Posted: 07 May 2020

「スマートシティ化」された世界に向けたB2B製造業の進化

生き残り、稼ぐための「コト売り」シフトの道しるべ

「コト」売りシフトの必要性と現状

「スマートシティ」化された世界で、B2B製造業はどう戦うか。

まず、「スマートシティ」化された世界について概観する。
都市は、それぞれ固有の課題を抱えている。少子高齢化、生産人口の減少、地域産業の衰退等。この解決に向けた取り組みが、現在語られる「スマートシティ」である。「都市OS」と呼ばれるIoTプラットフォームが、自治体の保有する情報、市民の情報、センサー群が生み出す各種公的なデータ(交通情報等)を収集、課題解決のためにデータを活用したサービスが生み出される。結果として、市民のQoL(生活の質)向上、地域において尖った産業の出現と集積化、当該地域への観光客の増加、といった新たな価値がステークホルダーに還元される。

こうした世界で、B2B製造業が生き残るための重要な手段の1つは、「コト」売り化だろう。「モノ」売りのみを続けていれば、「コト」売りプレイヤー(「市民」に対峙するB2C企業等)の下請けとなってプレゼンスを失うリスクが高い。一方で、全ての企業がIoTプラットフォーマーを目指す必要はないし、なることもできない。

現在までに「コト」売り化は、どこまで進んだのか。そして、このままの方向性で「スマートシティ」化する世界に備えられるのか。製造業に「コト」売り化を意識させる大きなきっかけとなったIoT、そしてサブスクリプションというキーワードとともに、「コト」売りシフトの現状を整理したい。
IoTやIndustry4.0といったコンセプトの普及当初、モノの稼働状況の可視化自体を目的とした動きが散見された。そこに顧客価値の視点は乏しく、過度な自前主義(既製品を使わず、自社開発)やクローズド思考(自社のモノにしかつながらない)に陥った結果、「つながる」サービス自体の収益化には十分に至っていない。
他方、「コト売り」で稼ぐための救世主として、サブスクリプション型収益モデルがブーム化している。だが、何に対する対価なのかということについて深い検討が必要だろう。単なる「モノ」売りの月額課金化にとどまってしまっては、分割払いという金融的なメリットを除いて、何ら顧客にとって新たな付加価値を生み出すものではない。

では、「コト売り化」を成功に導く秘訣は何だろうか。B2Bを前提に以下考えてみたい。「コト」をきちんとデザインすることと(=IoTでどのようなサービスをするのか)、「どこで稼ぐか」をあらかじめ設定すること(=どのような課金モデルにするのか)、という2つがポイントとなるだろう。

 

成功の秘訣1:「コト」のデザイン

「モノ」から発想すると、「モノ」のデータを使って「できる」ことを考えてしまう。すると、自社の「モノ」の状況を可視化すること以上の発想は生まれない。顧客視点の発想が必要だ。
自社の「モノ」は顧客の業務の一部を担っているにすぎない。顧客は、多くの「モノ」を組み合わせて業務を行っている。
顧客のビジネスの目的を理解した上で、つなぐ範囲を広げることで、顧客業務の全体をカバーできるようになる。結果として、顧客業務全体の効率化、高度化(=顧客の「現場」をまるごとスマート化)に貢献することができるだろう。
顧客が「スマートシティ」化する世界で、どのような都市・社会課題を解決しようとしているか、それを起点にその顧客に対して、どのような「コト」を提供できるか、という視点が重要だ。

 

成功の秘訣2:「どこで稼ぐか」

「モノ」のデータをとることは、コト売り化への第一歩ではある。しかし、「モノ」は売ってしまえば顧客資産であり、顧客資産から勝手にデータを抜きとることは不可能である。従って、顧客に対し、データを提供してもらうだけの理由(=メリット)を提供する必要がある。要は、「与える」サービスだ。そのうえで、「稼ぐための」サービスを構想する必要がある。「保有」「利用」「成果」のいずれで対価をとるのか。「モノ」も同じ扱いとするのか、「モノ」自体はあくまで売り切りなのか。様々な選択肢があり得る。

 

「コト売り化」の進化のステップ

以上の2つの論点を踏まえると、「コト売り化」に向けては、次のような進化のステップを検討していくこととなるだろう。

  1. つながる「モノ」を作り、「モノ」が生み出すデータから何らかのサービスを提供する
  2. つなげる範囲を広げ、顧客業務全体の効率化・自動化・省人化を目指す
  3. 「 モノ」のみならず、様々なデータをつなぎ、顧客の事業機会を最大化する

ここで重要なのは、3. から、しかも「スマートシティ」化される世界を前提とした上での絵姿から考えるべきということである。1. からの検討では、プロダクトアウトの発想になってしまう。先に述べたとおり、すべての製造業が(IoT)プラットフォーマーを目指す必要はない。そのレイヤーは、巨大ICT企業や強力なグローバル製造業系(IoT)プラットフォーマーによる「都市OS」のスタンダードを目指す激しい戦いの場である。プラットフォーム同士のゆるやかな連携(APIによるデータ連携など)のみならず、M&A等による大規模化も考えられる。そのような競争に入るよりも、「使えるものは使う」の発想で、既存プラットフォームを活用しつつ、自社の「コト」を提供するにあたって必要な重要機能のみを開発するほうが得策であろう。
むしろ、顧客の事業機会(売上増/利益増)を最大化するパートナーとなるための「コト」の開発・提供にフォーカスすべきである。そして、このサービスにおける新たな「課金モデル」に工夫を重ねるべきである。

すべてがつながる世界感の中で、貴社は、どのような「コト」を提供し、どこで稼ぐか。ここを考えぬくことが、この先に生き残るための進化のポイントになるだろう。

 

※本稿は2019年10月に執筆しています

 

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執筆者

鈴木 淳/Atsushi Suzuki

鈴木 淳/Atsushi Suzuki

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

重電・重工業界、航空業界、産業機械業界の製造業および商社を中心に、サステナブルを見据えた事業戦略、DX戦略、オペレーション・IT改革、事業統合等、広範囲なコンサルティングサービスを手掛けている。 外資系コンサル、IT系コンサルを含めて長年業界リーダーとして活躍。 関連サービス ・産業機械・建設(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ