Posted: 10 Feb. 2021 3 min. read

第2回:ロボットとは何か?~ロボットの定義拡大と役割進化~

シリーズ:ロボットビジネスを俯瞰する

連載その1では『なぜロボットか?ウィズコロナ時代の成長産業』をテーマに『ニューノーマル』と題しロボットビジネスの可能性について考察した。今回、今後のロボットビジネスを展望する前提として「そもそもロボットとは何物か?」という点に立ち返り、ロボットの起源、ロボットの定義の拡がり、それに伴うロボットの役割の進化を顧みながら、近い将来訪れるであろうロボットビジネスの拡がりについて触れてみたい。

 

『ロボット(robot)』という言葉が初めて用いられたのは、今から100年前となる1920年にチェコスロバキアの小説家カレル・チャペックが発表した戯曲『R.U.R(ロッサム万能ロボット商会)』においてである。チェコ語で強制労働を意味するrobotaとスロバキア語で労働者を意味するrobotnikから創られた造語である。戯曲の中での『ロボット』は、人間より効率的かつ安価に労働を行える存在として描かれている。今日においてもロボットの役割は生産現場などでの労働者(人間)の「作業の代替」(例えば、ロボットアームは人間による手作業をより効率よく実施する)という性格が強く、その本質は100年近く変わらずにいたと考えられる。

 

現在、ロボットは様々に定義されるが、代表的なものとして2つの定義がある(図1)。まず、ロボットの国際的業界団体(国際ロボット連盟)は、『意図されたタスクを実行する(筆者注:汎用ではなく特殊用途)ために、環境内で移動するある程度の自律性を備えたプログラム可能な作動メカニズム』としている。国際ロボット連盟の定義は、特定の環境下におけるロボットの自律的な動作に着目しているものであり、ここでは便宜的に同連盟による定義を狭義のロボットとする。狭義のロボットは、人の身体能力(手や足)の代替・強化がその本質であり、アームロボット等、工場で活用される産業用ロボットの特質を踏まえたものと言える。

一方、ロボット政策研究会(経済産業省)は、ロボットを『「センサ系」、「知能・制御系」、「駆動系」の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム』と捉えており、ハードウェアとソフトウェアの高度融合が意識されている。この定義に基づけば、(近未来の)自動車や家電もロボットに入りうるため、前述の国際ロボット連盟によるロボットの範囲よりも格段に広い定義となっている。同研究会の定義を広義のロボットとした場合、ロボットは、人の身体能力に加えて、認知・思考能力(目や脳)の代替・強化がその本質となる(ロボットの知能化)。すなわち、身体能力のみの狭義のロボットから認知・思考能力も兼ねそろえた広義のロボットへの進化に対する期待の表れと言える。

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ロボットの定義拡大を踏まえ、製造業におけるロボットの役割の進化について述べたい。まず、ロボットの起源で記したとおり、ロボットは製造現場での過酷な業務を人に代替するかたちで導入がスタートした。この初歩段階では『個々のロボットが個人の身体能力を代替・強化』することがロボット化の本質と捉えることができ、ユーザーであるメーカーはロボットを利用して自社の一部製造業務の自動化を行ってきた。ロボットは手・足という人間の身体能力で「生産量の拡大」に貢献してきた。<Step1>

次に、センサやAIをはじめとした、ここ数年におけるデジタル関連テクノロジーの急激な進展に伴い、ロボット化の本質は『個々のロボットが個人の認知・思考能力を代替・強化(ロボットの知能化)』へと大きく進化した。この段階でのロボットは手・足という身体能力に加え、目・脳という認知・思考能力によって、製造現場の作業自動化にとどまらず、自律的な活動を実現し、人との協調も図れるようになってきた。このようなロボットは、工場を飛び出し、物流倉庫や建設現場などに活躍の場を広げている<Step2>

更に、ロボットの知能化が進展すると、『知能化したロボットが様々なものとつながり、全体として組織の認知・思考能力を代替・強化』というレベルに至る。この段階でのロボットは、オペレーションの全体自律化(全体最適化)を実現するコアデバイス(物理的な存在)として機能し、例えば製造業であれば、一連の業務が全て自律的に制御され、状況に応じて「生産量の最適化」を実現することができるようになると考える。また、活躍の場も製造業からサービス業へと更に広がり、消費者に近い場所(例えば小売店や病院、学校など)でもロボットの存在が当たり前となるのではないか。<Step3>

ロボットの定義拡大とロボットの役割進化という流れは、コロナ禍の中、今後も一層進むものと思われる。現実に、製造業に限らず全ての業種でロボットを利活用した新たな事業機会が創出されている。次回の連載では具体的な事例を紹介しながら、事業機会のヒントに触れていきたい。

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上村 沢雄/Sawao Uemura

上村 沢雄/Sawao Uemura

デロイト トーマツ グループ マネジャー

デロイトトーマツコンサルティング合同会社所属。IP&C(Industrial Products & Construction)セクター担当として、業界全体のトレンド分析・将来見通しのほか、ロボット、物流領域のプロジェクトにも従事。ロボット関連の業界団体委員も務める。主な寄稿記事『海外サービスロボット事情〜業務用途における主要事例紹介〜』一般社団法人日本ロボット工業会機関誌『ロボット』2020年5月号(No. 254)掲載

菊地 穣/Minoru Kikuchi

菊地 穣/Minoru Kikuchi

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社IP&C(Industrial Products & Construction)セクター所属。重工業やゼネコンのお客様の成長戦略(新規事業、ビジネスモデル改革、エコシステム構築、デジタルトランスフォーメーション)を中心としたコンサルティング・サービスを担当。特に、戦略と先端技術を組み合わせた新しいビジネスモデル検討を得意とする。