Posted: 01 Sep. 2021 4 min. read

【解説】バーチャルプロダクションとは?

シリーズ: バーチャルプロダクション

今、新たな映像制作手法である「バーチャルプロダクション」が世界中で注目を集めている。リアルタイム性、リモート性、コスト効率性などの特性が、OTT*1事業者の台頭やCOVID-19の猛威によって急激に変化している映像制作業界(とりわけVFX*2業界)のあらゆる課題を解決できると期待され、映画・ドラマ制作やライブ配信、CMやMV制作での活用が進んでいる。

さらに、制作手法としてだけでなく、新たな産業としても注目が集まっている。グローバル全体での市場規模は2020年時点で$1.46BN、今後もCAGR15%で成長し、2028年には$4.73BNにまで到達するという試算もあり(※1)、まさに急成長産業を生み出している。近年では、バーチャルプロダクションの中でも特に新しい、LEDディスプレイを活用したバーチャルプロダクション領域に対して、大手OTT事業者やVFXスタジオだけでなく、国内外の有力テクノロジー企業、エンタテインメント企業などによる投資が活発化している。

そんなバーチャルプロダクションは、映像制作ワークフローにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)とも謳われ、今やバズワードとなりつつあり、国内でもメディアで取り上げられることが増えてきた。一方でその言葉の指す範囲は広範にわたり、話者によって定義がバラバラであることが多い。そこで、本連載では、まずバーチャルプロダクションの定義と分類を踏まえた制作手法としての全体像について改めて整理したうえで(前編)、なぜ今バーチャルプロダクションが注目されているのか、産業としての全体像についての解説をしていきたい(後編)

*1:OTTサービスとは、通信事業者以外の企業が、インターネット回線を介して動画コンテンツなどを直接視聴者に提供するサービスの総称。動画配信系OTTサービスとしては、NetflixやAmazon Prime、Disney+などが代表的

*2:VFXとは、映画などの映像作品において、特殊なビジュアル効果を実現するための技術の総称。特に非現実世界を描くSF作品などで多用されていたが、近年の高予算作品ではジャンルに関わらず映像表現の向上のために活用されている

■バーチャルプロダクションの定義

バーチャルプロダクションとは、バーチャル空間を活用したリアルタイム映像制作を行う新たなプロダクションワークフローの総称である。これまで主にゲーム業界で使われてきた3DCGリアルタイムレンダリング技術を活用することで、高度なCG背景やVFXを撮影中にリアルタイムでビジュアライズし、ポストプロダクションフェーズを待つことなく、最終的な画を撮影現場で確認できるという特長を持つ。

バーチャルプロダクションの最大の特長はこのリアルタイム性であり、これによって制作スタッフやキャストは、これまで以上に撮影中に映像作品の世界に没入することができる。また、再撮影のリスクやポスプロ編集の負担を低減し、制作コスト負担の軽減にも期待ができる。

■バーチャルプロダクションの種類

ここまで読んでいただく中では、まだバーチャルプロダクションの具体的なイメージが湧きにくいことと思う。ここからは、バーチャルプロダクションの種類について整理しながら、各種類における具体例を紹介していきたい。

バーチャルプロダクションにはいくつかの種類がある。近年、特に注目されているのは巨大なLEDディスプレイを活用したものであるが、それ以外にもいくつかに分類が可能だ。
 

1. グリーンスクリーンベース

クロマキー合成というと聞いたことのある方も多いと思う。ニュース番組の気象予報コーナーなどではグリーンバック/ブルーバックを活用したクロマキー合成による映像表現が長らく使われているが、グリーンスクリーンベースのバーチャルプロダクションはこのクロマキー手法の延長線上にある最新の技術である。

従来のグリーンバッククロマキーとの最大の違いは、バーチャルプロダクションでは、3DCGの視差効果をリアルタイムで再現することで非常にリアリスティックな3DCG合成を実現している点にある。本稿では技術的な詳細は割愛するが、リアルな3DCG合成表現のためには、カメラトラッキングシステムとリアルタイムレンダリングエンジンという2つの技術がキーになっている。

このグリーンスクリーンベースのバーチャルプロダクションで撮影された代表的な作品は、2016年に公開されたDisney実写映画「ジャングル・ブック」である(※2)。
 

2. LEDディスプレイベース

LEDディスプレイを活用したバーチャルプロダクションは、現実世界とバーチャル世界の融合を最も現実寄りで実現しようとしている手法だ。(尚、近年でバーチャルプロダクションが一般的に取り上げられる場合、この手法を指している場合が多い)

基本的には上述のグリーンスクリーンベースで用いられているものと同じ技術群を活用するが、LEDディスプレイベースでは、グリーンスクリーンの代わりにLEDディスプレイで構成されたスクリーンを使用する。

LEDディスプレイベースの最大の特長の一つは、リアルなライティング(照明)表現にあり、グリーンスクリーンベースとの最大の違いとなっている。

このLEDディスプレイベースのバーチャルプロダクションで撮影された代表的な作品は、2019年にDisney+で配信開始となったスターウォーズのドラマシリーズ「マンダロリアン」である(※3)。
 

上記2つは、現実世界のアクターやセットと、バーチャル世界のエフェクトやセットとを融合して撮影する手法であり、主に実写作品の撮影に活用されるバーチャルプロダクションだ。従来はポスプロで行っていたVFX編集を、撮影中のカメラの中で概ね完結できるという特長を踏まえ、ICVFX(In-Camera VFX)と呼ばれることも多い。

一方、下記で紹介する2つは、最終的な画がバーチャル空間で完結するフルアニメーションでの映像表現向けに主に活用されているバーチャルプロダクション手法である。
 

3. パフォーマンスキャプチャベース

パフォーマンスキャプチャベースのバーチャルプロダクションでは、アクターの体の動きや顔の表情などをセンサーでキャプチャし、リアルタイムでバーチャル空間のキャラクターアニメーションに反映することで、よりリアルな映像表現を実現する。

特にアクターの動きをキャプチャする技術をMo-Cap、顔の表情をキャプチャする技術をFacial captureと呼び、リアルタイムレンダリングエンジンと組み合わせて活用される。

このパフォーマンスキャプチャベースのバーチャルプロダクションで撮影された代表的な作品の一つに、2014年に公開された20世紀フォックスの映画「猿の惑星:新世紀」がある(※4)。
 

4. バーチャルカメラベース

バーチャルカメラベースのバーチャルプロダクションでは、バーチャル空間上のバーチャルカメラと完全にリアルタイムリンクした物理カメラや、ドローンカメラ、VRヘッドセットなどを活用することで、実写映画を撮影するような感覚でバーチャル世界を撮影できる。(この撮影手法は、バーチャルシネマトグラフィやVRFXと呼ばれるケースもある)

尚、このバーチャルカメラ技術も、既に前述したカメラトラッキングシステムとリアルタイムレンダリングエンジンの2つのキー技術が支えている。

このバーチャルカメラベースのバーチャルプロダクションで撮影された代表的な作品が、2019年に公開されたDisneyフルCG映画「ライオン・キング」だ(※5)。

■まとめ

バーチャルプロダクションは、現実世界とバーチャル世界とをリアルタイムで融合することで、よりリアルな映像表現をより低負荷で実現する、画期的な映像制作手法だ。

数ある分類の中でも、近年特に注目が集まっているのがLEDディスプレイベースのICVFXである。この注目の背景には、OTT事業者の台頭によるメディア業界のコンテンツサイクルの変化や、COVID-19の猛威による業界の激震などが挙げられる。後編では、これらICVFXを取り巻く環境について触れながら、なぜ今ICVFXが注目されているのかについて解説していきたいと思う。

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辻田 慶太郎/Keitaro Tsujita

辻田 慶太郎/Keitaro Tsujita

デロイト トーマツ グループ シニアコンサルタント

メディア・エンタテインメント分野(映像制作、ゲーム、エレクトロニクスなど)を中心に、成長戦略立案や新規事業開発、技術アセスメントなどのコンサルティングに従事。近年は、バーチャルプロダクションスタジオでの常駐経験に加え、XRやNFTなどの先端技術をテーマとしたエンタテインメント領域の事業企画等に携わる。