世界メンタルヘルスデーに考える、「メンタルヘルスの多様性」 ブックマークが追加されました
Well-being社会の実現を目指しているデロイト トーマツ グループでは、メンタルヘルスを含む、一人ひとりの心身の健康が最重要事項のひとつだと考えています。また、メンタルヘルスをより自分事化できることを目的に、当グループでは2023年1月から全メンバーを対象にメンタルヘルス研修を導入している他、メンタルヘルスに関するウェビナー等も積極的に開催しており、世界メンタルヘルスデー(*1)に関するイベントとして、社内向けのメンタルヘルスイベントを開催しました。
健康に留意していても風邪をひいたり怪我をしてしまったりすることがあるように、心の健康状態が変動することは誰にでも起こることを踏まえ、大室産業医事務所 代表 大室 正志 氏をゲストとしてお招きし、大久保 理絵(Chief Talent Officer、DEIリーダー)と共に、メンタルヘルスが私たちにとって身近で大切なことであることを改めて共有しました。
(*1)世界メンタルヘルスデー:メンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め、偏見をなくし、正しい知識の普及を目的として、毎年10月10日に定められた国際記念日
※所属・肩書・氏名などはイベント開催当時のものです。
(以下、ディスカッション概要 ※一部抜粋)
大久保:コロナ禍もあり、ここ3年くらい環境変化が激しくメンタルヘルスにも影響が大きかったように感じています。生きている以上、脳の疲れやメンタルヘルス不調への不安は避けられないのでしょうか。
大室:そうですね。最近の環境変化のみに関わらず、生物によってどうしても弱いところってあるんですよ。特に現代人は、パソコンやスマートフォンを使用して多くの情報を送受信しながらご自身の脳で処理・消化することまで求められています。その結果から得られるメリットも非常にたくさんありますが、同時に脳に負荷がかかりメンタルヘルス不調を発生させやすい環境ともいえます。これはもう二足歩行による進化の過程で発生した腰痛と同じく、宿命的な部分と言えるかもしれません。二足歩行の人類に腰痛が生じやすいように、「メンタルヘルス不調は現代社会を生きる人類にとって、切っても切り離せない」と思って私たちは生きていくのが良いと思います。
大久保:なるほど。飛び交う情報の量と速度が大きく向上することで脳が頻繁に緊張状態になり、結果の一つとしてメンタルヘルス不調が生じやすいのかもしれないと思いました。
緊張といえば、自分の苦手な人や自分のことを怒る人と過ごす時間以外にも、知らない人が近くに居るとか、知らない人と何かワークする時間など、様々な場面で「自分は今、緊張状態なんだ」って認識する機会があると思うのですが、こうした「自分の状態を客観的に自覚する」ということは、メンタルヘルスの維持にとって何か有効なのでしょうか。
大室:まず、客観的に自分のメンタル状態を自覚することは大切です。人類の体のスペックは、20万年もの間、大きく変わっていません。スマートフォンに例えると、最新版のアプリがどんどんインストールされているのに、脳は初期型のスマートフォンのままの状態です。体が進化していないのに、インストールされるアプリが日々増え続けて重たくなっている感じなんですよ。
人類の体の進化速度とイノベーション速度のバランスが一致しておらず、その歪みとして生じていることの一つが、メンタルヘルス不調だと私は思っています。だからメンタルヘルス不調になることは、現代社会を生きる私たちにおいて何も特別なことではありません。
再びスマートフォンに例えるなら、なるべくバッテリー残量が減らないように、アプリをたくさん同時に立ち上げない・こまめに充電するなど、日々バッテリー残量を少し気にしながら過ごすことが大切だと思います。
※画面右・大室 正志 氏、画面左・大久保 理絵
大久保:メンタルヘルス不調を防ぐには、断続的な緊張状態を過ごしがちな日々において、心身に現れるサインをちゃんとキャッチしましょうっていうことですよね。そしてメンタルヘルス不調の経験の有無やメンタルヘルスが強いか・弱いか、という話ではなく、人類の体の進化速度とイノベーション速度のバランスの不一致から生じる、いわば現代社会そのものと切り離せないものであるということだと理解しました。
大室:メンタルヘルス不調というのは様々な複合要因によって生じます。その複合要因の中で、この事象は自分にとってストレスが少ない、でもこの事象はストレスが大きい、というのは誰にでもあります。簡単に「メンタルの強い人 / 弱い人」みたいに分けられず、相性によるところも大きくて、今回のシチュエーションでは相対的に耐えられる環境、こういうシチュエーションだったら相対的に耐えられない環境、みたいなものだと思います。正直、今は複雑化された変数の中で私たちは働いているので、誰でもメンタルヘルス不調になる可能性はある、というように私自身は考えています。
大久保:例えばどんな事で、メンタルのバランスは揺らぐのでしょうか。
大室:To Doが溜まった・特定のことが気になって眠れない等の状況が続くと、そもそもパソコンを開けるのが怖いとかメールを見るのが怖い、というようになることがあります。
大久保:そういったことは私自身も経験があるのですが、そういう時はどうしたらいいのでしょうか。何かできる対策はありますか?
大室:対策としては2つあります。
まず1つめは、To Doの蓄積による業務・心理的負荷によってタスク対応が困難な心境になることへの対策です。パソコンで例えると、Excel・Word・PowerPointをたくさん同時に開いた場合、動作がどんどん重たくなりますよね。これはご自身のメンタルにも言えることで、マルチタスクをしようとすると、人間の体は初期型のスマートフォンですから、アプリを多くインストールしたとしても同時に処理しきれないんです。マルチタスクといっても、それはシングルタスクの繰り返しですから、まずはたくさん同時展開しているTo Doを1つずつ順番に対応するように変え、なるべく1度で同時に対応する処理範囲を少なめに進めていくことが、外部環境でストレスをためない方法ですね。例えば、メールなどの比較的小さなTo Doを蓄積させず、上手に処理するハック的なものです。
そして、2つめに大事なのが、休息・休養です。生活の中でメンタルヘルス不調の割合が増えてきた場合、それに伴って休息・休養の占める割合を増やしてくのが良いと思います。
大久保:コロナ禍によって、リモートワークが日本社会でも広がりました。オンラインの会議でもビデオオフが続き、人と顔を合わせない事が多くなる中で、元気だと思っていた人が急に休職になってしまうというケースも発生していたりします。COVID-19感染拡大以降、デロイト トーマツ グループでも在宅勤務が中心となっているのですが、周囲の人ができることについて、アドバイスはありますでしょうか?
大室:もちろん1on1の時間などしっかり話せるタイミングで感じ取れるのが一番良いのですが、オンラインだとどうしても、対面で仕事をしている時よりも変化に気付きにくいのはあります。リモートワーク下の休職は、周囲の人にとって突然のように感じがちです。例えばメンタルヘルス不調の予兆として、徐々にメールの返信が遅くなるとか、コミュニケーションが少なくなるとか、少し提出物が遅くなることなどがあります。こうした予兆に気付けるのが一番良いのですが、人によっては無理して頑張って頑張って限界まで取り組んで力尽きてしまう場合もありますので、「必ず気付けるようにする」というのは難しい。
1on1でうまく自己開示できる方であれば悩みや不安を話してくれる方もいらっしゃいますし、多くの企業がサーベイで定量的にストレス度合を測っています。目に見えて少しずつ段階的に不調気味になる人であれば気付きやすいのですが、やはり気付きにくい人も正直いらっしゃいます。
大久保:自分から悩みや不安を自己開示したり、場合によっては大室先生にご相談したり、EAP(*2)など外部相談を通じて客観的に自分のメンタルヘルス状態を見てもらう、知ってもらうというのは大事ですね。話しても解決しない、理解してもらえない、と門を閉ざしてしまうのではなく、自分から発信することで自分自身では気付いていなかったメンタルヘルスの状態に気付き、自分も周囲も何か改善に繋げられるケースがあるかもしれないですよね。
(*2)EAP :Employee Assistance Program。所属するメンバーが無料で専門家(臨床心理士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタントその他多数)のコンサルテーションやカウンセリングを受けられる外部相談窓口による支援制度・サービス。デロイト トーマツのEAPは心理学や行動科学の観点から個人や企業に解決策を提供して、職場の生産性を向上させることを目的としており、仕事・プライベート、トピックの深刻度に関わらず、広範囲の相談が可能となっている。
大室:そうですね。日本ではもう少し誰かに自分の今の状態や置かれている状況を話すということをしても良いように思います。私が以前聞いた事例をひとつご紹介します。上司が気を利かせ、元気がなさそうと感じた部下の机の上にカウンセリング(EAP)のパンフレットを置いておいたそうです。すると、席に戻ってパンフレットに気付いた部下が更に元気をなくしてしまったのです。上司としては、良かれと思っての行動だったわけですが、突然かつ、直接の対話を避けての無言でのアプローチであったことから、一種のミスコミュニケ―ジョンへと繋がってしまいました。部下からすると、間接的であっても急な展開ですし、メンタルヘルスが低下していると、元気なときには気にならなかった些細なことでも自己否定と繋がってしまう場合もあり、間接的な思いやりや気遣いがすれ違い、裏目に出てしまった事例だと感じました。
大久保:なるほど。今の事例を踏まえて、一緒に働いている仲間の中に自分から見ればメンタルヘルス不調の予兆があると思う人が居る場合、その人にどうやって声を掛けるのが適切でしょうか。
大室:全ての人が該当するわけではありませんが、多くの人はメンタルヘルス不調について話されると、心を閉ざすことが多い印象です。もしメンタルヘルス不調かなと思う人がいたとしても、先程までにお伝えした体とメンタルヘルスの連動を思い出していただき、体を中心としたお話をするのが良いと思います。例えば最近疲れてないかとか、日光を浴びているかなどの話の方が聞き手も受け入れやすいと思います。ただ注意点として、体の症状から話を始めたとしても、「最近疲れてない?もしかしたらメンタルヘルス不調かもしれないから、メンタルクリニックに行ったらどう?」と伝えると、プライドの問題もあり心を閉ざしてしまうケースが多くあります。まずは体の話として症状や習慣などを聞きつつ、心配しているという気持ちを伝えるのが良いと思います。
大室:体を少しでも動かすとか外出するとか、悩み事があれば人に話してみるとか、ちょっとした習慣が大事です。もちろん、本当に辛い場合は私が産業医として個別の診察をすることもできます。
大久保:セルフケアを意識しつつも、時には客観的な視点を取り入れるためにもEAPや医師、周囲の方に相談してみるのも大切ですね。本日のお話を伺って、人の心は変化するものであり、メンタルヘルス不調が誰にでも起こり得るということを改めて認識できました。貴重な時間をありがとうございました。
デロイト トーマツ グループのShared Values(共通の価値観)の一つに、「Take care of each other:一人ひとりを尊重し、公平性の確保、互いの成長と幸福追求に向けて配慮し助け合う」というものがあります。特にメンタルヘルスの不調は目に見えなく、自分自身でも気が付きにくい課題であり、皆で意識し、協力しながら関心を高めていくことが必要なテーマです。デロイト トーマツ グループでは、メンタルヘルスは変動するだけでなく、多様性があることも認識し、これからもインクルーシブな環境づくりを推進していきます。
「Diversity, Equity, & Inclusion(DEI)」を自社と顧客の成長を牽引し、社会変革へつなげていくための重要経営戦略の一つとして位置付けているデロイト トーマツ グループにおいて、様々な「違い」を強みとするための施策を、経営層と一体となり幅広く立案・実行しているプロフェッショナルチーム。インクルーシブな職場環境の醸成はもちろん、社会全体のインクルージョン推進強化に向けて様々な取り組みや発信を実行。 関連するリンク デロイト トーマツ グループのDiversity, Equity & Inclusion