Posted: 07 Feb. 2022 4 min. read

日本におけるサステナブル・ツーリズムの加速に向けて

SDGs(持続可能な開発目標)の流れを受けて、観光業界において、サステナブル・ツーリズムと呼ばれる考え方が広まりつつある。サステナブル・ツーリズムとは、環境・社会・経済の3つの観点において持続可能な観光を指す。

 

具体的には、観光地の自然を活かした体験ツアーの企画(グリーン・ツーリズム)や、地域の自然環境及び文化・伝統の国内外への発信や特産品の購入促進(エコ・ツーリズム)、観光客の多い地域ではなく、これまで注目されて来なかった観光地で地域特有な場所や文化、体験の提案(アンダー・ツーリズム)等が挙げられる。

 

日本では、2020年6月に観光庁とUNWTO(世界観光機関)駐日事務所が「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」を共同で発行した。JSTS-Dは、各地方自治体や観光地域づくり法人(DMO)等が持続可能な観光地マネジメントを実現するための指標を提示しており、「持続可能なマネジメント」、「社会経済的影響」、「文化的影響」、「環境への配慮」の4分野から成り立っている。

 

足元では、上記の潮流に加えて、COVID-19の影響により、経済的な打撃を受けた観光地のコミュニティや経済を支えたい、観光客の密集を避けたい等のニーズの高まりから、本取組の動きは加速しつつあると言える。

日本におけるサステナブル・ツーリズムの取組内容と課題

前述の潮流もあり、日本の地方自治体やDMOのサステナブル・ツーリズムの関心は高まっており、一部の観光地は世界的にもサステナブルな旅行先として認められ始めている。例えば、岐阜県の白川村は、持続可能な観光を推進するオランダのNPO法人Green Destinationsによる「2020 Sustainable Top 100 Destinations」に選定され、国際的な評価も高い。白川村は、個人顧客を含めた観光客の完全予約制導入による観光客の抑制、現地の自然や文化遺産(合掌造り等)の保全を目的としたガイド・ツアーの提供を行っている。

 

ただ、UNWTO駐日事務所のアンケート調査では、日本の自治体及びDMOにおいて、サステナブル・ツーリズムの認知はされているものの、観光客のモニタリングや地域住民の参画はいまだ発展途上であるという結果に終わった。また、ブッキング・ドットコムの調査では、「今年はサステナブルな宿泊施設に滞在したい」と回答した日本の旅行者は36%であり、海外の旅行者81%と比して低い。日本においては、自治体・事業者等の取組が道半ばであり、地域住民や観光客の巻き込みが不十分な状況にあると思われる。

海外のサステナブル・ツーリズムの先行事例と日本への示唆

日本と比較すると、特に欧州は政府、自治体、観光事業者による地域住民や観光客の巻き込みが進んでいる。

 

例えばフィンランドでは、フィンランド政府観光局が「サステナブル・フィンランド」を推進しており、自治体や観光事業者だけでなく旅行者に地域の環境や文化への尊重を求める取組を実施している。特に観光客については、「SUSTAINABLE FINLAND PLEDGE(サステナブル誓約書)」への賛同を求めているほか、ホームページ上で「10 Sustainable Travel Tips in Finland(フィンランドでサステナブルな旅をするための10のヒント)」を公開している。また、フィンランドに今年オープン予定のホテルArctic Blue Resortは、世界で初めて、CO2排出量が宿泊料金に反映される仕組みを構築した。観光客は滞在中のエネルギー抑制の取組やサステナブル体験・活動への参加などに応じて経済的なインセンティブを受けられる。

 

上記は一例であるが、日本の自治体・DMOや観光事業者がサステナブル・ツーリズムを加速するには、地域や事業内でのサステナブルな取組やコンテンツの対外発信に留まらず、観光地を訪れた観光客を巻き込み、サステナブルな取組を強く促していく必要があると筆者は考えている。そのためには、フィンランドのホテルArctic Blue Resortのように、観光客のサステナブルな取組の定量化及び経済的インセンティブの付与が不可欠と思われる。前述の内容の実現に向けて、観光事業には、観光サービスの枠組みを超え、観光客のデータ収集・活用や経済的インセンティブを付与するための決済等の機能が求められるだろう。

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