Posted: 16 Jan. 2023 2 min. read

モビリティX-誤解だらけのモビリティDX、SX~激動の時代を生き抜くために

自動車業界をはじめとするモビリティ産業はDXに加え、サスティナビリティ領域のトランスフォーメーション(SX)の真っただ中にある。DXをデジタル技術の導入や技術的に車をコネクテッド化することと捉える向きや、SXを再エネ化やEV製造と捉える向きもあるが、そうではない。DX及びSXは、新たな体験価値の創造、ビジネスモデルの変革を伴うトランスフォーメーションである。さらに異業種との融合が相まってDX、SXの変革は大きく加速する。この巨大な産業のうねりを伴う事象を「モビリティX」と呼び、その動向を捉えていくことが肝要だ。

先進事例としてテスラを紹介する。DXの観点でテスラは、走るスマホを標榜し、コネクテッド技術を活用した「進化し続ける車」の代名詞に既になっている。ある日突然、ソフトウエアアップデートによって自動運転で駐車ができるようになったり、車内でWifiが使えるようになったりしたことが話題になった。2021年に従来買い切りであったFull Self Drivingモードを、サブスクリプション課金する形に転換を行った。進化し続ける体験とそれに伴って継続課金にビジネスモデルを変更するDXの波が押し寄せている。加えて、SXにおいても脱炭素を追い風にEVへのシフトが進み、テスラの販売台数が2021年に90万台超と、同年の販売台数首位となった。しかも、テスラが推進するSXにおける優位性は単なるEVの製造や販売にとどまらない。その強みの源泉の一つが、異業種であるエネルギー産業との融合である。
 

テスラはあまり知られてはいないが、いち早くバッテリーと充電器の開発に力を入れている。2015年4月30日にはエネルギー子会社として、太陽光発電システム、蓄電池製品、その他関連製品・サービスを住宅や商業、産業向けに開発・製造・販売・設置するテスラエナジーを設立。さらに16年に当時住宅向け太陽光発電システム関連製品・サービス販売・設置のNo1企業であったSolar City(ソーラーシティ)を買収し、エネルギー業界での存在感を高めた。各種バッテリー(PowerpackやMegapackなど)の提供に加え、地域の分散型電源の開発やローカルでの電力需給最適化を行う需給調整システムAutobidderを開発し、これを家庭、産業、電力企業に提供している。EV普及の泣き所となる電力供給自体も手がけ、需要の調整も含めてコントロールする他社には真似できないモデルを構築しつつあるといえる[1]。また、すでにダイナミックプライシングを活用し、タイミングによって充電料金の価格調整を行ったり、充電タイミングのレコメンドを行ったりしている。電力需要が地域でひっ迫している際には充電の価格を上げ、電力供給が超過している場合には充電を促進している。EVの充電タイミングおよび蓄電池を活用して電力消費をコントロールすることは、地域レベルでの電力需給最適化を考えるうえで非常に有効な手段となる。

テスラ車が自動運転のロボタクシーで動き回っている世界を想像してほしい。電力供給に余裕があるときは多くのロボタクシーを動かし、できるだけ早く人を運べばよい。一方、電力需要が多く、電力供給がひっ迫しているときはテスラ自体をライドシェアサービス化し、社会全体として電力消費自体を減らすことができる。電力の状況に応じて、配車やシェアの仕方、マッチングの仕方をモビリティの運行によって変えられる。

 

テスラの例では、エネルギー産業とモビリティ産業の両方を手掛けているから双方の産業で優位性が発揮でき、また、DXを高いレベルで実現しているからこそSXも高いレベルで実現できることが分かるだろう。さらに視座を高め、DX、SXの本質を理解しつつ、CASEと呼ばれるC(コネクテッド)、A(自動運転)、S(シェアリング)、E(電動化)の4要素の技術革新が同時複合的に起こる産業革命期のインパクトを理解することが肝心だ。こういった社会全体の環境変化をとらえ異業種融合をよりうまく実現し、全く新しい体験価値を創造する「モビリティX」を実現する企業が急速に台頭する可能性がある。すでにAmazonやGoogleがモビリティに加え、住宅、ヘルスケア、生活関連サービスなどに複合的に進出し、モビリティ産業と異業種の融合を進めている。激動の時代が続く。

 

※モビリティXに関するより具体的な事例や詳細は、「モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質」をご覧ください。

 

1 GMもテスラのビジネスモデルの優位性から学ぶものは多いとして、2022年10月にGMエナジーという新しいビジネスユニットを立ち上げている。

 

木村 将之/Masayuki Kimura

木村 将之/Masayuki Kimura

デロイト トーマツ ベンチャーサポート COO / パートナー

2007年3月有限責任監査法人トーマツ入社。M&A、損益改善、KPI改善等の各種業務に従事。2010年より、スタートアップ支援と大企業のイノベーション支援に特化したデロイト トーマツ ベンチャーサポートの第2創業に参画。スタートアップ支援として、200社超の成長戦略、資本政策立案をサポート、数多くの企業のIPO実現に貢献。その後、大企業向けイノベーションコンサルティング事業を立ち上げ、現在は全社執行責任者を務める。Deloitte Asia Pacificのユニコーン支援セクターの代表(Deloitte Private Asia Pacific Emerging Growth Lead Partner)にも就任するとともに、スタートアップ共創からの利益を最大化する「ベンチャークライアント(Venture Client)」のリーディングカンパニーである27pilotsの日本リードパートナーも務める。 シリコンバレーと日本に拠点を置き、日本発で世界を席巻する事業を生み出すことに貢献することをミッションとして活動。脱炭素Expo2023, Automotive World 2019, Wearable Expo2022,2019-2017, AI Conference2017などでの講演等多数。経済産業省が主催するシリコンバレーの情報を発信するD-Labのメンバーであり、NEDO、経済産業省が主催した日経SDGsフォーラム特別シンポジウム「グリーンイノベーション基金で目指す、カーボンニュートラルな未来へ。」でも特別講演を務めるなどMobility、気候変動をはじめ幅広い分野で活動を行う。 主要著書 ・Mobility X(日経BP) ・株式公開ハンドブック(中央経済社) ・これですべて分かるIPOの実務(中央経済社) ・IPO実務検定試験公式問題集(TAC出版) ・実践財務諸表分析(中央経済社) ・財務情報の利用可能性と簿記会計の理論(森山書店) 関連するコンテンツ ・スタートアップ共創からの利益を最大化する「ベンチャークライアント(Venture Client)」とは? ・グローバルでのCVC活動成功の手引き ~シリコンバレーを中心とした先進事例から考える~ ・COVID-19環境下での事業転換イノベーション戦略 ・Withコロナ時代のイノベーション戦略 ・気候変動領域におけるイノベーション実態調査 ・第2回 気候変動(脱炭素)領域におけるイノベーション活動の実態調査 ・気候変動イノベーション、スタートアップに立ちはだかる「死の谷」 ・気候変動イノベーション、スタートアップを支えるエコシステム ・グローバルの半導体供給不足と今後の投資領域 (TMT Prediction 2022) ・オンライン診療 (TMT Predictions 2021) ・Tech Giant (TMT Predictions 2021)