新たな観光市場創造の秘訣とは ~ペットツーリズムから考察~ ブックマークが追加されました
2023年7月、“愛犬専用バス”*1 が日本で初めて登場した。
従来、ペットを連れて公共交通機関に乗車する場合はケース等に入れる必要があったが、このバスではケースに入れることなく、愛犬と一緒に乗車できることが特徴だ。7月1日から、愛犬と宿泊可能なホテルの利用者等を対象にした試験運行がスタートし、羽田空港、お台場、丸の内、銀座等を周遊して東京観光を楽しむことができる。
これは、観光産業において、コロナ禍で起きた生活ニーズの変化に注目して新しい需要を開拓する取り組みだと言える。
コロナ禍において家でペットを飼う価値が再認識され、新規の飼育頭数は2020年に前年比18%増加し、今や犬と猫の合計飼育頭数の推計は約1600万頭*2 と、15歳未満の子ども(1430万人*3 )よりも多い状況となっている。もはやペットは家族の一員として暮らすことが日常化している人が増えている。
一方で、ポスト・コロナで外出ニーズが増えてペット同伴の旅行をしたいと思っても、車を運転しない人にとっては移動が制約となり旅行しづらい、という課題が顕在化するようになってきた。いわばペットと暮らす “日常”と、旅行という“非日常”との断絶が課題になってきたと言える。
そこで、上記のようなバスで移動の制約を取り払うことで、日常の延長でペットと一緒に過ごしながら、同時に“非日常”の旅行を楽しめるニーズが満たされると「ペットツーリズム」の需要が広がる。
実際に、海外に目を向けると、ドイツやスウェーデンでは公共交通機関で犬をケースに入れずに乗車でき、更にEU圏内ではペット用のパスポートを利用して国をまたいだ旅行も比較的容易にできる。日本においても、飛行機やフェリーの客室にペットと一緒に乗れるというサービスも徐々に出てきており、移動制約を取り払うことで旅行の機会が増えることが期待されている。
日本にとって、観光産業は今後の成長産業の一つであるが、コロナ禍を経て生まれた「“日常”生活のニーズの変化」を「“非日常”」の体験に掛け合わせることで、新たな観光マーケットをつくる余地が十分ある。
例えば、コロナ禍を経て人々の“健康意識”が高くなっているが、それを観光と掛け合わせた「ヘルスツーリズム」や、サウナ人気を受けた「サウナツーリズム」は今後広がってゆくだろう。他にも、自転車人気を受けて「サイクルツーリズム」が生まれ、国土交通省は世界に誇れるサイクリングロードである「ナショナルサイクルルート」を2021年に全国6か所に拡充するなど、観光の領域を広げる動きが進んでいる。他にも、コロナ禍で広がった生活ニーズに注目すると、まだまだ可能性はある。このような新しいマーケットをつくることは、観光事業者にとって客数の増加のみならず、客単価を上げることにつながる。
観光産業が生む付加価値をまとめた「観光GDP」は11兆円(2019年)であるが、これはGDP全体に占める割合は2.0%*4 とG7の中で最も低い水準であり、これから大いに伸びしろがある。
これからは「日常ニーズ×非日常の体験」によって、観光の新たなマーケットを開拓し、日本経済の成長につながってゆく展開に期待する。
※本稿は、2023年6月30日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。
参考文献:
*1 「羽田空港・東京駅・湾岸エリアとinumo芝公園を結ぶ愛犬専用バス送迎「TOKYO DOG TRANSPORT」2023年7月1日(土) 運行開始!愛犬との東京観光がもっと便利に。」
*2 一般社団法人 ペットフード協議会「令和4年 全国犬猫飼育実態調査」
*3 総務省統計局「人口推計」
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