Posted: 04 Feb. 2022 4 min. read

炭素排出に「共通言語」を

国内外で加速する脱炭素の流れは製造業に大きな影響を与えている。二酸化炭素(CO2)の排出量をいかに減らすかが目先の焦点となっているが、同じくらい重要なのは「いかに測るか」である。メーカーは仕入れ先も含めたサプライチェーン全体での排出削減を求められている。まずはCO2排出量を測る上での「共通言語」を作っておく必要性を訴えたい。

 

世界では製品が作られてから消費されるまでのCO2排出量の全体を測る「カーボンフットプリント(CFP)」という考え方が定着しつつある。CFPに従えば、メーカーは自社単独ではなく取引先と連携したCO2削減を進めなくてはならない。このとき必要になるのが原料調達から製品の加工まで、各工程でのCFP測定に共通言語を作っておく作業である。

 

共通言語化は簡単ではない。原料調達や加工に関わる取引先がCO2排出の情報をメーカーと共有する際には、原価や工法など営業秘密に関わる情報も渡してしまう懸念が生じる。このため価格交渉などに必要な機微な内容を避けつつ、CFPに関わる情報だけを抜き出す工夫が求められる。国内でも自動車や化粧品メーカーが算定ツールなどを用いた共通言語化を試みつつあるが、産業界全体の取り組みとはなっていない。

 

CFPの共通言語化を進めるメリットは大きい。ESG(環境・社会・企業統治)を重んじる機関投資家は当然、サプライチェーン全体で脱炭素を進める企業に投資するからである。自社内にCFPに関する数値目標を設定して対外開示できれば、社会や消費者からの信頼も高められる。

 

先々の規制リスクに備える意味もある。欧州では製造から廃棄まで寿命全体での乗用車の環境負荷を測る「ライフサイクルアセスメント(LCA)」と呼ばれる規制が導入される見通しだ。CFPの共通言語化を進めておくことでLCA規制にも対応できる。

 

コストは当然かかる。取引先も含めてCFPのデータを共有するプラットフォームを作らなくてはならないし、データを適切に評価できる人材の育成も必要だ。これらの投資はいずれ必ず生じるので、先んじることで他社との差別化を図るべきだろう。

 

本稿は2022年2月2日付けの日本経済新聞の「私見卓見」欄に掲載されました。

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