信頼関係を結んだ者同士が豊かな明日への道をともに拓く「信頼」を経営の軸として|D-nnovation Perspectives|Deloitte Japan ブックマークが追加されました
本ブログシリーズ1回目で紹介したアップデートされた「信頼」を獲得するためには、企業経営の機能軸での取り組みが必要なのと同時に、忘れてならないのがステークホルダーごと、そして横断での信頼構築に向けた取り組みである。
本ブログシリーズ1回目において、人々の求める幸せや価値観の変容に触れたが、それらは人間の根源的ニーズの変容と言い換えられる。経済的な豊かさのみでなく、自分がどう生きたいか、人生において何をしたいのかを重視するようになり、顧客は新たなライフスタイルや精神的な豊かさを満たすための製品やサービスを求め、従業員は自らの志を実現できる環境を求める。
企業が個人を選ぶ時代から、個人が企業を選び、1つの組織に所属することにこだわらない時代へと変化している。企業の理念を達成するために、従業員が貢献するという一方通行ではなく、企業と個人の両方のパーパスを達成するという双方向の姿勢を持つことが働く場所として選ばれる企業の条件となるだろう。そのような企業が置かれている立ち位置の変化に対応できているだろうか?
一般的に重視される顧客や従業員に加え、根源的ニーズを把握し、実現するためには、市民の声を受けとめ、代表として発信するNPOやNGOとの協働、研究機関と共同することによる新たなイノベーションの実現、そして政府や行政との連携によるモノやサービスの社会への浸透が必要不可欠となる。しかし、日本企業の多くはこのようなパブリック、ソーシャルなセクターとの信頼関係を結ぶことを得意としていないことも多い。これからの信頼の在り方を考えるとき、今まで目を向けていなかったセクターとの新たな関係構築も、選ばれ続ける企業となるための一つの要素となる。
また、人々は社会や地球環境の存続をも望むようになっている。そのためにはサプライチェーン全体や競合他社をも巻き込んだ取組みが必須となる。そして、これらの要請に応えることにより、株主や金融機関に未来を拓き続ける企業であると判断されれば、彼らとの信頼もさらに強く厚いものとなっていく。
本書で取り上げたエコシステム形成の例の中で、インタビューに応じてくださった武田薬品工業の濱村様の言葉で印象に残ったものがある。「外から見た時に当社が何をすべきかという「アウトサイドイン」のアプローチで考えたことが大きな変革のドアになったのではないかと思います。そして大事な視点としてエコシステムの中で必ずしも自分たちがメインのプレイヤーにならなくてはならないとは思いませんでした。(中略)独りよがりなものにせず、枠を広げてみた時に、結果的に大きな役割を担えることもあるのではないかと思っています」様々なセクターをつなごうとするとき、どうしても自社を中心において考えがちであるが、もっと俯瞰した目で捉えることで築ける信頼関係もあるのである。
ここまで信頼という重要な軸は不変であることを語ってきたが、最後に変化の規則性、今後の変化に目を向けてみたい。歴史は繰り返すというのはよく聞く言葉であるが、経営も同じように前進と回帰を繰り返しているように思う。
例えば、企業は他社と競争することで成長してきたが、今は他社と共創することで価値を生み出すことに重心が移りつつある。しかし今後、様々な共創するコミュニティが生まれるにつれ、いずれは共創コミュニティ間の新たな競争が生まれるであろう。競争から共創へ、そして新たな競争へと回帰していくのである。
また、サプライチェーンは集約化が進み、最大限の効率化が正義とされていた時代から、あらゆるリスクに備えるため、分散させる方向に進んできた。そして、今後は環境負荷低減の観点での最適解を求めた集中化が進むかもしれない。集中から分散へ、そして再集中へ。サプライチェーンの信頼性という軸は不変であれど、その信頼は何を拠り所にするのかは時として変化が生じる。
このように目的や背景は変わりながら、そして求めるレベルは高まりつつも、回帰するという未来もシナリオの一つとして想定しておくことが重要となるのではないだろうか。
回帰の先に来る新たな未来を見据えながら、信頼関係を結んだ者たちが、多様な知を掛け合わせ、競争と共創を繰り返すことで、人々や社会が豊かであり続ける世界が実現する。
本書は不確実性や複雑性の増す世界において、危機感を煽る、暗い未来を示すのではなく、ともに明るい未来を築くために、日本企業へエールを送りたい、思いをもって走り抜ける伴走者になりたいという思いから執筆した。ぜひとも多くの方に手に取っていただき、企業経営の変革を推進するための一助にしていただけたら幸甚である。
製造業、金融、サービス、運輸など幅広い業種に対する戦略コンサルティングに従事。中でもサステナビリティと企業経営の融合・一体化に向けた経営戦略や新規事業の策定、ブランディング、コミュニケーション戦略からデザイン・クリエイティブを用いた実装までを多く手掛ける。著書に『SDGsが問いかける経営の未来』(共著:日本経済新聞社)がある。 デロイト トーマツ コンサルティングのBranding & Marketing及びEducation Business Groupも担当 関連するサービス・インダストリー ・ モニター デロイト(ストラテジー) ・ CSV / Sustainability Strategy >> オンラインフォームよりお問い合わせ