Posted: 28 Jan. 2021 2 min. read

人工知能およびビックデータにより進化する宇宙開発

【シリーズ】The Age of With:人とAIが協調する社会

スペースX 「Crew-1」ミッション

宇宙飛行士の野口聡一さんら4人を載せたスペースXの新型宇宙船「Crew-1」は、日本時間11月16日午前9時27分に、アメリカ合衆国フロリダ州にあるジョン・F・ケネディ宇宙センターから、同じくスペースX社により開発された「Falcon 9」ロケットで打ち上げられました。Crew-1は、驚くべきことに自動ドッキングソフトウェアを使って自律的に移動し、米国時間11月16日月曜日の夜遅くにISS (国際宇宙ステーション) に合流しドッキングを完了しました。一方、「Falcon 9」の1段目ロケットは陸上の着陸地点および無人のドローン船に対して、自律誘導で姿勢を制御しながら軟着陸して回収されました。

有人による操縦が必要だったそれまでの宇宙飛行 

「ヒューストン、ここは静かな海。イーグルは着陸した」と、アポロ月着陸船「イーグル」からアームストロング船長が交信したのは1969年7月20日でした。その数分前、彼は推進剤(化学ロケット燃料)の量は残り数分ということがわかっていながら操縦を半自動に切り替え、目視で着地点を探しました。その後のスペースシャトル計画においても、シャトルの大気圏再突入は手動で行われていました。地球を約90分で回る速度から一気に減速し、その熱によりブラックアウト(一時的な通信の途絶え)が起こり、続いて大気圏に入ると衝撃波で「ドーン、ドーン」と二回大空を響く音が聞こえ、これで地上にて待っている人たちは宇宙飛行士がやっと地球に帰ってきたという安心感を一時的に得るのです。しかし、着陸はグライダーと同じでやり直しはできず、再び高まる緊張感の中で更なる減速のためのS字ターンをしながら静かに空軍基地に戻ってくる姿は、打ち上げの際の地響きとともに空中轟音を轟かせながら大気圏を突き破って上昇していった時とは打って変わって静寂そのものです。誘導する2機の慣れ親しんだT-38(※1)のエンジン音が聞こえるだけで、最終的に無事パラシュートを開いて着陸していきます。

このように、これまでの宇宙飛行は有人が当たり前でリスクや緊張感がともなうものであったのに対し、現在はハードウェアとソフトウェアの進歩によって無人で安全なものに変わっています。

 

※1:T-38ジェット練習機は、ターボジェットエンジンを2基装備した音速ジェット機で、主に米空軍の戦闘機パイロット養成のために使われている練習機です。宇宙飛行士がヒューストンのジョンソン宇宙センター近くのエリントン空軍基地からケネディ宇宙センターへ移動する際に、飛行訓練を兼ねてT-38ジェット練習機を使用している他、スペースシャトル帰還時の気象条件の確認にも使用されています。

これからの宇宙開発の方向性 

かつて宇宙開発は各国の国家機関が担うものでした。しかし、現在ではgoogle、Amazonといった「BIG5(※2)」と呼ばれるIT企業をはじめとする民間企業が、独自に開発や投資を行うセクタへと変貌を遂げました。IT関連の技術に多くの資金が流れているのは、宇宙をインターネットの延長として捉えているからです。具体的には、宇宙に小型衛星などによりネットワークを張り巡らせることで「地球のビッグデータ」が手に入れることができ、このデータを利用し様々なビジネスが創出されると期待されています。天気予報が最もわかりやすい例で、高性能なセンサーやカメラを搭載した小型衛星の巨大ネットワーク、コンステレーション(※3)で大気を計測し、ビッグデータを解析することで精度の高い気象情報が得られるようになっています。また、こうした小型衛星による地球観測により農業や漁業の劇的な効率化・精密化も進められています。地球観測衛星に搭載されているセンサーやカメラによって、栽培している作物の生育状態や糖度などの品質も小型衛星で把握ができます。大手ポテトチップメーカが気象データを生産量の判断や流通に活用しているのは有名な話で、さらに衛星を使った精度の高い気象データは、金融や保険などのサービスを根本から変える可能性も指摘されています。これを加速させているのは、センサーに代表されるハードウェアの進歩のみならず、ビッグデータを学習することによって規則性を発見できるディープラーニングです。

このように時を越えて宇宙開発が加速度的に進む一方で、現在の経済社会において「地球は限りある存在」との共通認識が切迫感をもって広がっています。深刻化する地球温暖化が世界経済フォーラムでも議論されるようになっており、こういった困難な課題に対しても、地球のデータを使って、互いに知恵を出し合い、能力を最大限に発揮しながら解決していくことが求められているのです。

 

※2:Facebook、Apple、Microsoft、Google(Alphabet)、Amazonの5社で、それぞれの時価総額を合計すると4兆ドルに近づきます。彼らが現在打ち上げを計画している小型衛星の数は地球観測衛星で約1000機、通信衛星では2万機を超えるほどの規模で、第4次産業革命の大きなピースとなりえます。          

※3:衛星を複数機協調させて機能させるシステムを衛星コンステレーションと言います。1機の衛星が特定の地点を撮影してから次に戻ってくるのに1日以上かかり、リアルタイムでの情報入手は単機では難しく、複数機でセンシングすることによって最新の情報を入手します。

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