Posted: 14 May 2020

スマートなエネルギーインフラの実現

 

分散化する発電・蓄電リソース

脱炭素の取り組みが先行する欧州では再生可能エネルギーの導入が進み、大規模な発電所から一方的に送電するモデルから、太陽光発電や風力発電が様々な場所に分散しエネルギーが供給される構造に変わりつつある。
再生可能エネルギーは自然の力によって出力が左右される電源であり、供給エネルギーに占める割合が増すほどその不安定性への対策も同時に規模が大きくなる。太陽光発電の設置が進んだ米カリフォルニア州では昼の時間帯と夕方から夜の時間帯のピーク時の差が激しくなる現象(ダックカーブ)が顕在化し、火力発電ではカバーしきれない分を蓄電池の設置で対応する仕組みを作ろうとしている。
また、脱炭素に向けてガス・石油からの「電化」も進められており、その代表格として電気自動車(EV)が挙げられる。近年は主要な欧州の自動車メーカーが電化の推進をこぞって表明するなど将来的にEV・PHEV(プラグインハイブリッド)が増えることが想定されており、これは同時に家庭などに接続される「動く蓄電池」が増えると見ることもできる。
このように様々な発電・蓄電リソースが分散配置される状況に伴い送配電事業者には双方向のエネルギーインフラへの対応が求められており、再生可能エネルギーの普及に伴うスマートグリッドへの投資額は今後増加すると予測されている。

 

スマート化する需要

発電側の不安定性を吸収する仕組みとして期待されるのは、需要側がグリッドの状況に合わせて消費量をコントロールする仕組みである。近年ではVPP(ヴァーチャル・パワー・プラント)として国内でも実証実験がいくつも実施されている。
この考え方自体は以前から存在したが、IoT技術の進化と低価格化により、従来の見える化や通知を経て人が操作するモデルから、リアルタイムかつ自動で需要を細かくコントロールすることが可能な時代へと変わってきている。

 

発電・蓄電・消費をコントロールするリアルタイムデータ

グリッド全体で再生可能エネルギーの不安定性を吸収するスマートグリッドの仕組みで最も重要な要素はデータである。2000年代からスマートメーターの設置が世界で進んだが、取得される30分値は遅れてデータセンターに送られるため、秒単位でのレスポンスが必要とされるVPPへの適用は難しい。最近では短い間隔で電力の変化を捉え使用家電を推測する「ディスアグリゲーション」の技術が出現するなど、よりリアルタイムで細かいデータがスマートグリッドを支える時代を迎えつつある。

電力データ×他業界の組合せによるサービス

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電力会社のビジネスモデルの変化

このようなスマートなエネルギーへの転換は、大電源を建設し送配電網を介して一方的に供給するビジネスモデルから、様々な事業者が分散して発電するエネルギーを双方向で融通し、そのオペレーションのためにメーターの向こうにある蓄電池や需要側の機器使用を最適化することが求められる姿に変化していくと考えられている。

 

エネルギー企業の態度の変化

こうした再生可能エネルギーや蓄電池、VPPなどで構成される未来のエネルギーの方向性は見えてきたものの、最も難しいのはそれが「いつ」実現するかである。不確実性だらけで変化に長い時間がかかる中で経営判断することはリスクが伴う。しかし、欧州のエネルギー企業を見ていると、以前の変化に受け身で対応する態度から、自身のビジネスモデルを壊しかねないスタートアップへの投資や買収、異業種との協業を積極的に進めるなど、今では多くのエネルギー企業が変化をリードする姿勢に転換してきているように見受けられる。

 

スマートシティを支えるエネルギーとデータ

スマートシティをあらゆる場面で支えるエネルギーは、その安定性が強く求められる一方、再生可能エネルギーという不安定なリソースの活用を強いられるという二律背反の状況にある。日本の送配電網は世界と比較してもその安定性など最高のレベルにあるが、その細部まで張り巡らされ多重化されたシステムであるが故に、スマートグリッド時代への対応には多くの設備コストや複雑性が待ち構えているとも考えられている。
しかし、先述のようにスマートなエネルギーインフラを実現する主役はデータであり、既存の設備を活用しつつデータの力で再生可能エネルギーを最大限活用するスマートなグリッドはエネルギー業界で最も大きなデジタルトランスフォーメーション(DX)のチャレンジと捉えることができる。
同時にその取り組みにおいて取得されるデータはエネルギーの最適利用だけでなく、生活やビジネスに活用することも想定され、そういった視点を持つことがポイントとなると考えられる。
また、エネルギー企業は安定性を重視し計画を重んじる文化であったため、不確実性が多く計画がしづらい状況への対応は新たなチャレンジになる。これからは未来を「予測し待つ」のではなく未来を「自ら創る」企業としてDXを進めスマートシティをリードする役割が期待されている。

※本稿は2019年10月に執筆しています

 

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執筆者

小島 類/Rui Kojima

小島 類/Rui Kojima

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

電力・ガス業界のインダストリーコンサルタントとして15年以上の経験を持ち、戦略立案やオペレーション改革、システム導入支援など幅広いプロジェクトに携わる。 特にスマートメーターやCIS、マーケティング(CRM/Web)など配電・小売分野での戦略からシステムまでの一貫した知見に強みを持つ。 近年はデロイト グローバルと連携しエネルギー企業のデジタルトランスフォーメーションの実現に向けた各種サービスをリードしている。 関連サービス ・エネルギー >>オンラインフォームよりお問い合わせ