Posted: 07 Jan. 2022 4 min. read

脱炭素社会の実現に向け、2022年期待のグリーン・フィンテックとは?

DX実践談:日本のモノづくりの再構築(2)

昨年(2021年)は世界がようやく気候変動に向き合い、GX(グリーン・トランスフォーメーション)が不可逆的な潮流として認識された年になった。しかし、脱炭素社会に向けた課題は山積みだ。

技術面では、創エネ・省エネ・畜エネインフラを筆頭に、スマートグリッド等の都市インフラや、CO2を回収・利活用するCCU/Sなどを社会実装し、維持できる水準にコストを抑制する技術革新が求められる。また、一人ひとりの生活者の意識や行動を変え、グリーンライフスタイルへの移行を促すことも重要な取り組みと位置付けられる。当然、これらの技術開発や行動変容に際する資金面の手当も必要で、IEAが今年発表した「Net Zero by 2050」によると、2050年までにCO2排出実質ゼロを達成するには、2030年までに世界中の年間クリーンエネルギー投資が現在の3倍以上となる約440兆円という莫大な規模になる必要があると目されている。これら山積する課題を乗り越えるための現実的な道筋として筆者が期待するのがグリーン・フィンテック(Green Fintech)だ。

 

グリーン・フィンテックとは、金融サービスを革新するフィンテック(金融:ファイナンス、技術:テクノロジー)に「環境保護への貢献」という要素を加味したもので、デジタルネイティブ世代を中心にグローバルで支持を集めているものだ。その展開において先進的な事例として注目すべきなのはスイスが強力に推し進める「グリーン・フィンテック・アクションプラン」だ。スイスは、グリーンデジタルファイナンスのエコシステムを創造し、脱炭素化を推進するグローバルリーダーの立ち位置を目指すビジョンを掲げている。グリーン・フィンテックを手掛けるスタートアップの成長をサポートし、グローバル展開を加速させるハブとなることで、地球規模での脱炭素社会の実現・普及を目指す取り組みである。

 

具体的には、5つのアクションプランを掲げている。1つ目は、EUが一元化を進めるESGデータや、衛星と現地測定により大気や海洋状況などをトラッキングする地球観測データのコペルニクスなどに対して、簡便にアクセスできる環境整備を通じたデータ利活用の促進である。

 

2つ目は、生活者が自分の口座情報や支払い履歴・資産形成・保険加入情報などを金融機関や非金融機関に共有することで脱炭素化の新たなサービスや体験を得られやすくするオープンファイナンス環境の整備である。

 

3つ目は、気候変動や生物多様性の課題解決におけるキーソリューションの一つと目されるブロックチェーンを始めとしたDLT(分散型台帳技術)活用を促進する法規制の整備を通じた革新的なグリーン・フィンテックサービス立ち上げの機運醸成である。

 

4つ目は、世界中から有能な人材やアイディアを集めるためのハッカソンや、国連・政府・アカデミア・NGO・金融機関・大企業・スタートアップとのコラボレーション促進を目的としたグローバルイベント開催による情報交換・研究結果の共有、共同プロジェクト組成のマッチメーキング支援を通じたグリーン・フィンテックサービス発展の後押しである。

 

そして5つ目は、特に資金繰りに窮する立上げ当初のグリーン・フィンテック・スタートアップへの投資や、アクセラレーションを担うベンチャーキャピタルの呼び込みを目的としたファンド組成援助の政府発行グリーンテックボンドなどを通じたファイナンシング支援となり、アクションプランの範囲は多岐にわたる。

今後、日本がGXを進める上で持つべき視点

翻って日本は、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル社会の実現を宣言したが、昨年(2021年)10月に改訂されたエネルギー基本計画でも明らかとなったように、欧米と比較して不利な地理特性から再エネ推進を通じて得られる期待成果も十分ではなく、実現に向けた道のりは非常に険しい。

 

改訂したエネルギーミックスの目標達成に向けてエネルギー関連の技術革新や資金援助が必要なことは間違いないが、生活者のライフスタイルや、企業の事業ライフサイクル自体をグリーンなものに転換させる取り組みも同時に進める必要がある。

 

日本は、この状況を逆手に取って、スイスのグリーン・フィンテックに対する取り組みのように産官学が一体となり、金融をフックとした脱炭素社会を切り開く新たなサービス創出・発信のグローバル集積地を目指すことが一つの選択肢になると考える。世界の中でも金融と非金融が融合した金融コンバージェンスに関する取り組みが活況な日本の優位性を活かせば、出遅れ感のある脱炭素社会に向けたかじ取りにおいて日本が世界をリードできる領域を見いだせる可能性がある。

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