Posted: 28 Jun. 2023 5 min. read

【最新トレンド】Generative AIが金融業界にもたらす影響 (後編)

Generative AIによるシンギュラリティの到来

Generative AIが金融業界に与える影響、および金融業界の将来像についてより具体的な活用ケースとともに考察してみたい。

先に述べた通り、金融・保険業は、事務量が非常に大きい業種であることを踏まえると、商品開発、マーケティング、営業、業務・システム運用(契約・取引、モニタリング等)、アフターフォローの在り方を大きく変える可能性がある。

 

 

Generative AIx商品開発

まず、商品開発においては、マーケット動向を把握するための市場調査業務の効率化が進むと想定される。現在は、人手をかけて、様々な外部のデータソースから情報を集め、加工・分析し、取りまとめる必要がある。情報収集ひとつとっても、外部の専門データ以外は、Googleなどの検索結果に表示された数多くのソースの中から、必要な情報がどれであるかを一つ一つ内容を確認しながら精査する必要があり、非常に骨が折れる作業だ。

今後は、ChatGPTに対して、特定業界や消費者などの動向について質問を投げかけることで、クイックに概観をおさえることが可能となるだろう。情報収集~加工・分析~取りまとめの一連のプロセスを一瞬で代行してくれるイメージだ。もちろん、商品設計に向けては、更なる深掘りや検証が必要となるが、どの領域に、どのような価値を訴求できる商品が求められているかの趨勢を見極めるフェーズにおいては、効率化の効果がおおいに期待できそうだ。

 

 

Generative AIxマーケティング

マーケティングにおいては、マス広告やデジタルマーケティングの制作業務を自動化するなど、広告代理店機能の一部内製化が進むと考えられる。TV CM、OOH(屋外広告)、YouTube等のインストリーム動画や、バナー画像などの制作において、広告代理店のクリエイティブチームが担ってきた企画、コピーライティング、グラフィックデザインがGenerative AIにより自動化される可能性がある。

言語化やイメージ画像入手の難易度はあるものの、金融サービサー自らがGeneretive AIを用いて、広告クリエイティブのドラフトを作れるようになることも想像に難くない。また、金融DXの潮流において、個人向けアプリや法人向けポータルサイトなど顧客接点がデジタル化するなか、ターゲット顧客に即した広告クリエイティブやコンテンツの出し分けに加え、顧客の反応を踏まえながら最適化していくことが求められるようになった。金融サービサー自身が有するファーストパーティーデータをGenerative AIのインプットとして投入することができるようになれば、オウンドメディアにおける広告クリエイティブやコンテンツを自動生成し、顧客反応を踏まえて、臨機応変に自動で最適化する世界が開ける可能性がある。

 

 

Generative AIx営業

営業においては、営業提案書や日報ドラフトの自動生成など事務作業からの解放による顧客向き合い時間の増大を始めとした付加価値業務へのシフトや、トークスクリプトの自動生成などを通じたNBA(Next Best Action)高度化による営業スキルの平準化を後押しすると考えられる。法人営業であれば、取引先の業界動向や関連ニュースをおさえ、経営者自身が気づいていないものも含め、足元・中長期的な経営課題を把握することが欠かせない。ローテーション人事によって、同じ法人営業担当のままであったとしても、担当業界や地域が変わることが往々にしてあり、前任者からの引継ぎや自力での調査を通じたキャッチアップは非効率さをはらんでおり、顧客にしわ寄せがいくこともあるだろう。

このようなケースにおいても、商品開発で述べたようなChatGPTの活用方法によって、Day0から一定の品質で取引先に対峙できるようになることが期待できる。リレーショナル・バンキングや証券・保険販売を中心にFD(フィデュ―シャリー・デューティー)の理念が叫ばれて久しいが、個々人の知識・スキルの差や、事務作業に忙殺されて時間を捻出できない状況が障壁となり、理想と現実のギャップが埋まらない事態に陥りがちであったが、根深い課題を解消する一つの切り札となる可能性を秘めている。

 

 

Generative AIx業務・システム運用

業務・システム運用においては、事務作業の効率化もあるが、システム開発プロセスの大幅な刷新が考えられる。例えば、取引先への融資実行判断に必要な稟議書や、業務運用モニタリングで使用される報告書を自動生成するなど、手間暇かかる事務作業が抜本的に効率化される余地がある。また、システム開発・運用においては、システムの制約がビジネスの限界になりがちな金融ビジネスにおいて、ChatGPTがもたらすノーコード革命・プログラミングの民主化により、現状を打開する一手となりうるだろう。

現在は、要件定義から開発・テストまで一連の流れをシステム開発ベンダーに頼らなければならない状況だが、ChatGPTによってプログラムコードやテストデータなどの自動生成が可能となるため、システム開発工程の多くが自動化される可能性がある。テキストや画像の仕様書を読み込ませるか、作りたいものを日常言語で指示すれば、プログラムが自動生成され、実行可能なシステムの初版が即座にできあがる。テストデータもChatGPTで自動生成し、エラーが発生した場合は、対処方法も指南してもらえる。

基幹システムへの応用には乗り越えるべきハードルがあると思われるが、アジャイル開発が適用できるシーンにおいては、システムベンダーのリソース制約に縛られず、コーディングの知識がなくとも行員自らがChatGPTを用いてシステムを開発し、ユーザーフィードバックを踏まえて、臨機応変に機能改善していくことも可能となるだろう。

 

 

Generative AIxアフターフォロー

アフターフォローにおいては、コンタクトセンターやインサイドセールスに関わるオペレーター業務の効率化・高度化、問い合わせにおける顧客体験の刷新が進むと考えられる。現在でも、COVID-19を契機に、コンタクトセンターのチャットボットやボイスボット(音声AI)による問い合わせ対応サービスの普及が急速に進んでいる。いずれもテキストか音声を通じて24時間365日、あたかもリアルな人間とやり取りしているような体験を通じて、問題解決できる価値を顧客に提供できる点が特徴であるが、あらかじめ設計した対話シナリオに沿った応答に限定される点が課題だ。

ChatGPTを用いれば、過去の応対履歴を元に、対話シナリオそのものも自動生成できるようになるかもしれず、更なる業務効率化や応対の品質向上、顧客体験の刷新に繋がる可能性がある。但し、精度の課題があるため、顧客に誤った回答をすることで甚大な影響を及ぼしかねない金融サービスにおいては、対外サービスとして使用するには慎重な判断を要する。人海戦術で回答精度の向上を図る手法もあるが、システム開発のパートで述べたテストデータの自動生成やエラー検出の自動化などの手法と組み合わせることで、対話シナリオの生成と回答精度の向上を自動化できる道筋まで立てられることができれば、金融でも広く活用される可能性がある。対外的なサービスへの活用までいかずとも、オペレーターの顧客応対をサポートするためのトークスクリプト、応対履歴の記録や対処方法ガイダンスの自動作成など、事務の効率化と応対品質の向上を同時並行で推進することが可能となるだろう。

 

 

Generative AIがもたらす未来

イーロン・マスクなどの世界的な権威が公開書簡に署名し、社会と人類に重大なリスクをもたらす可能性があるという理由で、GPT-4より強力なAIをトレーニングする実験を一時停止するよう促す動きも出てきており、改めて、AIがもたらす影響は、人知を超えたものとなる可能性を感じさせられる。正と負の両側面を構造的に抱えるテクノロジーであるため、社会に有用な価値をもたらすものとして発展させるために、まだまだ技術的にも、倫理的にも取り組まなければならないことは多い。いずれにせよ、我々の仕事を奪うものではなく、より付加価値の高い仕事をこなすための補助的なツールと位置付け、いかに使いこなすかの視点を持つことが重要となるだろう。

 

これまで述べてきた通り、Generative AIは金融業界の幅広い業務領域への活用が見込まれる。加えて、金融業界に特有の専門的知見・用語の理解が必要とされる領域において、汎用型Generative AIの処理精度を超える特化型Generative AIの開発例も出現し始めており、注目に値する。2023年3月末、米Bloomberg社は米ジョンズホプキンス大学との共同研究により、金融業界特化型Generative AIである「BloombergGPT」の開発に関する論文を発表した。本論文において、Web上に公開されている一般的な文書データに加えBloomberg社が保有する過去40年以上にわたる金融業界の専門文書を学習データとして活用することで、企業株価など、金融トピックの質問に対する回答精度が高いGenerative AIの開発に成功したことが報告されている。

今後、本事例のような業界・業種へ特化したGenerative AIの開発スキームが一般に普及すれば、特化型Generative AI市場が勃興する可能性もある。データホルダーおよびAIプレイヤーにとって、どの様なステークホルダーとエコシステムを構築するかが特化型Generative AI市場で主導権を握る鍵となる。金融プレイヤーにとって、自ら積極的にエコシステムを構成し特化型Generative AIの開発を主導するといった選択肢も今後益々重要になるであろう。

 

執筆者

三由 優一/Yuichi Miyoshi

デロイト トーマツ コンサルティング、モニター デロイト所属。
大手SIer、外資系コンサルティングファームを経て現職。キャッシュレス領域や銀行・生損保・証券向け経営戦略・新規事業・DX支援、及び幅広い業種・業態の金融参入/強化戦略・実行支援における実績を有している。
現在は、Future of Finance OfferingをLeadしており、金融の将来像を追求している。

福屋 翔太/Shota Fukuya

デロイト トーマツ コンサルティング、モニター デロイト所属。
コンサルティングファームにて一貫してデータや高度アナリティクス、デジタルを活用した事業改革や業務改革に従事。データサイエンス領域に強みを持ち、官公庁および企業に対してエビデンスに基づき意思決定する仕組み・文化の導入を支援している。

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