Posted: 07 May 2020

災害対策としてのスマートシティ

「防災・減災」と「事前復興」における活用

日本における自然災害

近年の日本においては、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年の西日本豪雨等、甚大な被害をもたらす自然災害が高頻度で発生している。阪神・淡路大震災では、死者・行方不明者が約6,500人、経済的損失が約9.9兆円、東日本大震災では、死者・行方不明者数が約23,000人、経済的損失が約16.9兆円といった被害があった。

自然災害は、人命に加え、地域経済、住民の生活基盤、都市インフラ、行政機能に対して、甚大な被害をもたらすことになり、復旧・復興には莫大な時間と費用が必要となる。こうした災害の被害をどれだけ極小化するのかという「防災・減災」と、どれだけ短い期間で、効率的かつ効果的に住民の生活基盤等を整え、「復興」を成し遂げるかは、今後も高確率で発生が予想される南海トラフ地震などを考慮すると、日本において避けては通れない課題といえる。

 

「事前復興」の重要性

復興とは、災害前の状態に戻すことではない。被災地は、災害と同時に、大量の住民がその地で暮らすことを躊躇することもあり、急激な人口流出というマイナスを背負いながら、復興を進めなくてはならない。元の賑わいを取り戻すためには、単に災害前の産業を復旧するだけではなく、既存産業の枠組みを超えて、新たな産業やイノベーションの創出を進める必要がある。いわばマイナスをプラスに変える取り組みである。そこまで辿り着いてはじめて、持続可能な形で復興を成し遂げたといえる。

デロイト トーマツは、数々の復興支援の取り組みの結果、災害からの「復興」に対して、以下の4つの要素が重要であると考える。

  1. 以下2. ~4. の対となる地域固有の産業、および新たな産業の創出としての「産業の復興」
  2. 住民の働く場を提供する事業の再生、経営人材の育成等の「ひと・企業の復興」
  3. 人と人とのつながりをつくる「地域コミュニティの復興」
  4. 人々が暮らしていく中で必要となる生活に係る「インフラ・ハードの復興」

復興事業において、4. インフラ・ハードは現状把握や復興進捗がわかりやすいが、1. ~3. においては現状把握に多大な時間と費用を要し、進捗の把握も困難である。インフラ・ハードに比べて、「地域コミュニティ」、「ひと・企業」、「産業」といった要素は可視化しにくいものであり、平時においても実態を正確に把握することは困難であるといえる。

このような課題に直面する災害復興の現場では、「事前復興」の重要性が注目されている。万が一の災害に備えた地域の実態をつかむための情報収集、および、限られたリソースを適切に配分するための計画策定がその中核をなす。こうした「事前復興」の取り組みが、スマートシティ構築の起点となる可能性を提起したい。

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「防災・減災」と「事前復興」へのスマートシティの活用

スマートシティを「防災・減災」と「事前復興」へ活用するということは、前出のインフラ・ハード、コミュニティ、ひと・企業、産業等に係る動的・静的情報を統合的に管理し、その情報をつなぎ合わせ活用していくことを指す。こうした取り組みを実施することで、災害の被害を極小化する「防災・減災」と、効率的かつ効果的な「復興」が実現可能であると考える。

例えば、「防災・減災」という観点では、行政が持つ詳細な地勢情報、各種インフラに設置されたセンサーからのリアルタイム情報、テレマティクス情報、来街者や住民の情報(人数、位置、人流データ)等を組み合わせ、適切な避難場所の割り当てや誘導を実現する仕組みが挙げられる。

また、「復興」という観点では、災害により、ひと・企業、コミュニティがどれだけ被害を受けたかを、各種データや住民からの情報提供に基づき正確に把握することができれば、復興の早期着手、打ち手の優先順位付けが可能になり、効率的かつ効果的な復興が可能になる。被災した企業やコミュニティにおいて、誰が何を考え、どのように復興を進めようとしていて、今何をしているのかといった情報の共有が進むことで、復興の加速化、産業の再生が期待できる。具体例として、エネルギー利用の最適化や設備の共同利用や、AIを活用した被災地が必要とする店舗・サービスの診断等が挙げられる。

このように、災害の被害を最小限に抑えつつ、効率的かつ効果的に復興を実行するためには、スマートシティ化により、被災前からインフラ・ハード、コミュニティ、ひと・企業、産業等に係る情報を整備し、被災後に官民の垣根を超えた情報共有を進めることが、今後発生する災害を乗り越える最善の策となり得るのではないだろうか。

※本稿は2019年10月に執筆しています

 

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執筆者

橋本 正博/Masahiro Hasihimoto

橋本 正博/Masahiro Hasihimoto

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

米国系及び日系コンサルティング会社を経て現職。業務実行支援、業務改革、PMO等のコンサルティング支援に多数関与。 福島県の復興事業のリード、及び近年は、公共セクターの自治体や独立行政法人を中心にSaaSを活用した業務改革などの幅広いコンサルティングサービスに従事。 関連サービス ・政府・公共サービス >> オンラインフォームよりお問い合わせ