Posted: 21 Jul. 2022 4 min. read

AIサービスを提供するベンダーが見た企業の取り組み

AI活用に向けた課題とヒントとは

デロイト トーマツ グループは、企業におけるAIの利活用状況やリスク管理・ガバナンス構築の実態調査を目的とし、AIガバナンスに関するサーベイを実施しています。3回目となる今回は「人材」と「データ」にフォーカスをあて、AI利活用を推進するための情報を提供することを目指しました。そこで、AI利活用が進んでいるユーザー企業や、AIサービスをユーザー企業に提供するベンダー企業に、座談会形式でお話を伺います。

—まず、サーベイの結果からご紹介します。

サーベイの結果を見ると91%の企業でAIを利活用しているという結果が出ています。POCの実施比率が向上し、本番運用している企業も増えているということが分かりました。

特徴的なのは、「新規ビジネス創出」での利活用が伸びているということ。特に研究・開発領域での伸長が顕著です。

一方、人材不足が問題になっています。戦略立案やプロジェクトマネジメント、エンジニアなど多くの分野の人材が不足し、その確保のために育成強化や採用強化を図っている企業が増えています。

不足する人材
※クリックまたはタップして拡大表示する

 

データに関しては、「課題を感じているが対処できていない」という問題が出てきているようです。また、AIプロジェクトのPoC開発を実施する上で標準化・整備の状況を伺ったところ「特に整備していない」という回答が7割を占めました

標準化・整備の状況
※クリックまたはタップして拡大表示する


ABEJA古川:人材不足、特にプロジェクトマネジメントやエンジニアが足りていないという点は当社も同じです。我々はベンダーなので、戦略立案などの人材は揃っていますが、回答している企業が事業会社の場合、戦略立案の人材もいないというのは納得できる結果ですね。

 

AnyTech櫻井:「標準化を整備していない」という回答がありましたが、開発費を捻出する際には、将来を見通すケースも多いと思います。回答される方が複数に亘っているため、そういった回答も出てくるといった認識でしょうか。

 

ABEJA古川:ベンダーの立場からですが、お客様のAIプロジェクトの多くはトップダウンで取り組まれています。そのため、社内ルールというより個別判断しているということではないでしょうか。

HEROZ井口:標準化については、難しい部分も多いですよね。データの取り扱い基準が制定されているのかという点では、肌感覚としてはかなり低いと感じています。

 

tiwaki阮:私もアンケートに答える人の立場に大きく関係すると思います。たとえば、現場と法務とでは答えられる内容が異なりますよね。標準化については、法務の人を中心にアンケートを取ることで、より明確になるのではないかと思います。

 

■AI活用のステージを上げるために必要なこと

—今回のサーベイでは、AIの活用を「ステージ」という考え方で捉えています。たとえば、PoCも本番運用もしていない企業は「ステージ0」、PoCは実施したものの本番運用していない企業は「ステージ1」、本番運用に至っているのが「ステージ2」、PDCAを回し標準化を実施できている企業は「ステージ3」というように分類しています。ベンダーの立場から、これらのステージが上がっていくために必要なことやアドバイスなどがあれば、お願いします。

AI活用ステージ
※クリックまたはタップして拡大表示する

 

HEROZ井口:まずは、それぞれのステージの割合を教えていただけますか?

—ステージ0が40%、ステージ1が21%、ステージ2が23%、ステージ3が16%となっています。

HEROZ井口:想定していたより均等に分かれているのですね。気になっているのが「データが足りないと認識しているけれども対応できていない」という企業の存在です。サーベイの結果を見るとStage2の全ての企業が「データの品質管理や整備がされていない」と認識しているにもかかわらず「対応できていない」と答えています。本番運用しているのに、なぜそのような状況になっているのでしょうか。

ABEJA古川:「どうしたらいいのかよくわからない」ということなのではないかと思います。たとえば、AIを広げていきたいけど他の案件では使用できないというケースがあります。そういった企業が「対処できていない」と答えているのではないかと推測します。1つ取り組みをしてみて、2つめ、3つめの取り組みをしていこうとしたときに、データが足りていないことが明確になり、課題として顕在化したのではないでしょうか。

HEROZ井口:確かに、作りやすいところから取り組むということはありますよね。そういった状況は確かに起きていると思います。

 

—皆さんがサービスを提供しているお客様は、どのようなステージが多いですか?

HEROZ井口:お話しがくるのはステージ0やステージ1の状態の会社が多い印象です。「使ってみたい」というケースもあれば、「自前で頑張ってみたけど無理だった」とケースもありますね。失敗しているケースを見ると、データの品質に問題があることが多い。品質が悪いため、結果としてうまくいっていないのです。

tiwaki阮:我々もステージ1のお客さんが多いですね。その中で気になっているのが、「技術的には実現できるけど、予算がない」という企業です。これは、会社の体制の問題が大きいのだと思います。

たとえば、国内企業は予算を非常に細かく管理しています。年次の予算は年度毎に策定していますが、それとは別に都度審議を行っています。たとえばPoCが終わったら、本番運用のための予算の承認が必要になりますよね。こういった仕組みはとても複雑ですし、そのたびに別の人がレビューをすることになります。そのため、PoCを検討・実施していた時とは異なる観点でレビューすることも多く、次のステップに行けないというケースが多いと感じています。

HEROZ井口:本番運用が決まっていないケースでPoCを実施するケースもあるのですか? PoCの成果をうまくアピールすることで、次のステップに移行していくことも可能ではないかと思うのですが、どうなのでしょうか?

tiwaki阮:某大手企業の場合、本番運用が決まっていない状態でPoCを実施するケースもあります。数百万円の予算でPoCを実施し、本番運用の前に再度議論を重ねているというのが実状です。個人的な意見ですが、次のステージに上がっていくためには戦略を立てる立場の人たちに技術系の人材の割合を増やすことが重要なのではないかと感じています。現場は技術系の人ばかりなので、PoCの成果について同じ言語で話すことができますが、レビュワーは、技術系の人が少ないため、話がかみ合わなくなることが少なくありません。PoCの成果についてもピンとこない人が多いのではないでしょうか。こういった人材の問題も大きいのかなと感じています。

 

—標準化の判断基準が整備されていくと、それらの課題は解決されていくと思いますか?

tiwaki阮:たしかに標準化が進めば解決されていくかもしれません。しかし、レビュワーの多くはKPIやROIといった数字で判断するケースが多いため、AIの「ポテンシャル」についてはあまり議論されていない印象です。AIは、今日投資しても明日リターンがあるといったものではありません。そういった意味では、新しい技術を評価するのは難しく、大きな問題かもしれません。

ABEJA古川:確かに、KPIやROIのような従来の評価方法をAIに適用してうまくいくかどうかは疑問ですね。そもそもROI自体が主観的な部分が多く、人によって評価の内容にばらつきがあります。会社の技術の将来的発展はROIに入れにくいものが多いという印象があります。

AnyTech福田:AIを入れるということが目的化しているケースも多いですよね。「DXをしないといけない」といった謎の使命感から行う取り組みはうまくいきません。なぜ現場がAIを使うのかを分かっていなければデータも集まらないし、予算もまとまらないからです。

 

tiwaki阮:それは当社でも感じています。DXという波に乗ろうとして色々取り組んでも、それが「何のためなのか」を分かっていないケースは本当に多いですね。

「こういったことをしたいけれども、この技術は使えるのか」という相談であればお答えできるのですが、「AIをやりたい」「画像を解析したい」という相談をされても回答に困ってしまいますからね。

そういった観点からも、やはり上層部の人たちが「技術」を理解することはとても重要です。たとえば、ある技術の精度が60%だったとしても、使えるケースはありますし、精度が99%だからといって必ずしも素晴らしいということにはなりません。その勘所が分かると、ステージを上げていこうといった判断もしやすくなるのではないでしょうか。

ABEJA古川:そういったケースでは、企業が足りていない人材を考慮し、たとえば「戦略」と「企画」も含めて見てあげるといった取り組みも有効だと思います。企業とベンダーとで役割分担することで解決することもあるでしょう。

 

—ステージ1からステージ2に至る段階ではいかがでしょうか。戦略・立案の人材が不足しているから難しいと感じられていますか?

AnyTech福田:AIに対する期待が大きすぎるのではないかと感じています。夢を抱きすぎて失望しているケースもあるのではないでしょうか。

AnyTech櫻井:そういった観点では、現場とビジネスを橋渡しできる人材の有無が重要なポイントになります。たとえば、データが足りないときに現場に駆けつけることができるなど、社内を横断的に動ける方が必要ではないでしょうか。

森:確かに現場とビジネスとをつなぐ人材が必要というのは仰るとおりだと感じます。データサイエンティストでもエンジニアでもない新しい職種が必要になっているのでしょう。

たとえば海外では、データを管理する専門部門「データスチュワード」といった新しい職種も生まれています。データスチュワードは、ビジネスを理解しつつ、データサイエンスやAIの要諦を押さえ、社内のデータをファシリテートするポジションとなります。成功している企業を見ていくと、データスチュワード的なポジションの人材が必ずいます。そういった認知を広げることも重要かもしれません。

ABEJA古川:仰るように、データスチュワード的な人材は、ステージ2やステージ3の企業にはたしかに存在していますね。それ以前のステージにはそういった人材がいません。データスチュワードといった存在が重要なのかもしれませんね。

AnyTech櫻井:新規事業開発は1つの部門だけでは完結しません。現場で何が課題になっているのかといった社内情勢に詳しいだけでなく、必要なデータの収集や企画といった泥臭いことができる人材がプロジェクトチームにいるだけで、プロジェクトがグッと推進されます。

ABEJA古川:案件を牽引する人材がいる企業はステージを上がりやすい気がします。しかし、そういった人材をどうやって育成していくのかという問題はなかなか解決できません。

tiwaki阮:大きい企業になれば組織が多くなります。それらを横串で横断できる人材は本当に重要です。様々な企業で業務改革が進んでおり、横串で横断できる人材は増えていますが、権限という観点でいうと踏み込めていないと思います。権限がなく、予算もないということも課題だと思います。

 

——AIのリスクマネジメントの未来についてはいかがでしょうか。

HEROZ渡邊:AI利活用のリスクを把握できているかを考える以前の問題として、AIの利活用目的の整理や課題の明確化ができていない状況と考えます。そのリテラシーを高める必要があると感じています。


ABEJA古川:
リスクの認識や対処のアンケート結果を見ると、「安全性」や「契約」で20〜30%前後の企業が対処できていると答えています。しかしこのあたりは私自身の肌感覚とは大きく剥離しています。この深掘りについても知りたいですね。

AnyTech福田:確かに、肌感覚としてはここの数字ほどできていないというのが実感ですね。AIが進んでおらず、リスクにさらされていないというのが実状ではないでしょうか。このあたりについても、デロイト トーマツさんやJDLAさんなどの情報発信や国に対する意見出しなどに期待していきたいですね。

 

—ありがとうございました。

AIガバナンスサーベイ

Deloitte AI Instituteが2021年下期に実施した「AI利活用促進に関するサーベイ」の結果をレポートにまとめ、PDFデータを公開しています

 

■レポートの内容(目次)

p.03 序論
p.04 エグゼクティブサマリー
p.05 AIの利活用状況
p.07 AIの利活用を阻害する課題
p.10 AI固有のリスク識別・コントロール状況
p.12 業種別詳細分析
p.15 結論
p.16 付表

 

デロイト トーマツからの参加者

プロフェッショナル