Posted: 11 Apr. 2024 3 min. read

睡眠ビジネスの可能性 ~不眠大国から「睡眠クオリティ大国」へ

「世界睡眠デー」の3月15日、睡眠と音楽の可能性を探るイベントが都内で開催された。参加者はベッドで横になりながら、心地よく質の高い睡眠を実現するためにつくられた音楽を体験するというものだ。入眠準備や起床時間に聴く楽曲の提供や、睡眠における音楽の効果検証等、睡眠×音楽に関する様々な取り組みも発表された。

 


私はこのイベントから、「睡眠ビジネス」の広がりの可能性を感じる。

実は、日本は世界と比較すると睡眠時間が短い。OECDのデータ(2021年)では、日本人の平均睡眠時間(7時間22分)は各国平均(8時間28分)より1時間以上短く、かつ33か国の中で最も短いという実態*1もあり、日本人の睡眠のあり方が問われている。

 

しかし逆に言えば、睡眠の課題を解決できればビジネスチャンスにもなる。今回の音楽によって睡眠の質を高めるサービスもその一つになり得るが、これからの「睡眠ビジネス」は、「時間×質」のそれぞれの悩みを解決することで、衣食住のあらゆる産業に広がる可能性がある。

 

まず「時間」は、単なる“長さ”だけでなく、隙間時間の活用という“タイミング”や、入眠までの時間短縮という“スピード”も重要だ。

「質」については、深い眠りによる“睡眠休養感”を得られるかが重要だ。厚生労働省によると、睡眠休養感は「睡眠環境、生活習慣、日常的に摂取する嗜好品、睡眠障害の有無などのさまざまな要因」*2により影響を受けるため、眠りやすい住環境(温度・湿度、音、暗さ、香り等)や、衣類、食品、デジタル機器、リラクゼーションなど生活全般に関わるアイテムやサービスに工夫の余地がある。

 

例えば、隙間時間の活用アイテムとしては、オフィス用の仮眠ボックスがある。小型の電話ボックスほどの大きさで、オフィス内で立ったままの姿勢で短い睡眠を取ることが可能だ。また、B2B向けのサービスとして、寝具メーカーが睡眠に関する知見を活かし、企業向けにオフィス内の快適仮眠環境をプロデュースしている。他にも、B2C向けにはマッサージや香りを通じて仮眠を促すヘッドスパもある。

入眠時間短縮のアイテムには、就寝直前用に使うと香りのリラックス効果がある美容液や、音・光・香りでリラックスさせるデジタル機器がある。

質については、着て寝るだけで疲れがとれるリカバリーウェアや、スッキリした目覚めを促す機能性表示食品、睡眠中のバイタルデータとカーテンや家電が連動するスマートホームなど、まさに衣食住の分野で様々な商品やサービスが生まれつつある。

 

従来のビジネスは「起きている」状態での消費活動をターゲットに考えがちだが、これからは「寝る」という行為においても商機がある。とりわけ日本には、より良い睡眠を促すためのソリューションを生み出すニーズは十分にある。

これからの日本が、不眠大国から、睡眠の豊かさを高める「睡眠クオリティ大国」になってゆく展開に期待する。

※本稿は、2024年3月15日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。

 

脚注・参考文献:
*1 OECD, Gender data portal 2021: Time use across the world
*2 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024年2月)

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関連リンク:
デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)
デロイト トーマツ グループ『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』

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松江 英夫/Hideo Matsue

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デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 社会構想大学院大学 教授 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)