【最新トレンド】Generative AIが金融業界にもたらす影響(前編) ブックマークが追加されました
人間の脳のメカニズムを模したアルゴリズム「ディープラーニング」が2006年に登場して以降、AIの研究および社会実装が急速に進展してきたことは周知の事実である。2012年にGoogleが発表した論文においてAIが猫を認識したと発表されたことや、2016年に囲碁AIのAlphaGoが人間のプロ囲碁棋士を相手に勝利したこと等は21世紀のAIの進展を語る上で欠かせない金字塔となっている。一方で、これまでのAIはその利用の場面において専門的知見を必要とする「専門家の道具」の側面が強かったことは否めない。
ところが2022年に入り、平易な文書による入力を元に高度な画像や文書等を生成するGenerative AIが台頭し始めた。入力したテキストから想起される画像を生成する「Midjourney」「Stable Diffusion」「DALL-E2」や、自然な会話文書による指示を元に多岐にわたる文書生成が可能な「Chat GPT」「Bard」等である。これらのGenerative AIの特筆すべき特徴として「専門的なプログラミング知識を必要とせず、人間の言葉によってAIに指示を出せること」「AIが出力する結果が人間と同等かそれ以上の品質であること」等が挙げられる。これまでのAIの進展と比較して近年のGenerative AIの進化は特に著しく、2023年3月の現在においてAIは司法試験に合格するほどの知的・言語的振舞いを実現しており、AIが人間の知性を超える特異点、いわゆる「シンギュラリティ」の到来も現実味を帯び始めている。
このGenerative AIによる革新的な技術発展を絶好の機会と捉え迅速な事業展開を見せているのがIT業界の雄GAFAMの一角を成す米マイクロソフトである。ChatGPTの開発を担う米OpenAI社に巨額の投資を決定し、Word, Excel, PowerPoint, Outlook, Teams 等をはじめとするあらゆるOffice製品へChatGPTを搭載することを発表した。情報化社会における最大のビジネスインフラとでも言うべきマイクロソフトの製品群へChatGPTが搭載されることにより、オフィスワーク全般へChatGPTの利用が浸透・普及することはほぼ確実と想定される。
現状、米大手金融機関をはじめとしてChatGPTの業務利用に制限を設ける企業も少なくないが、むしろ今後はChatGPTの利用を前提とした事業・ビジネスプロセスが当然の事として現れ始め、抗うことの出来ない潮流となるのではないだろうか。AIの出力に誤りが有り得ることから、顧客へ向けたサービスへAIを直接活用することへの懸念は常に存在する。しかしGenerative AIの性能は目まぐるしいスピードで進化しており、近い将来あらゆる業務領域の事務的作業をGenerative AIが担い、人間はGenerative AIが実行した結果の妥当性の確認、および新たな価値創出に専念出来る様になるだろう。如何にGenerative AIを有効に活用出来るかが組織の生産性、ひいては企業の競争力を高める重要ドライバーとなりうる。
特に金融業界は伝統的に事務作業割合の多い業界として知られており、Generative AIがその部分の業務を担うことによるビジネスへの影響度は大きいと言える。加えて、既存業務の制約が少ない新規参入者にとってGenerative AIはビジネスをスケールする圧倒的なEmpowermentツールとなり、新たなFintech企業およびDAOコミュニティの台頭が益々活性化する可能性がある。この様にGenerative AIは既存の金融事業者の新たな価値創出を強力に支援するイネーブラーであると同時に、新たな新規参入者のスケールを容易にすることで競争環境に劇的な変化を起こす触媒となる可能性がある。Generative AIを有効に活用出来ず新たな価値創出競争(協創)へとシフト出来ない既存企業は瞬く間に淘汰されかねないリスクに直面しているとも言えよう。
三由 優一/Yuichi Miyoshi
デロイト トーマツ コンサルティング、モニター デロイト所属。
大手SIer、外資系コンサルティングファームを経て現職。キャッシュレス領域や銀行・生損保・証券向け経営戦略・新規事業・DX支援、及び幅広い業種・業態の金融参入/強化戦略・実行支援における実績を有している。
現在は、Future of Finance OfferingをLeadしており、金融の将来像を追求している。
福屋 翔太/Shota Fukuya
デロイト トーマツ コンサルティング、モニター デロイト所属。
コンサルティングファームにて一貫してデータや高度アナリティクス、デジタルを活用した事業改革や業務改革に従事。データサイエンス領域に強みを持ち、官公庁および企業に対してエビデンスに基づき意思決定する仕組み・文化の導入を支援している。