Posted: 28 Jan. 2021 3 min. read

ポストコロナにおける百貨店の活路とは

日本百貨店協会は、2020年の全国百貨店売上高が前年比25.7%減の4兆2,204億円になったと発表した。これは1975年以来、45年ぶりの低水準である。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う店舗休業、繁華街における人出の減少、更に訪日客の売上激減が要因として挙げられる。

百貨店業界は大変厳しい状況下にあるが、一方で、危機だからこそ生まれた可能性もある。それは、他社との新たな取り組みが広がり、従来から課題であった二つの機能強化が加速したことだ。

ショーウィンドウ

百貨店における二つの機能強化:バーチャル、物流

一つはバーチャルチャネルの強化だ。従来からEC化は進めてられていたが、コロナ禍でバーチャルのチャネル強化が必須になり、ライブコマースにおける協業、外部の応援購入サービスサイトとの連携をはじめ、来日できないインバウンド需要の取り込みのために越境ECを強化する動きが加速した。外部と連携することで新たなバーチャルのチャネルにも挑戦しやすくなり、顧客との多様な接点を持つことができる。

もう一つは物流機能(ロジスティック)の強化である。従来の百貨店は来店客を前提にした人を「集める」ビジネスモデルであったが、コロナ禍で外部のデリバリーサービスやタクシー会社と組むことで食料品や日用品を「人に届ける」サービスを広げ始めた。

 

このような二つの機能が強化されると、今後はより厳しい状況に置かれている地方の百貨店のあり方も変わっていく。限られたスペースの中で売り場や在庫はニーズが高い商品に絞りつつ、Zoomのようなビデオ通話ツールを用いた接客や、都市部店舗との連携で品揃えを補完するというモデルが考えられる。そうすることで、実店舗はスペース縮小ができ固定費を下げることができる。

また、物流機能が強化され、よりシームレスに配送できるようになると、移動が困難な顧客層のニーズを取り込むことでき、特に高齢化が進む地方では根強いニーズに支えられ、存続できる余地が生まれる。

これからのリアル店舗に求められることとは

バーチャルと物流の機能が強化されていくにつれ、リアルな店舗の役割も進化する。

これまで百貨店では、顧客体験や販売の場所と、在庫の場所は物理的に同じ場所にあったが、バーチャル化と物流の強化により、顧客体験とモノの動きとを分離する、という発想を持つことができる。例えば、商品の比較、販売スタッフによる接客、試着、および決済を店舗で行い、商品は翌日に自宅に届くというビジネスモデルが考えられる。そうすると、多くの在庫を店舗で必ずしも持つ必要がなくなり、リアルな店舗の空間の使い方も変わってくる。リアルな店舗は、ライフスタイルや世界観の実体験をする場、接客を通してお客様の深いニーズを把握し信頼関係を築く場、それらを通してブランド価値を高めていくことに重点を置くようになるだろう。

 

今はまさに苦境にあるが、危機を転換期にして新しい百貨店ビジネスへの転換に期待をしたい。

関連リンク

D-NNOVATIONスペシャルサイト

社会課題の解決に向けたプロフェッショナルたちの物語や視点を発信しています

プロフェッショナル

松江 英夫/Hideo Matsue

松江 英夫/Hideo Matsue

デロイト トーマツ グループ 執行役 CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表

デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)