Posted: 18 Aug. 2022 3 min. read

いまこそ、「民間主導」で「大学教育3.0」を実現せよ

~産官学連携による「Global innovationのプラットフォーム」の創造~

大学教育改革は今まさに「待ったなし」の状況である

いま、日本経済は極めて厳しい環境に置かれている。人口減少によるマーケットの縮小・高齢化による人手不足・デジタル技術発展による競争環境の変化…様々な課題が山積している。

こうした課題を解決するにあって、「新たな未来を牽引できる人材」(イノベーション人材・デジタル人材・グローバル人材)が必要とされていることは論を俟たない。

その中でも特に、大学教育の課題は大きい。
多くの大学で差異のない内容が教えられ、学生も「偏差値」で大学を選んでいる。企業側も、大学での専攻を重視できず、「偏差値」的な採用から大きな改革に踏み出せていない。今や大学は社会制度としての“モラトリアム”を提供する場となっているのではないか。

「新たな未来を牽引できる人材」を育成するために、大学教育には変革が求められる。

これからの“大学教育3.0” |学びとinnovationのプラットフォーム

※大学教育3.0:筆者の定義

それでは、これからの社会でどのような「大学」教育であるべきなのか、歴史的な経緯を振り返りながら検討したい。

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大学教育1.0 | 官僚を中心としたリーダーの育成

大学教育(高等教育)は、1987年に「大学審議会」が創設されて以来、“質的な向上”を継続的に実施してきた。

他方で、“作れば売れる”時代には、大学教育の“量的拡大”は必要とされず、官僚をはじめとする一部のエリートに開かれたものであった。

 

大学教育2.0 | 社会制度としてのモラトリアム

バブル崩壊後、一気に大学はその門戸を広げることになる。

1991年「大学設置基準の大綱化」によって基準が緩和され、多くの大学が新設されるとともに、「実学重視」や「多様化の推進」が図られた。

しかしながら、実態としては“大学全入時代”に突入し、「とりあえず大学に入るという社会的文化が醸成された」に留まってしまった。

 

大学教育3.0 | Global Innovationプラットフォーム

それでは、これからの大学教育はどうあるべきか?

大学教育は、より「社会変革」にフォーカスを当てた「グローバルイノベーションプラットフォーム」になるべきだと考える。

対象も国内学生のみならず社会人・留学生を強化し、場所もリアルだけでなくデジタルを通して、広く「社会変革」を惹起することを目指すべきである。

また、実現に向けては、従来までの「大学主導」の産官学連携だけではなく、「民間主導」でファイナンスを含めた新たな仕組を作ることが肝要と考える。

民間企業も、大学への要望を出すだけでは、必要な人材はもはや確保できない。企業自らが旗を振り、しがらみを取り払っていくことが「大学教育3.0」の実現のカギとなる。

「大学教育3.0」の目指す姿 | 民間主導による“確かな”産官学連携エコシステム

「大学教育3.0」の具体的な姿を、個々のプレーヤーの果たすべき役割に即して見ていこう。

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企業 | 大学経営・運営への主体的な参画

まず、本枠組みは民間企業のコミットから始まる。既存の大学への資金提供という形から、新たな大学の創設という形まで、その度合いは様々だろう。

民間企業は更に、学習コンテンツや実務家教員を大学に提供するとともに、業務ソリューションも導入し、持続可能な経営を主導する。

一方で、企業はその対価として、優秀な学生の獲得、協働研究によるイノベーション、既存従業員の学び直しの場などを獲得する。

本枠組みは、複数企業のコンソーシアムで組成することも有効である。人材が不足する業種・雇用流動化を実現したい業種・人材育成を生業とする業種等が協働出資する形が望ましい。

 

学生 | 新たな未来を牽引する人材

このような“大学”に入学する学生は、より社会に求められる実践的な人材になることができる。

デジタルやイノベーションといった知見を獲得できることはもちろん、業界や職種のイメージをブラッシュすることで、自身の学習や研究を意義あるものに感じることができるだろう。

加えて、そうした活動を支えるインターンシップを明確に単位として組み込むことで、社会学習を後押しする取り組みも必要不可欠である。

更に、“出世払い”式の奨学金制度を導入することで、潜在優秀層の取り込みも図る。海外では既に先行事例があるが、「将来一定以上の収入を得た場合に、その収入から奨学金を返済する」仕組を実装する。これは、稼げる人材を育てる動機付けを大学側に強力に要求することにもつながる。

 

自治体 | Social Financeの枠組みを用いた初期投資

自治体は、こうした取り組みを通して、交流人口の増加や消費の増加による地域経済の成長・税収増加が期待できる。

しかしながら、こうした好循環を創るためには、初期的投資が必要となる。間接的受益者が多いこうした事業には、Social Financeの枠組みを組成することが肝要である。

例えば、企業版ふるさと納税やクラウドファンディングを活用することはもちろん、SIB(Social impact bound)やまちづくりファンドなどの活用も積極的に取り組むべきである。また、実現の障壁は高いが、エリア価値向上を原資とするBID(Business Improvement district)将来の税収増加を見込んで投資するTIF(Tax increasing financing)といった枠組みにも取り組んでいくべきだろう。

 

国内先進事例 | 民間企業主導の教育改革

こうした民間企業が教育現場にコミットする「大学教育3.0」につながる動きは、日本国内において既に活発化している。

日本電産会長が理事を務める「京都先端技術大学」、多数の企業の寄付をあつめている「まるごと神山高専(仮称)」などが著名な事例である。

「まるごと神山高専(仮称・認可申請中)」には、デロイトトーマツグループも支援の計画を進めている(デロイト トーマツ コンサルティング、教育ビジネスグループを立ち上げ、学生・社会人教育の支援を展開)。

国・自治体任せではなく、今こそ民間企業が教育改革に乗り出す時ではないか。

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