「違い」は「違い」のままでこそ価値がある ~UNESCO加盟記念日に考える文化多様性について~ ブックマークが追加されました
1951年7月2日に日本がUNESCO(国連教育科学文化機関)に加盟したことから、7月2日は日本におけるUNESCO加盟記念日とされており、今年でちょうど加盟70年目を迎えた(*1)。
「世界遺産」のイメージも強いUNESCOであるが、教育、自然科学、人文・社会科学、文化、情報・コミュニケーションの5つの分野における国際的な協力や支援が主軸であり、教育格差の解消といったSDGsと関連する取り組みや文化多様性条約の採択など、その活動領域は幅広い。
文化多様性条約は正式名を「文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約」といい、2020年時点で150近くの国・機関が批准しているが日本は批准していない(*2)。それに対し「日本の文化には多様性がないから批准が難しい」という声もあるようだが、果たして、日本の文化には多様性がないのだろうか?
デロイト トーマツ グループでは目に見える多様性・目に見えない多様性すべてがInclude・Respectされる環境作りを推進している。「目に見えない多様性」のひとつである「文化」の違いに関しても重要視し、全社横断で「Cultural Inclusion」というワークショップを展開している。「ビジネスにおける文化や価値観とは何か、それらの『違い』が『違和感・すれ違い・ギャップ』になってしまうのはなぜか、そしてどうすればよいのか?」を全員が我が事として考察し、異文化適応力を高めることを目的としたものだ。比較文化論のフレームワークも活用しながら、あらゆるビジネスシーンで発生しうる「文化的な理由によるちょっとしたすれ違い」のエピソードを多用し、その構造や解決方法を深堀する。
たとえばあなたがチームメンバーへの業務説明をした際、「おっしゃっている意味が理解できません」と言われたらどう感じるだろうか?
直接的な表現が多いとされる「ローコンテキスト」と呼ばれる文化・コミュニケーション手法を取る人であれば、「ではもう一度説明します」となり、お互いが理解一致するまで説明がなされる為、時間はかかったとしても「違い」が「違和感・すれ違い」には比較的なりにくいとされている。
一方で、同じ共通認識を持っていることを前提とし婉曲的な表現も多い「ハイコンテキスト」と呼ばれる文化・コミュニケーション手法を取る人の場合、無意識的に言外の意味の推察が働き、「おっしゃっている意味が理解できません」という言葉が(あなたの説明は非常に不明瞭でわかりづらい)と脳内変換されることもあり、結果「(内心一寸カチンとしながら)それはすみません」との返答に至るかもしれない。この場合、チームメンバーは単に再説明を欲したのに相手(あなた)は何やら不快感を示しながら謝罪をしてくるという結果をもたらし、言葉は通じたとしても文化の「違い」が「すれ違い・違和感」になってしまい、これが積み重なることでお互いに「あの人はどうも話が通じず、一緒にやりにくいな」と信頼関係にも影響を及ぼす。
本ワークショップではこれ以外にも評価や信頼関係の構築など、あらゆる切り口で発生しうる文化的な違いを構造的に学び、同時に自分の文化や価値観の相対的な棚卸をしながら、最終的に現在の組織における文化的課題と絡めて考えることで、文化の「違い」を信頼関係の障壁ではなく組織の多様性・強みにしていくための意識付けやアクションプラン策定につなげている。
冒頭で述べた文化多様性条約に関しては批准に向けた動きも各所で発生しているが、「日本の文化には多様性がないから批准が難しいのだ」という一部の意見は必ずしもそうとは言えない。
前述のワークショップの中で参加者それぞれの文化・価値観の棚卸をすると、所属部門や職位、前職など、あらゆる要素によって非常に振れ幅が大きく、同じ日本語話者であっても実に多様性に満ちていることがわかり、参加者からも「同じチーム・同じ職位の人間でも、さまざまな価値観の違いや多様性があることを実感した」という感想や、「違いを『強み』とすることこそが、当グループが誇る多様な観点からのサービス提供につながることを改めて確信した」という声が多く挙がっている。
そもそも、文化庁における「文化」の定義(*3)では、慣習・民族・言語・宗教・思想などに加え、「価値観」という構成要素も大きいとされており、価値観はこれまでの経験や出身地、周囲の人間や環境など、個々人が当たり前に「違い」として擁するものの掛け合わせといえる。そして、それらが個々の「何が良くて何が良くないのか・何が当たり前で何がそうでないのか」などを判断する基準軸となるともいえるのだ。
つまり人の数だけ価値観が存在し、それらが文化の重要な構成要素を担っている以上、どの文化も「多様性」や「違い」に満ちているという考え方もできる。そういった違いを一人ひとりが理解し、「違い」を「違い」のままで認め合うことが新たな視点を呼び、ひいてはイノベーションやクリエイティビティの源泉となりうる。それこそが、「違い」を「価値」にするというダイバーシティ&インクルージョンの真髄に繋がり、ビジネスや組織における強みにも繋がるのである。
*1 UNESCO: 日本のUNESCO加盟70周年を記念して
「Diversity, Equity, & Inclusion(DEI)」を自社と顧客の成長を牽引し、社会変革へつなげていくための重要経営戦略の一つとして位置付けているデロイト トーマツ グループにおいて、様々な「違い」を強みとするための施策を、経営層と一体となり幅広く立案・実行しているプロフェッショナルチーム。インクルーシブな職場環境の醸成はもちろん、社会全体のインクルージョン推進強化に向けて様々な取り組みや発信を実行。 関連するリンク デロイト トーマツ グループのDiversity, Equity & Inclusion