Posted: 18 Apr. 2022 4 min. read

今こそ社会起業家とのオープンイノベーションで未知を切り拓け(後編)

CSV実現に欠かせないソーシャルセクターとの協働

(前編はこちら)

 

日本企業は、社会起業家とのオープンイノベーションにより、彼らのインテリジェンスを活用し、社会課題解決型の事業開発(製品・サービスの検討)に取り組むべき

今後日本企業が社会起業家との協働を進めていく上で、筆者は、「今こそ社会起業家とのオープンイノベーションで未知を切り拓け~CSV実現に欠かせないソーシャルセクターとの協働(前編)」で述べた、日本企業のインプット/プロセス/アウトプットにおける協働意義の中でも、日本では特にインプットの観点で、社会起業家とのオープンイノベーションにより、彼らのインテリジェンスを活用して、社会課題解決型の事業開発(製品・サービスの検討)をしていくべきだと考える。

インプットに着目する理由は、日本の社会起業家は、欧米諸国と比較して活動規模・範囲が小さい傾向にある為である。日本の社会起業家を取り巻く環境(法制度、お金の流れ)や歴史的背景が欧米諸国と異なる為、現時点では欧米諸国と比較して社会起業家がスケールアップすることは構造的要因により困難である。この地域性を考慮すると、日本においては、活動規模・範囲が小さくても協働意義が享受できる、社会起業家のインテリジェンス(=インプット)に注目するべきである。

 

また、前述の通り、彼らのインテリジェンスは“虫の目”で課題解決における力点を捉える上で有用である。社会起業家は特定の社会課題の解決に向けて並外れた情熱を抱いて起業しており、社会課題を解決する事業アイデアについて数多のトライ&エラーを繰り返している。つまり、ビジネスモデルキャンパスにおけるVP(価値提案)を考えるプロフェッショナルなのだ。その為、社会課題解決型の製品・サービスを検討していくのに有益な実践知を提供してくれるだろう。

 

オープンイノベーションの重要性が叫ばれて以降、一部の感度の高い日本企業は社会起業家との協働に着手し始めているが、“社会課題解決型の事業開発”という明確な目的をもって対話をしている企業は限られるのではないか。

欧米の先進企業は、社会起業家のインテリジェンスを社会課題解決型の事業戦略に反映し、業績拡大に成功している。例えば、デュポンは、1990年代から社会起業家を含めたソーシャルセクターをコーチとして経営会議におけるアドバイザリーパネル(テーマごとに10名程度のソーシャルセクターのコーチで構成される集団。バイオテクノロジーアドバイザリーパネルや食料アドバイザリーパネル等が存在している)に迎え入れている。自社事業の転換期に経営陣とアドバイザリーパネルの「Oval Table Dialogue」を実施しており、経営陣が提示する主要な事業戦略に対して、アドバイザリーパネルが3つの改善アイデアを提案し、実際にデュポンの事業戦略に反映させている。結果として、2000年代には化学、バイオテクノロジー領域の新事業が発展し、事業の転換期に成長を加速することに成功している。

 

サステナビリティ・インパクトの創出(=真に社会課題を解決する)が求められる時代において、競合他社に先駆けて迅速に効果的な社会課題解決型の製品・サービスを市場に投入し、競争優位を構築していく為には、社会起業家のインテリジェンスをフル活用していくことは必須要件と捉えるべきだ。

対等な関係性の下での社会起業家と企業の協働は、双方ともにWin-Winな取組みであり、社会全体にとっても意義深い

最後に、「Social Entrepreneur系」活動に代表される社会起業家、そして社会全体にとっても協働意義がある点についても触れておきたい。この点については、日本で長年社会起業家の伴走支援をしてきたNPO法人ETIC. 番野 智行氏が下記の通り言及している。

 

「“社会起業家”にとって、企業と協働する意義は、大きく2点ある。

1点目は、企業の行動や意識が変わることで、社会起業家が掲げる目的の実現に近づくということ。この点は、企業の意識が変わるということと、企業に勤める市民の意識が変わるということの双方が含まれる。

2点目は、社会起業家にとって貴重な収益源を得られること。財源が豊富な団体でない限り、知見の提供や協働には一定のフィーがないと企業との協働は持続可能ではない。協働する企業としても、“社会起業家の知見は無料”というような姿勢では、関係性の悪化につながるケースがある為、留意が必要である」

 

「“社会全体”にとって、企業と社会起業家が協働する意義も、2点挙げられる。

1点目は、それぞれ単独では目指す世界の実現(社会問題の解決)はできない為、クロスセクターでの協働が必要であるということ。

2点目は、行動レベルでの協働だけでなく、対話・情報交換で両セクターの活動をアップデートできること。(これを体系的に取り組んでいくのがコレクティブ・インパクトである。)」

 

一方で、日本における社会起業家×企業の協働事例に数多く触れてきた同氏は、協働における留意点についても言及している。

 

「一部の日本企業は社会起業家との連携に着手しているが、活動規模の小さい社会起業家との関係性を見誤ってしまう傾向がある。実際に社会起業家に対して、”社会起業家のミッションに繋がるから、自分たちは良いことをしてあげている“というような態度を無意識にとってしまう企業担当者もおり、協働におけるハレーションや副作用が生じているケースも多い。

本来は企業と社会起業家は“社会的な役割が異なる対等な存在”である。」

 

オープンイノベーションにおけるベンチャー企業と企業間の関係性にも同じ指摘があるが、企業が社会起業家との立ち位置や権力関係を誤認識したまま協働を推し進めると、不幸な結果になりかねない。

 

つまり、対等な関係性の下での社会起業家と企業の協働は両セクターにとってWin-Winな取組みであり、加えて社会全体にとっても意義深いことである。

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今井 克哉/Katsuya Imai

今井 克哉/Katsuya Imai

デロイト トーマツ グループ シニアコンサルタント

戦略コンサルティング部門 モニター デロイトに所属。サステナビリティを軸とした、シナリオプランニングに基づく全社長期戦略、社会課題起点の新規事業戦略検討、コーポレートコミュニケーション戦略検討などを複数実施。製造業、消費財、製薬、総合商社、銀行、保険、プライベートエクイティファンドなど幅広い業界に対するコンサルティング経験を有する。また、近年では社会起業家(Social Entrepreneur)等のテーマも取り扱う。