Posted: 05 Apr. 2022 4 min. read

脱炭素社会に向けた地域金融機関の在り方

2050年の脱炭素社会の実現に向けて、昨年6月に内閣官房と環境省が主導する国・地方脱炭素実現会議において「地域脱炭素ロードマップ」が発表された。2030年までに脱炭素先行地域を100か所以上創出し、 地域起点の脱炭素ドミノを全国に伝播させることで2050年を待たずに脱炭素社会を実現する野心的なプランだ。

 

多くの自治体がこの動きに呼応する形で取り組みに着手した状況であるが、脱炭素地域の実現に向けては、消費者サイドと事業者サイドの双方に対して、「現状の見える化」「ソリューション提供」「ファイナンス支援」「成果創出」のバリューチェーンで顕在化する課題を乗り越える必要がある。

 

これらの課題に対して、グローバルでは、グリーンフィンテックプレイヤーに端を発し、伝統的な金融機関も含めて、金融を起点とした取り組みが広がっており、打開策として注目を集め始めている。

 

筆者は、これまでの地域経済の発展を牽引してきた地域金融機関こそ、脱炭素地域づくりの中核を担える立ち位置にいると考えている。それは、地域金融機関が地域における圧倒的なブランド、地元の生活者や取引先企業との強固なネットワーク、情報や資金を融通する力を兼ね備える稀有な存在だからだ。ゆえに、より一歩踏み込み、生活者や取引先企業の脱炭素化を後押しするモノ・サービスも融通し、自治体とも連携しながら成果を創出し、還流させるサイクルを生み出すことで、新たな地域の未来づくりを牽引する価値を発揮できるはずだと考える。

 

そこで、以下グローバルの事例を基に地域金融機関がとるべき施策の一助として提示したい。

課題解消の試金石となり得る金融のポテンシャル

まず、現状の見える化では、企業の商品生産~流通~販売におけるCO2排出量を計測できる仕組みと、消費者の日常活動におけるCO2排出量を可視化できる仕組みが必要だ。例えば、米国のチャレンジャーバンク(銀行免許を取得してモバイルを中心にサービス提供する事業者)であるAspiration社は、企業向けにScope1、2、3のCO2排出量を可視化する「Sustainable Impact Services」を提供しており、消費者向けにもデビットカードやクレジットカード支払いに紐づくCO2排出量の可視化や個々人の環境貢献度合いをスコア化してシェアできるサービスを提供している。

 

ソリューション提供では、グリーンなライフスタイルや事業モデル転換を後押しするサービスのレコメンド、ナッジなどの行動経済学も活用した日常的な行動変容を促す仕掛けが必要だ。例えば、ネオバンク(銀行免許を持たずにモバイル中心で金融サービスを提供する事業形態)の「Atmos Financial」は、預金の運用先を気候変動対策に取り組む脱炭素プロジェクトや企業のみと限定しており、ユーザーがアプリ上で預金額や期間に応じたCO2削減量を確認できる仕組みを提供している。また、サステナブルブランドとして認定された商品やサービスの購入に対する最大5%のキャッシュバックも提供しており、気候変動に対する意識醸成と日々の行動変容に取り組んでいる。

 

ファイナンス支援では、再エネ設備などの導入に必要な資金を金融機関から優遇金利で借り入れられるグリーン融資・ボンド・リースに加え、個人や企業のカーボンオフセットを通じた直接金融により脱炭素プロジェクトの資金需要を満たすサービスが求められる。例えば、米国のテック企業であるTerraPass社は、個人や事業者が脱炭素プロジェクトに投資することでカーボンオフセットできる仕組みを提供しており、CO2削減目標の達成と資金不足の補填を両立させることを試みている。

 

成果創出においては、CO2削減による社会貢献への実感に留まらず、目標以上のCO2削減を達成した場合は余剰分を売買して収益を得られるサービスや炭素税の免除などの税制優遇措置といった経済的な便益も得られる仕掛けが欠かせない。例えば、イギリス、カナダ、オーストラリア、ブラジルの大手銀行が提携し、各行の法人顧客がCO2排出権を売買できるプラットフォームの実証実験を開始している。ブロックチェーン技術を活用し、CO2排出権の二重カウント防止や、CO2排出権の所有者や全ての取引履歴を透明性高く管理できる状態を築くことで、参加しやすい場づくりを試みている。

地域金融機関への期待

これらの事例も現時点では、個別課題への対応に終始している印象はあるものの、金融を活用した取り組みで脱炭素化を目指す動きは確実に広がっている。脱炭素化に向けては、多様な課題が絡み合う現状の打破に向けて、生活者と事業者双方の視点を踏まえ、バリューチェーンを横断した「地域として目指す脱炭素社会の在り方」の明確化とその中核的な役割を担う企業の存在が欠かせない。先にも述べたように、地域金融機関は、脱炭素地域づくりの中核を担える立ち位置にいると考えている。地域金融機関の多くがPBR(株価純資産倍率)0.5を下回り、企業としての存在価値を改めて問いただされている状況であるが、脱炭素地域づくりにおいて中核的な役割を担うことが一筋の光明になるのではないかと期待している。

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