Posted: 21 Dec. 2020 5 min. read

SDGs時代におけるペット動物との共生社会像

CSV視点でビジネスモデルを再定義する(後編)

Transparency, Environment, Transitionを切り口に、共生社会に向けたイノベーションを

SDGs時代におけるペット動物との共生社会像-CSV視点でビジネスモデルを再定義する(前編)」にて述べた通り、今後ペット産業はより大きく、開かれた産業へと発展すると共に、「産業が成長する程、人もペットも幸せになる」産業構造への転換が加速する。それに伴い、既存のビジネスモデルや戦略は、CSVを基軸とした変革を求められるだろう。

そして、既存のビジネスモデルや戦略の変革と併せて重要な視点は、新規ビジネスの創造だ。ペット動物愛護の機運が高まることで新たに顕在化する事業機会を、従来のペット用品やサービスとは異なる切り口から捉えたイノベーションの創発こそが大きな変化を生む。

モニター デロイトでは、ヒントとなる切り口を透明性の担保(Transparency)、 新たな共生の場作り(Environment), 消費者との共創産業への移行(Transition)の3観点で整理している。

Transparency:透明性の担保

動物愛護の難しさは、虐待等の不適切な扱いがクローズドな環境で行われ、かつ被害を受けた動物たち自身が声を挙げられないという不透明さが一因となる。これは、不当な扱いを受ける労働者等の人権問題とも一部性質が類似する。世論やルールの整備が進む人権問題では、ビジネスでこれを解決する試みも顕在化している。

例えば、ルールに照らし企業の人権に関する取組みを評価・改善し、お墨付きを与える人権デューデリジェンスや、認証サービス等だ。特に昨今では、ブロックチェーンを活用した原産地証明や、従業員による匿名の通報プラットフォーム等、デジタルテクノロジーを活用したソリューションも増加しつつある。

前述の「数値規制」のようなルールの整備が進む中で、ルールへの準拠を証明する市場は今後立ち上がり得るだろう。逆に言えば、自らルールを作り、市場を創るチャンスとも捉えられる。

 

Environment:新たな共生の場作り

ペット動物に関する課題解決において、共生の「場」作りは重要な要素だ。保護施設の充足度が殺処分率等に直結するだけでなく、例えばペットが同伴できる公共施設や商業施設等の充実は飼育放棄や長時間の留守番による孤独、問題行動の誘発を防ぐと同時に、“ペット同伴消費”を掘り起こす事にも繋がる。

例えば、ペット消費財メーカー最大手のマース社は、米国で「Better Cities for Pets」の取組みを進める。SHELTERS, HOMES, PARKS, BUSINESSESの4観点から12のチェック項目をガイドライン化し、認証プログラム化。米国動物愛護協会と組んだ助成金プログラムを準備し、既に32都市を認定している。
 これは、既存のペット産業のプレーヤーにとっては、社会課題を解決しながら市場全体を底上げする(=ペットと暮らす人を増やす)ものであると共に、ガイドラインを満たす製品・サービスを先行して市場に投じていくことで競争優位性にも繋げられ、CSVとしての新たな戦い方を示唆するものだ。

また、不動産、鉄道会社、地方自治体は「ペットと一緒にどこにでも行ける街」に共感するパートナーとして、関連産業集約・新市場創造等の機会を見出すことができると考えられる。

 

Transition:消費者との共創産業への移行

日本国内の犬猫飼育世帯は約1,300万世帯、全世帯の約1/4を占める一大セグメントである。仮にこれをコミュニティ化する事が出来れば、甚大なビジネスインパクトを持つだけでなく、“Power of Consumers“よる企業への働きかけ、即ち社会課題に取り組む企業の製品・サービスが支持され、そうでない企業はNOを突き付けられる、消費者と企業の共創産業を創る事に繋がるだろう。

例えば、米国で約3,800万人のシニアを束ねるコミュニティAARPは、そのバイイングパワーを梃子にした認証(真にシニアが使いやすい製品・サービス)・送客ビジネス等で約1,500億円の売上をあげる。収益化しながらシニアに良い世界を創るCSVモデルの成功例だ。

公的な国民皆保険制度がない米国において、リタイア後のシニアに健康保険を提供することがAARPの起源であったことを鑑みると、既に一定のペット愛好家コミュニティを有するメディアや小売、あるいは国内で急拡大するペット保険会社がこのような市場共創型のコミュニティビジネスへ挑戦するということは、新たなビジネスモデルとして一考に値するのではないだろうか。

ペット動物に関する社会課題は、実はSDGsの詳細目標に具体的な明記は無い(広く生物多様性に込められる)。ともすれば、2030年に向け見落とされかねないテーマだ。環境問題のように国際的な議論の枠組みが存在し、政府や企業がトップアジェンダに掲げる社会課題テーマに比べれば、残念ながら現時点での社会的な注目度は劣るかもしれない。

しかしながら、このような“際”でこそイノベーションは起こると筆者は考える。規制やルールの不備、産業全体としての対応の遅れに加え、今日のCOVID-19でペット動物の存在意義が改めて注目を集めている。

自らゲームチェンジを仕掛け、市場を切り拓くとすれば、それはまさに今ではないだろうか。

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