Posted: 14 May. 2020

持続的観光を実現する産・官・民連携の方向性

観光を着手点とした地域版スマートシティの可能性

4,000万人来訪時代の持続的地域観光を実現する産・官・民連携の方向性

日本では、「明日の日本を支える観光ビジョン」において、2020年に訪日外国人旅行消費額8兆円(訪日外国人旅行者数4,000万人・消費単価20万円)、2030年に同15兆円の実現目標を掲げている。同目標達成に向け、先進観光コンテンツの造成や対外PR施策など、多種多様な政策が動員され、右肩上がりでの増加を続けている。
一方、上記のような状況の中で、訪日外国人旅行者を実際に受け入れる観光地、すなわち地域の状況はどうだろうか。

観光目的地で来訪者に提供される体験(観光サービス)は、地域固有の資源として地域に内在する観光資源を呼び水とし、その地域資源を活かしつつ、地域住民が職住同地でサービスを提供するという特性を持つ。
そのため、観光来訪者の急激な増加は、地域にとって観光収益の増加という恩恵をもたらす一方、生活環境の悪化というマイナス(観光公害)を同時にもたらす可能性をはらんでおり、価値観や文化の異なる来訪者の野放図な増加は、その可能性をさらに加速させ得る。

インバウンド4,000万人時代を迎えるにあたり、観光地における地域生活と観光来訪者双方の充足を実現した「持続的な観光」を実現するためには、エージェントが一方的に地域に旅行者を連れてきた上で大きな収益を得ていく現行モデルから脱却し、地域自身が、自地域の地域生活とのバランスの中で招くべき来訪者の質・量を決め、観光受入のあり方を主体的に定義する必要がある。

その具体的手段として、SROI(社会的投資収益率)およびインパクトマップを導入し、地域の生活環境に係る社会的便益を定量・可視化し、観光収益といった経済的利益のみに偏らない、地域の「観光受容の最適点」を模索する取り組みが必要と考える。

そして、その司令塔役として、特定の地域において、中立的な立場から観光に関わる多様な主体との俯瞰的な交流・交渉が可能で、かつ同地域の盛衰が自らの存在価値や事業収益と連動する、すなわち利害関係を共にするプレイヤーとして、各地域に設立されたDMO(Destination Management/Marketing Organization、観光地域づくり法人)や、鉄道をはじめとする交通事業者、電力やガス等の公益事業者等が期待される。

それらのプレイヤーが来訪者を受け入れる民間事業者・行政・地域住民=産・官・民の3者の中間に中立的に位置し、それぞれの便益や利益の極大化に向けた来訪者の質・量両面におけるマネジメントと受入環境整備を牽引することが求められる。

デロイト トーマツでは、その先駆けとなる試みに着手しており、地域住民の地域生活環境に対する満足度を継続調査し、来訪者の増加・観光地としての進化が、地域住民の生活満足度と並行して実現されているか否かを検証するメカニズムの導入を試み始めている。

政府が旗を振り、地方創生のメインテーマとして各地が掲げている観光来訪促進であるが、その持続性を担保し、長期継続的な発展を遂げるためには、それらプレイヤーを司令塔に据えた新たな産・官・民連携が有効と考えられる。

 

産・官・民連携の先にある地域版スマートシティモデル

観光を軸とした産・官・民連携のあり方の実現・定着・進化のためには、地域における観光来訪動向、観光収入動向、渋滞発生等の地域の負荷状況や地域生活に対する住民の満足度の状況等、複数の動向や状況を定期的に把握・可視化し、産・官・民の3者による最適点模索のためのインプットを提供することが不可欠である。

その地域における把握・可視化メカニズムを、必要なテクノロジーも駆使しつつ、地域内の様々な観光動線やその周辺居住地を対象に形成していくことで、観光を基軸とした地域版スマートシティモデルが確立され得るのではないだろうか。その確立の先には、例えば、地域住民があえて環境負荷を受け入れて観光収入を極大化することで自治体税収の増大に貢献する一方、自治体側がそれら地域住民の生活インフラの整備や社会保障に厚みを持たせる等、弾力性のある地域経営への進化も可能だろう。

観光動線には、観光施設や宿泊施設に加え、地域内の二次交通や飲食店、物販店といった地域住民の日常生活上の動線と重複する要素が数多く存在している。観光振興は、全国各地の自治体が遍く掲げている産業振興テーマであることから、地域版スマートシティ形成の着手点たり得ると考えられる。

※本稿は2019年10月に執筆しています

 

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執筆者

高柳 良和/Yoshikazu Takayanagi

高柳 良和/Yoshikazu Takayanagi

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 アソシエイトディレクター 

 

米森 健太/Kenta Yonemori

米森 健太/Kenta Yonemori

有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 

パブリックセクターのプロフェッショナルとして、「持続可能な地域経営・まちづくり」をテーマに、官民連携による地方創生・地域活性化のプロジェクトに多数従事。PPP/PFIやPFS/SIB、エリアマネジメントといった領域のほか、デロイト トーマツ グループにおけるスマートシティやツーリズム関連のビジネスをリードしている。公認会計士。