits」が多数在籍しています。このインタビューシリーズでは、そんなデロイト トーマツの「AI Spirits」1人ひとりに焦点を当て、AI導入の最前線とその魅力についてお伝えします。

 

第10回は、データ分析・活用のスペシャリストとしての豊富な経験を活かしつつ、AI導入の現場で数々の実証実験やガバナンス制定に携わっているデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 ヴァイスプレジデントの完倉に話を聞きました。

 

 

 

 

経営層に届くコンサルティングスキルを高めたい

 

― 自己紹介をお願いします。
 

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 ヴァイスプレジデントとして、主にデータ分析、直近ではデータガバナンスの案件に携わっています。

 


 

― これまでの経歴を教えてください。

 

2009年からデータ解析のベンチャー企業で、当時はデータマイニングと呼ばれていましたが、今でいうデータサイエンス分野の業務に従事し、市場調査のマーケティングやコンサルティング、データ分析基盤のリプレイスなどを経験しました。

 

次にいわゆる「共通ポイントサービス」を運営する事業会社に移り、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、小売や専門店などのアライアンス企業へのマーケティングやコンサルティング、データビジネスのマネタイズ企画などに従事していました。ユニーク会員が5000万人いるなかで、購入データ分析、マスタデータの共通化、保有データのマネタイズのしくみや企画、データ基盤の開発などに携わりました。

 

例えば、ガソリンスタンドでガソリンを購入するときにポイントを使用した履歴があれば、その人は車を所有していることがわかります。カー用品店から見たら、潜在的な顧客になるわけです。共通ポイントサービスのプログラムに加盟することで、誰が潜在顧客かを知ることができます。他にもアンケートなどを通じてお子さんの年齢がわかれば、大学入学のタイミングなどでスーツを買うだろうと予測できるので、紳士服メーカーにとってはDMを送るチャンスとなります。こうしたデータを分析して、ビジネス上の提案を行っていました。


 

 


― デロイト トーマツ グループに転職を決めた理由は?

 

共通ポイント運営会社に在籍中、業界のリーディングカンパニーといえる企業の経営者の方々にプレゼンを行い、データに基づいた提案などを行う機会がありましたが、なかなか採用にいたらず、ビジネスやコンサルティングスキルの不足を感じ始めていました。

 

そんなとき、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー(以下DTFA)に在籍する知人から誘われたのが、転職のきっかけです。過去にスポーツ分野のデータ分析を行った経験があり、そのつながりで新聞のコラムを書いたり、Jリーグのデータ分析コンペに参加したりしていたのですが、それらが知人の目にとまり、声をかけてもらいました。

 

ちょうどビジネスやコンサルティングへの理解やスキルを高めたいという気持ちでしたので、DTFAに転職すれば経営層の方たちとの接点が増え、彼ら、彼女らがどのような視点を持っているのかがわかり、自分が望む方向に成長できるのではないかと考えました。




入社はいつでしたか

 

2020年2月、コロナ禍に差し掛かり始めたころでした。入社直後はオフィスに出社していましたが、あっという間にリモート環境に移行しました。

 

入社してみると、想像していたとおりスキルの高い優秀な方が多く、当初はこのなかで結果を出していけるのか不安が頭をよぎりましたが、現在は仕事の仕方がわかってきたという手応えを感じています

 

 


客観データに独自調査を加味し、コロナ禍からの回復を予測する



― 現在はどのような仕事をしていますか?

 

マーケティング系、特にコンシューマー系といわれる小売業のデータ分析案件に携わる機会が多いですね。例えばM&A時には、買収先企業についてのデータを分析することでその企業の評価や買収価格が変わってきます。直近では、データやAIの活用にあたりガバナンスや運用方針を定めようとするクライアントに対し、データ分析の観点からアドバイスを行っています。後は、コロナ禍でビジネスが落ち込んだとき、いつごろ回復が見込めるのかなどをデータ分析から予測するという、クライシスにおける回復予測を行う案件もありましたね。

 

 

 クライシスにおける回復予測とはどのように行うのですか? 災害やパンデミックは想定外のできごとなので参考になる過去データがありませんよね。

 

コロナ禍では行動が制限され、多くのビジネスが落ち込んでしまいました。「旅行に行きたい」「○○がほしい」などの気持ちはあるものの、行動が制限されてしまったわけです。ですので需要はそのままと仮定し、例年の数値を基準値として定めます。そのうえで、政府統計による入国者/宿泊者などのデータやWHOによるワクチン接種状況などの客観的データと、デロイトUSが調査した消費者マインドについてのデータなどを活用して、需要回復のシナリオを複数準備し、シナリオごとに機械学習による予測を行いました。さらに、コロナ禍の開始から1年経過後には、行動制限下でのトレンドを学習データとして取り入れ、予測精度の向上につなげました。

 

デロイトUSの消費者マインドについてのデータは、主に「実際に旅行の予約をしましたか?」「飛行機に乗ることに抵抗がありますか?」などのインタビューをベースとしたものです。調査対象を入れ替えながら定点観測を重ねることで、データとしての信頼性が確保されています。このような貴重な独自データを活用できるのも、グローバルに展開するデロイト トーマツ グループならではといえるかもしれません。

 

 

 

スポーツチームの財務や取り組み、所属選手のプロファイルもデータで徹底分析

 

― サッカーなどのスポーツビジネス分野のデータ分析にも携わっているのですよね?

はい。デロイト トーマツ グループではスポーツビジネスへの事業支援も行っていますが、そのほかに、スポーツ業界全体への貢献の意味も含め、スポーツ関連のデータ分析を扱った記事やレポートなども積極的に公開しています。

 

Jリーグに関するレポート「Jリーグ マネジメントカップ」では、ビジネスマネジメント(経営)の観点でJリーグチームを独自のKPIに基づきランキングづけして公表しています。各クラブチームは競技を行うサッカーチームであると同時に、企業体でもあります。各クラブチームの財務データをもとに、取り組みの効果をデータから客観的に観測しランキング化することで、Jリーグが積み重ねてきた経験を将来の持続可能な成長につなげる一助となるよう、2014年から毎年デロイト トーマツ グループが発行しているものです。

 

私はレポートの執筆に携わっているのですが、そちらでは財務に限らず、競技にも目を向けてデータで深掘りしています。例えばコロナ禍ではサポーターが会場に足を運ぶことが難しくなりましたが、それぞれのクラブがSNSを駆使してサポーターとつながっていましたので、その取り組みを客観的なデータで比較しました。直近では、所属選手が生え抜き(育成組織の出身)か移籍か、代表経験の多寡など、選手のプロファイルとチームの競技成績に関連性があるかを分析してまとめました。

 

Jリーグ マネジメントカップ2022

 

 

 

社会に旋風を巻き起こした生成AI より効果的に業務に活かすには

 

最近、世間では生成AIの話題で持ちきりです。ビジネス現場は生成AIをどうとらえているか、現状の空気はどんな感じですか?

 

多くの企業が「どんなことができるのか?」という点について検討を始めており、現在の業務のどこに適用できるか、どのくらい有益かなどを推し量ろうとしていますが、それが適切にできている企業とできていない企業に分かれている印象です。ただし、適用範囲を「特定の業務の置き換え」だけで考えている場合は、生成AIや機会学習、デジタル化にも言えますが、ビジネスにそれほど大きなインパクトは与えられないのではないかと思っています。生成AIの真価を発揮するには、何か新しいアイディアや変革を生み出すような使い方が必要になるのではないでしょうか。

 

 

―  生成AIを効果的に活用するために、克服しなくてはいけない課題があるとしたら?
  

3つあると考えています。1点目は評価測定です。どのようなものを成果やゴールとして設定し、それをどう測定するのか。2点目はリスクを把握した上でのガバナンス、つまりルールやガイドラインづくりが必要になることです。車なら、交通標識・信号・制限速度があります。こういうルールがないところで自由にクルマを走らせたらよろしくないですよね。3点目は現場の理解やリテラシーの醸成です。デジタル化や生成AIがもたらす変化を、現場側が受容してきちんと取り入れていくことが最も重要だと考えています。

 

 

 

最近の生成AIアプリケーションについては、どのようなところが興味深いと感じますか?
 

学習コストの低さや学習期間の短さです。これまで機械に何らかの処理をさせるにはプログラムを組む必要がありましたが、自然言語で、普通に会話する感覚で指示を出せるようになりました。スキルのないユーザーでも生成AIを使って絵を描いたり、動画が作れるようになり、クリエイションの敷居がすごく下がったと感じます。これは従来のAI技術とまったく異なる点だと思います。一般的に何らかのスキルを習得するには、どんな人でも一定の時間を費やし、学んで、試してを繰り返す必要がありました。しかし生成AIの登場で、一定の成果が一瞬で得られるようになりました。

 

 

― 今後生成AIではどんな流れが起こると考えられますか?

 

2点あると思っています。1点目はパーソナライズです。現在でも、日々の購入履歴や閲覧履歴が機械学習され、それぞれの好みにあわせてサービスが最適化されるしくみはありますが、これがより高度になり、気が利くようになるわけですね。たとえば、Web上の広告やPR告知などへのユーザーの反応を知りたい場合に、生成AIを介すれば対話的にユーザーからフィードバックを引き出すことも可能になります。

私もデータ分析の時代からいろいろと模索と改良を行い、DMやアプリがクリックされやすいように工夫した経験がありますが、そうした人による作業が自動化されて、高度化していくことでしょう。

 

2点目は、AI活用の敷居の低さによる民主化です。先ほども述べたとおり、これまで動画やイラストを作成した経験がなくても、生成AIを利用すれば少しやり方を学ぶだけで作成できてしまい、学習時間はほとんど必要ありません。そういった、これまで技術を習得した人しかできなかったことが、誰でもできるようになります。

 

 

 

誰もが経験したことがない場面での新しい挑戦

 

― 転職によって求められるスキルに変化はありましたか?
 

前職、前々職でも、データ分析だけでなくレポートの作成や報告、改善提案など、ビジネス側の業務も経験してはいましたが、現在の業務ではより上流工程に関わる機会が増えました。抽象的なテーマでゼロから何かを生むことを目指す場面も少なくありません。一方、私はもともとはデータサイエンス側の人間です。ビジネス面での課題に対し、技術的にみるとどうなるのかという視点を常に持っています。DTFAに転職してからは、コンサルタントとデータサイエンティストとの2つの間を行ったり来たりする幅がより大きくなったと感じます。

 

 

転職してから3年ほど。自分の成長を振り返るとどうですか

 

データ分析という面での作業は同じですが、それを使ってどうするのか、という部分にはこれまでより深く関わっています。先ほどのコロナ禍からの回復予測のように、誰もが経験したことがない場面で新しいことに挑戦をさせてもらっており、それが自分の成長につながっていると感じます。

 

 

― 逆にこれまでの経験が役立ったことはありますか?

 

前職では小売業のデータ分析が中心だったので、消費者が商品を購入する部分など、比較的生活に近い手触り感のある分野のデータについては、扱うのが得意なほうだと思います。例えば旅行の予約をした場合にどのようなデータが運営会社には飛んでいるのかなどは、かなり具体的にイメージできます。一方、自動車のエンジンとか、機器のセンサーからの出力データの分析などは、これまであまり経験していない分野ですが、DTFAにはそれぞれの分野に精通したプロフェッショナルメンバーが在籍しているので、互いに情報交換できるという安心感がありますね。

 

 

― ベンチャーを経験してエンジニア(データサイエンティスト)とビジネス(コンサルティング)両方のスキルを持っている方は希少な存在です。どうしたら完倉さんのようになれるのでしょうか。

 

それぞれの境遇や経験にもよりますが、あくまで私はデータ分析の人間というのがベースにあるため、エンジニアがビジネスの視点を得るための方法という点についてお話すると、軸足はテクニカルにおきながらも、お客様や仲間が新しい挑戦をするときに、既存の技術がこういったことに使えるよ、新しい技術のここがすごいんだよ、といった情報を伝えることからはじめると良いのではないでしょうか。その延長線上には、必ずビジネスでその技術をどう活用するのかという話がありますし、技術的な内容をクライアントや会社の経営層に伝え、説得する機会なども生じるはずです。そういった技術について話をする機会をどんどん増やしていくことが、自分自身の学びにもつながると思います。

 

 

 

 

社内での頻繁な情報共有が魅力の1つ

 

DTFAの働き方や職場の様子はいかがですか

 

コロナ禍になってからは、予定を見ながら出社か在宅かを選んでいます。選択肢があるのは効率的でよいですね。また私の所属部署では、特定の領域や業界に縛られることなく、メーカーや小売業界だけでなく、官公庁、公共系の案件も担当する機会もあり、幅広い見聞が得られる点もよい環境だと思っています。

 

後は、いろんな部署からの事例発表など、社内で情報共有が頻繁に行われているのも魅力の1つですね。直近では例えば、製薬業のトレンド、日本における国防の話などが取り上げられており、自分の視野を広げる機会として利用しています。

 

日々忙しくて大変ではありますが、職場を見渡すと様々な分野のプロフェッショナルが多く、そういった方々と一緒に課題に取り組んでいけるのは、ここで働く醍醐味だと思います。

 

 

― 社内にはスキルアップのための支援などあるのでしょうか?

 

私のようなバックボーンだと、分析とテクニカルのスキルについては前提となりますが、そのほかのビジネスのノウハウ、たとえばM&A時のデューデリジェンス(買取対象企業の調査)などの手法ついては、きっちり体系化されておりそのための研修も用意されているので、勉強になります。スキルアップしたい人にはよい環境かと思います。

 

 

 

大好きなスポーツ観戦でもデータに目が行ってしまう
 

― プライベートではどのようなことで気分転換していますか?
 

スポーツ観戦が好きなので、よく見に行きます。先ほど「Jリーグ マネジメントカップ」の話も出ましたが、サッカーの応援にスタジアムに行ったり、実家のそばにバスケチームの拠点があるので見に行ったり。野球も昨年、東京ドームを訪れて、リニューアルされた大型ビジョンを初めて見てきました。

 

自分自身も学生時代はサッカーをしており、会社にフットサルのサークルがあるので少しだけ参加していますが、もう全然動けませんね。やはり観戦するほうが楽しいです。サッカー観戦のときは、試合をスタジアムで観戦した帰りに、同じ試合の配信映像を見返しています。配信だとシュート数、パス数、選手が走った距離など全部データが表示されるので、そうしたデータを見ながら「だからこっちが勝ったのか」と分析的に考えるのが楽しいです。

 


スポーツ観戦のどんなところが楽しいですか?

 

データを通じて見ることで、誰が見てもわかりやすい「すごさ」を実感できることでしょうか。例えば野球の大谷翔平選手はとても速いボールを投げますし、映像を見るだけでもすごさが伝わってきますが、そこに「160キロ」などの数値が表示されたり、何試合出場して何勝したかの成績が表示されたり、そうしたデータがありその記録が塗り替えられるという部分で、さらにすごさが伝わってくるのではないかと思います。

 

 

―  最後にメッセージをお願いします。

 

デロイト トーマツ グループにはさまざまな分野のプロフェッショナルがいますので、AIやDXの仕事を通じて、お互いを高め合える方に門を叩いてほしいと思っています。