Posted: 30 Nov. 2021 4 min. read

SDGs達成にも資する金融コンバージェンスの可能性

この1、2年の間に、日本においてもSDGs(持続可能な開発目標)を様々な場面で耳にするようになった。SDGsの掲げる目標に多くの企業や個人が共鳴していることは間違いない。一方で、先のCOP26においても脱炭素に向けた資金不足が議題に挙がったように、SDGsの達成に向けて必要とされる資金の不足が大きな課題となっている。ESG投資の規模拡大などを背景にして、地球規模での課題解決につながる使途や機会に資金を呼び込む金融の力が試されていることは間違いない。

 

さらに、金融には、持続可能な社会を創る上で、単なる資金供給にとどまらない価値を発揮する可能性がある。とりわけ注目すべきなのは、顧客の“目的”であるモノ・サービスにまつわる非金融サービスと、“手段”である金融サービスを組み合わせた「金融コンバージェンス」による価値創出の可能性だ。

 

日本は、EC事業者や小売事業者などのバーコード決済や電子マネーに代表されるように、異業種の金融参入が盛んなマーケットであり、金融コンバージェンスの素地がある。規制緩和による銀行・証券を軸に新収益確立を目指したwave1、小売主導で本業貢献を企図したwave2を経て、金融コンバージェンスは、金融をイネーブラーとした経済圏構築や埋め込み型金融による新たな商品・体験創出を目指したwave3へと移行し、過去最大のうねりが生まれている。ただし、その中身は、ポイントや金融サービスの利用手数料軽減等の利得性、及びデジタル完結や異業種の本業チャネル活用による利便性・業務効率化等をインセンティブに金融サービスを訴求するレベルに小さく留まっている印象がある。

 

筆者は金融コンバージェンスで目指す世界は、モノ・サービスにまつわる人々の根源的なニーズ充足や、企業の本業支援まで踏み込んだ価値を創出することだと考える。日常接点や企業活動を通じて得られる非金融データと金融データを融合した徹底的な顧客理解・成果の可視化により、人々の根源的な価値享受の在り方を変え得る力、企業の課題解決・事業モデル転換を促進し得る力は、SDGs社会の実現に向けて大きな推進力になる。

 

例えば、需要サイドにおいては、持続可能なライフスタイルに転換した消費者を報いる社会創りに寄与できる可能性がある。現状は、プラットフォーマーを中心に「個社にとって都合の良い顧客を優遇する」仕組みに留まる傾向だが、金融機関や異業種金融が中心となり、自治体も含めたアライアンスで「社会や地域の未来にとって良い顧客を優遇する」仕組みを築くことができるのではないか。例えば、本人確認情報や口座・決済アカウント等を地域サービスの認証IDとして活用し、地域での消費や奉仕活動等の様々なデータを捕捉する。捕捉データを元に持続可能な地域創りへの貢献度合いをスコア化し、スコアに応じて消費・金融サービス利用を優遇する好循環を生むことで、持続可能なライフスタイルへの転換を促せる可能性がある。

 

このコンセプトに近い事例としては、中国のAlipayが脱炭素社会の実現に向けて展開中のAnt Forestがある。Alipayユーザーの移動や消費行動におけるCO2排出量を可視化し、提携パートナーの行動変容サービス利用実態に応じて蓄積されるCO2排出量の削減効果を元にアプリ上でバーチャルツリーを育成できるサービスである。仲間とシェア・助け合えるソーシャル機能やランキング等のゲーミフィケーション機能を活用したグリーンライフスタイル転換促進によりCO2排出量を削減できる。加えて、ユーザー自らが設定したCO2削減目標の達成に応じて、提携するNGO団体が実際に砂漠地帯に植林することで得られるCO2吸収の両輪で強力に脱炭素化を推進するサービスであり、2019年度に国連の「Champion of the earth」を受賞している。※

 

供給サイドにおいても、持続可能な事業モデルへの転換+成果の共創に寄与できる可能性がある。グローバル大手によるサプライヤーへの要求強化とともに、中小企業もSDGs対応を迫られつつあるが、単独で遂行できる企業は一握りと想定される。例えば、中小企業に対し、CO2削減や環境保全、サーキュラーエコノミーシフトに最適なソリューションのマッチング、財務と非財務情報に基づく経済価値と社会価値ベースの成果見える化、モニタリングを通じたPDCA支援による成果の創出、成果に応じた将来事業性評価によるファイナンスを一連の流れで提供できれば、持続可能な社会への転換に向けた共成長サイクルを生み出せる。

 

現状のSDGsは、供給/需要やバリューチェーンを細切れにして推進する傾向があるが、乗り越えるべき壁が多く、大きい社会課題の解決には、Alipayのように同じ世界を目指すパートナーが力を結集して取り組む必要がある。打開策の一つとして、あらゆるものに金融が溶け込む金融コンバージェンスには、より良い社会・地域の実現に向けた同志を繋ぎ・大きな変革力を生み出すポテンシャルがあると感じている。

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三由 優一/Yuichi Miyoshi

三由 優一/Yuichi Miyoshi

デロイト トーマツ グループ シニアマネジャー

モニター デロイト所属。 大手SIer、外資系コンサルティングファームを経て現職。キャッシュレス領域や銀行・生損保・証券向け経営戦略・新規事業・DX支援、及び幅広い業種・業態の金融参入/強化戦略・実行支援における実績を有している。  

桑田 純輝/Junki Kuwata

桑田 純輝/Junki Kuwata

デロイト トーマツ グループ シニアコンサルタント

モニター デロイト所属。 日系大手証券会社、Fintechベンチャー企業を経て現職。地域金融機関のリスク管理高度化・DX推進に向けた構想策定及び実行支援の経験に富む。また、都市銀行のRPAを活用した業務効率化や、グループ内組織再編に係るプロジェクト経験も多数。