Posted: 18 Apr. 2022 4 min. read

今こそ社会起業家とのオープンイノベーションで未知を切り拓け(前編)

CSV実現に欠かせないソーシャルセクターとの協働

ソーシャルセクターに対する注目が再燃する今こそ、「ソーシャルセクターとの協働意義」を再考するべき

2022年1月にスタンフォード大学経営大学院CSIが発行する、社会課題に取り組むリーダーの為のメディア「Stanford Social Innovation Review」の日本版創刊号がリリースされた。Forbes、Harvard Business Review等のビジネス専門誌でも「ソーシャルイノベーション」、「社会起業家」等のキーワードが昨今取り上げられている。従来からビジネスセクターとソーシャルセクターの協働は議論されてきたが、ソーシャルセクターに対する注目が再燃する今こそ、「ソーシャルセクターとの協働意義」を再考することが、日本企業が真に社会課題を解決し、競争優位性の構築に繋がるのではないかと筆者は考えている。

ソーシャルセクターは多岐にわたる活動をしており、単純に法人形態や規模感等で語れない。筆者は、「ソーシャルセクターとの協働意義」を再考する上で、ソーシャルセクターの活動類型を、社会課題に対するアプローチの「方法」と「対象」という2軸で、「Activist系」、「Social Entrepreneur系」、「Service Provision系」の3分類のマトリクスで整理している。(図1参照)

 

図1:ソーシャルセクターの活動類型

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留意点として、本マトリクスはプレイヤーの分類ではない為、1団体が複数タイプの活動を行うケースがある。例えば、「Social Entrepreneur系」の活動主体に代表される社会起業家は、「Service Provision系」の活動を通して現場のニーズや社会課題の根本原因・システム構造を把握している。また、「Activist系」活動として政策提言/調査報道等を行うケースもある。

 

図1のような活動類型を通してソーシャルセクターに対する見方を一段深めると、“多くの日本企業は、いずれか1つの活動類型の団体と協働しただけで、ソーシャルセクターと十分に協働できたと思い込んでいる可能性が高い”という点に気づく。本来であればソーシャルセクターの中でも異なる活動主体ごとに特徴や強みが異なり、企業にとっての協働意義も異なってくる。いずれか1つのソーシャルセクターと協働することに満足していると、ソーシャルセクターとの協働効果を最大化できず、競合他社の後塵を拝することになりかねない。

真に社会課題を解決し、競争優位性を構築していく為には、“先導役”の「Activist系」と“指南役”の「Social Entrepreneur系」の2つの活動主体と協働していくべき

加えて筆者は、日本企業が真に社会課題を解決し、競争優位性を構築していくという目的に立ち返ると、特に「Activist系」と「Social Entrepreneur系」の活動主体の双方と協働していく必要があると考えている。なぜなら「Activist系」はどの社会課題に(What)、なぜ取り組むのか(Why)を企業が検討する際の“先導役”、「Social Entrepreneur系」は社会課題をどのように解決するのか(How)を企業が検討する際の“指南役”となり得るからだ。(図2参照)

 

誤解のないように申し添えると、CSV視点で企業がソーシャルセクターのどの活動に注目するべきかという観点での見解であり、ソーシャルセクターの活動間における社会的優劣について言及しているわけではない。歴史上絶え間なく社会課題が発生し続ける世の中においては、緊急性の高い顕在課題にアプローチする「Service Provision系」は極めて重要な役割を担っていると筆者は捉えている。

 

なお、「Activist系」との協働意義については、モニター デロイトが2018年に上梓した「SDGsが問いかける経営の未来」(日本経済新聞出版)にて詳述している為、本ブログにおいては従来十分に解説できていなかった「Social Entrepreneur系」活動主体の代表とされる“社会起業家”との協働意義にフォーカスして、日本企業におけるインプット→プロセス→アウトプットの3つの観点で詳述する。

 

図2:CSV視点におけるソーシャルセクターとの協働意義

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まず、日本企業が市場/社会の変化を捕捉していく“インプット”の観点では、社会起業家は個別具体的な社会課題に第一線で取り組んでいる為、“虫の目”で課題解決における力点を捉えるインテリジェンス力を強化してくれるだろう。現場の声を含めた生々しい実践知を確保することで、社会課題のシステム構造の把握、社会課題起点の新規事業創出におけるシーズ発掘や、事業モデル構想に活かすことができる。例えば、オランダに本社を置くヘルステックカンパニー「フィリップス」は、ヘルスケア領域の社会起業家育成支援をする中で、課題を抱える現場の生の声や、解決アプローチに対する実践知を獲得し、自社のイノベーション創出力を高めている。日本においても、2019年5月に東北・仙台市に社会起業家を含めたクロスセクターが集う“オープンイノベーションの実験室” Philips Co-Creation Center(CCC)を設立し、イノベーションのシーズ発掘を行っている。東北・仙台と言えば、TED×Tokyo、HLAB等で有名な⼀般社団法⼈IMPACT Foundation Japanが展開する社会起業家育成プログラム「INTILAQ」の運営拠点であり、社会起業家が育まれる土壌がととのっている。

続いて、Zoom in/Zoom outの視点で戦略立案/実行をしていく“プロセス”の観点では、社会起業家と協働することで、“Market-driven”なアプローチで市場構造を変革し、新市場/顧客を創出する力を強化することができる。例えば、CSV先進企業の一般消費財メーカー「ユニリーバ」は、2015年に英国の外務・英連邦・開発省(FCDO)とEYとの共同イニシアチブ「TRANSFORM」を設立し、サハラ以南のアフリカと南アジアの低所得世帯に対して革新的なソリューションを提供する社会起業家を支援している。社会起業家が低所得世帯の課題を解決し、中所得世帯へ押し上げることで、同社ビジネスにおける顧客層(一般消費財を頻繁に購入する中所得世帯)を自ら創り出すことが出来ている。BOPビジネスと似た発想であるが、社会起業家と協働することで、従来の“市場の失敗”領域にメスを入れることができ、それ故に競合他社がリーチできていなかった顧客層に先駆けてリーチし、顧客を囲い込むことができるのだ。

 

最後に、外部ステークホルダーへのコミュニケーションを行う“アウトプット”の観点では、中立的かつ行動力/熱意のある社会起業家との協働はエコシステムに仲間を巻き込む“求心力”を強化してくれるだろう。例えば、フィンランドの独立系民間ファンド「Sitra」と世界中で社会起業家のネットワークを構築し支援する「アショカ」の共同イニシアチブとして、2021年にフィンランドにおける「Changemaker mapping」が整理されているが、この中でフィンランドにおける社会起業家と政策立案者、資金提供者等のアクター間の関係性が可視化されており、「社会起業家がソーシャルインパクトをスケールさせる為に、非常に多岐にわたるコミュニティ・ネットワークの力を活用している」という示唆が得られている。

 

では、今後日本企業が社会起業家との協働を進めていく上で、具体的にどのようなアクションを取っていくべきか?

 

この問いに対する筆者の考えを、「今こそ社会起業家とのオープンイノベーションで未知を切り拓け~CSV実現に欠かせないソーシャルセクターとの協働(後編)」にて詳述する。

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今井 克哉/Katsuya Imai

今井 克哉/Katsuya Imai

デロイト トーマツ グループ シニアコンサルタント

戦略コンサルティング部門 モニター デロイトに所属。サステナビリティを軸とした、シナリオプランニングに基づく全社長期戦略、社会課題起点の新規事業戦略検討、コーポレートコミュニケーション戦略検討などを複数実施。製造業、消費財、製薬、総合商社、銀行、保険、プライベートエクイティファンドなど幅広い業界に対するコンサルティング経験を有する。また、近年では社会起業家(Social Entrepreneur)等のテーマも取り扱う。