Posted: 01 Sep. 2022 5 min. read

防災週間に考えるダイバーシティ

数々の災害からの復興を重ねて

日本は地震大国である。

これは世界的に知られた事実であり、他にも、台風、火山噴火、津波など、日本は地理的に多くの災害が生じやすく、大災害が発生するたびに、日本に住む人々は知恵を寄せ、協力しあい、復興を重ねてきた。

そして、9月1日は防災の日、8月30日から9月5日は防災週間だ。本ブログでは、災害対策や被災支援を考える際のダイバーシティの大切さをお伝えしたい。

ジェンダー・ギャップが、被災時・復興時にもたらすもの

日本は長年、ジェンダー・ギャップの大きさが指摘され続けている国であるが、被災支援・復興の過程においても、ジェンダー・ロール(性的固定役割)やジェンダー・バイアスによる問題が指摘されていることをご存知だろうか。

例えば、東日本大震災の避難所に関する報道の中で、生理用品や女性用下着といった物品の不足が生じてしまった問題を目にした方も多かったことだろう。これは、当時の岩手県・宮城県・福島県では、避難所の設計・運営の中心を担う自治会長のうち96~97%程度が男性であり、女性などへの配慮が必要であるとの認識が十分ではなかったことに起因する問題である。また、東日本大震災を起点に内閣府が実施した『男女共同参画の視点による震災対応状況調査』では、がれき処理は男性、食事準備は女性の担当となる傾向が強かったが、がれき処理は「仕事」として対価が支払われた一方で、食事準備は「家事」として無償奉仕となることが多かったと報告された。育児や介護同様、「女性が担ってきた仕事は無償労働、あるいは低賃金労働」となりがちな日本において非常に根深い問題であり、被災で職を失った女性が更に収入も得られないサイクルを生んでいたのである。

被災時の支援物資や臨時収入は、生きていくための命綱であり、そこにジェンダー・ギャップが生じることは到底許してはならないのはもちろんのこと、その後に各々が復興・再起をするための機会の不平等を再生産してしまうことにもつながりかねない。

「備えあれば憂いなし」とは言うけれど

非常時は、妊産婦や子どもを抱える家庭、高齢者、持病や障がいのある人々、日本語を母国語としない人々など、社会的少数となっている人々には特に負荷がかかってしまう。しかし、災害時は地元の行政機関も疲弊しており、避難者自身も、周囲に遠慮して声をあげられぬことも多かろう。従って、災害が発生しやすい国で重要なのは、平時から様々な視点を交えて議論し、災害に備えた準備を行う段階で、多様な人々の意見を反映することが「当たり前」な社会にしておくことなのではないだろうか。

しかし残念ながら、災害に備える際の視点のダイバーシティは未だ進んでいない。例えば、東日本大震災から11年経った今年の5月に公表された国の調査では、全国の自治体のうち、61.9%の自治体の防災担当部署に女性職員が1人もいないことが明らかとなった。防災担当部署の女性割合が10%以上となっている自治体と比較したところ、女性職員がいない自治体では「生理用品」や「女性用の下着」、「哺乳瓶やおむつ」「簡易トイレ」などの項目で備蓄が進んでいない傾向が見られたとのことである。

多くの人を救うための、Diversity, Equity & Inclusion

一方で、少しずつだが変化した分野もある。乳児用液体ミルクの国内製造・販売もそのひとつだ。

日本には、平時にも非常時にも役立つ液体ミルクの製造・販売のための基準を定める法律や省令が長らく存在しなかった。しかし、東日本大震災や熊本地震の際に海外から支援物資として液体ミルクが届けられたことで、液体ミルクの国内製造・販売のための署名運動が活性化。多くの人々の働きかけによって法整備が進み、東日本大震災からちょうど8年後の2019年3月11日に、日本初の乳児用液体ミルクの発売がスタートした。他にも、NHKをはじめとした地上波テレビや各種ラジオ放送、自治体案内などでは、子どもや日本語を母国語としない人々にも伝わりやすいよう、避難の呼びかけに「すぐ にげて!」といった、やさしい日本語も使われるようになった。こうした変化は、今後多くの人々を救うことだろう。

当グループでも、生理用品はもちろんのこと、非常食としてハラール認証食品/ベジタリアン対応の食品/アレルギーフリーの食品も備蓄している他、避難訓練時には、勤務する視覚障がいをもつメンバーを対象にBCP(Business Continuity Planning:災害などの緊急事態における企業や団体の事業継続計画のこと)チームも同伴したりするなどして災害時のアクションを個別にレクチャーし、平時から「非常事態」を想定した備えを行っている。

 

家族や居住形態の違い、障がい・介護・言語の違いへの配慮、ペットを連れた避難など、考えねばならない「違い」は枚挙に暇がない。災害が生じやすい国だからこそ、いざという時に向けて皆が一丸となり、社会を構築する段階で、多様な視点を取り入れた災害対策を練ることが「当たり前」となるよう、ダイバーシティを推進していくべきではないだろうか。マイノリティが住みやすい社会はマジョリティにとっても住みやすいと言われるが、乳児用液体ミルクが今では「どんな時でも便利なもの」となったことと同様に、多様な観点で非常時を考えることは、誰にでも便利で住み良いインクルーシブな日常生活の創出へと繋がっていくのである。

 

* デロイト トーマツ グループでは、東日本大震災から10年を経た今も、復興を支える地域の「ひと」づくりに焦点を当てた復興支援を継続しており、復興支援を起点に、次世代につながる社会価値創出を目指してなど、ホームページを通じて復興支援に関する様々な情報を発信しています。ぜひ、あわせてご覧ください。

デロイト トーマツ グループのDiversity, Equity & Inclusionに関する情報はこちら

執筆者

Diversity, Equity & Inclusion チーム

Diversity, Equity & Inclusion チーム

デロイト トーマツ グループ

「Diversity, Equity, & Inclusion(DEI)」を自社と顧客の成長を牽引し、社会変革へつなげていくための重要経営戦略の一つとして位置付けているデロイト トーマツ グループにおいて、様々な「違い」を強みとするための施策を、経営層と一体となり幅広く立案・実行しているプロフェッショナルチーム。インクルーシブな職場環境の醸成はもちろん、社会全体のインクルージョン推進強化に向けて様々な取り組みや発信を実行。 関連するリンク デロイト トーマツ グループのDiversity, Equity & Inclusion